虹色あぢさゐ 🌈

上月くるを

第1話 白紫陽花のかなしみ




 6月は雨と紫陽花あじさいのシーズンですよね~。

 両者の関係は、持ちつ持たれつみたいです。


 カンカン照りの空に紫陽花は似合いません。

 雨が地を潤し、それを植物が吸い上げ……。


 人間界にはきれいなこと、そうでないこと、いろいろな出来事が起きていますが、ありがたいことに、太古の昔から繰り返されて来た宇宙の法則に乱れはありません。


 それこそ雨が降ろうが槍が降ろうが(笑)、人間どもが縄張り争いで蹴散らそうが大地はあっけらかんと自分の役割を果たして来たのですよね。えらいえらい。(*'▽')



      🎭


 

 ところがここに、自分というものに大きな不満を抱いている木が一本ありまして。

 初々しい若緑の葉っぱに真っ白な丸い花毬はなまりがなんとも可愛らしいのですが……。



 ――ああ、つまんないな~。(-_-)zzz

   せっかく紫陽花に生まれたのに。

   あたしだけ、なぜ色味がないの?



 言われるところの白紫陽花しろあじさいは、そう言って深々とため息ばかりついているのです。

 別名を七変化と言われるぐらい色が変わる紫陽花なのに、自分はなぜか白いまま。


 ほかの紫陽花とちがっていることに気づかなかったころは、まだよかったのです。

 天から与えられた命を瑞々しく咲かせられることに素直に感謝していましたから。



      🎒



 ところが、ある朝、坊ちゃんをからかう、通学友だちの声が聞こえて来たのです。

「おまえんちの紫陽花、シケてんな。ずっと白のまんまで、変わんないのかよ、色」


 とつぜんのイジワルに坊ちゃんは困ったように笑っているだけです……というのもおとなしい性格のうえに、白紫陽花ならではの純白を愛しんでいてくれましたから。


 でも、白紫陽花はカッとして頬を染めました(のつもりが、白のまんま(笑))。

 自分のことならまだいいのです、あ、自分のことですが、そういうことじゃなく。


 大好きな坊ちゃんが自分のために肩身を狭くしている事実が堪えられないのです。

 ごめんなさいね、坊ちゃん、わたしのために朝からかなしい気持ちにさせて……。


 白紫陽花は涙をこぼしましたが、シトシト降っている雨にまぎれてしまいました。

 忍び泣きながら白紫陽花は、こんな変わった種類に生まれたことをはかなみました。


 

      😢



 あらためて隣のお宅の紫陽花を見てみれば、紫露草、月見草、桜草、蛍袋などたくさんの花を独り占めしたみたいに水色、黄色、桃色、紫色が散りばめられています。


 わたしだってこんな退屈な白のままじゃなく、華やかな色に変化して、みんなに「わあ、きれい!」と褒めてもらいたいのに、ひとりだけ除け者なんてずるい……。


 白紫陽花は自分というものがひどくみじめに思われて来て、丹精して育ててくれているおうちの方に申し訳なくて、いっそ、このまま枯れてしまいたいと思いました。



      🌈



 通学や通勤の時間帯が過ぎると、住宅街は急にひっそりとして静かになりました。

 白紫陽花は雨だか涙だか分からない水滴に濡れた顔を、そうっと上げてみました。


 すると、どうでしょう! 西の山にきれいな虹が架かっているではありませんか。

 分度器をなぞったような美しい半円が七色に重なり、まるでお伽の国の橋みたい。


 思わずほおっと見とれていた白紫陽花は、さっきよりもっとかなしくなりました。

「虹さんだって、あんなにたくさんの色の持ち主なのに、このわたしときたら……」


 いまや白紫陽花の心は色のことだけでいっぱいで、ほかのことは目に入りません。

 ねえ、お空の虹さん、わたしに一色でもお裾分けしていただけないかしら。('_')


 嘆きっぱなしの白紫陽花は、雨が上がって薄日がさしていることも気づきません。

 ただただ、きれいな色でお化粧してもらえない、わが身をはかなんでいるのです。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る