閑話 様々な人による学園祭の様子④

【魔法少女リリー】


 私ももう三年生。騎士コースの魔法ゼミに入って魔法を研究しているわ。

 アサシン、いや、レイシアから言われた指導法。魔法を科学と合わせて説明するために、科学理論を勉強しているのよ。


 あの子おかしい。いえ、誉め言葉よ。先輩に聞いても先生に聞いてもそんな事考えたことがないって言うんだもの。


 だから私は独学で勉強中。だって、目の前で見せられたらしょうがないじゃない。実際後輩がそれでできるようになったんだもん。


 私は二属性。威力が四分の一。だったら底上げするのに何かしないと!

 さらに土魔法は学園長に止められているし。


 何かできないか考えているのよ。誰にも内緒で。

 人に被害を与えず、剣や鎧だけ無力化できないかな。


 そう思ってひそやかな研究をしているの。


 でも今日は学園祭! やっと三年生で模擬演習を一般に披露できる。先生からも風魔法を見せつけてやるように言われている。


 火と水しか役に立たなかった時代は変わるのよ! 


 私が風魔法を披露すると、演習場を見に来た王族や高位の貴族の方々が驚きと興味を持っていたと、あとで先生が教えてくれた。




【ナノ】


 久しぶりの学園をリィア、いや作家イリアと歩いている。シャルドネ先生がたまには顔を出すようにとレイシア様から伝えられたからだ。

 シャルドネ先生に会うならイリアも一緒にいた方がいいだろうと、無理やり誘ったんだよ。

 キラキラしたところなんか行きたくないと言っていたけど、これから戯曲を書くなら学園祭とパーティーはちゃんと見なさいって言ったら渋々ついてきたね。

 学生の時は身バレが嫌で出ていなかったって言ってたし。パーティーは歌劇にはよく出るシチュエーションだからね。


 うん、みんな若いね! そうだね。ボクも歳取ったわ。あ~、若いっていいよね。


 取り合えず、シャルドネ先生に顔を出そうとゼミの教室に行った。どうせいつも通りすいているんだろうと思ったんだけど。


 ここよね。え? 廊下まで人がいっぱい? って言うか並んでいるの?

 10人出てきて10人が入る。案内しているのレイシア様⁉


「あ、イリアさんにナノさん。今二人しかいなくて手が空かないの」

「忙しそうだね。シャルドネ先生に会いに来たんだけど」


「先生はサチと一緒に学園長の所に行っています。開会式でいろいろあったので。ゼミは本当は4人いるんだけど、アルフレッド王子は生徒会だしナズナさんはステージに行ったし。イリアさん、見に行ってあげて下さい。イリアさんが来るの楽しみにしていました」


「ナズナかぁ。あたしに纏わりついてくるのよね。悪い子じゃないんだけど」

「だれだい? リィア」

「ああ、シャルドネゼミの後輩。歌手を目指しているのよね」

「ふうん。先生もいないのなら見に行こうか。ステージ発表か。懐かしいな」


 歌手か。プロになるなら伝手かコネがものを言う世界だからな。シャルドネゼミにいるってことはそれがないんだろうね。下町のドサ回りみたいな所に行くなら別だけど。


 きっと出番は昼のどうでもいい時間だね。一番お客が減った頃。今から行けばちょうどいいや。


 レイシア様に後でまた来るよと告げ、ステージを見に行った。



 この子、いいかも。


 キーが広い。低音がしっかりと響いている。歌詞の理解と感情表現もかなり出来ている。っていうかちゃんとした先生に習っていないせいか、解釈が独特だね。

 うん。面白い。


 画一的な正解のある古典曲。誰の歌を聞いても先生の指導のせいで同じに聞こえてしまうクラシック。権威っていうのはいいところもあるけど発展性はないのよね。

 いいじゃない、その解釈。心情をきちんと乗せることもできている。


 何より、言われたことをやるだけのお人形じゃない。


 歌詞という物語を読み込み、咀嚼して、自分の物に仕立て上げている。リィアの側にいたせいか? 物語っていうものを理解できている。


 役者でも少ないのよね。読み込もうって思ってやる子。


 演出していて、セリフの意味を考えることのできない役者って本当に多いの。「嫌い」ってセリフに愛情を乗せられないような役者がどれだけいるか。


 頭使えよ! 文脈読めよ! 行間読めよ! ここにいない役者を思い出してイライラした。


 うん。この子センスありそう。背が高いし細身だから男役ハマりそうね。鍛えたらいい所まで行きそうじゃない? 何なら執事喫茶にぶち込めないかな。


 後でレイシア様に相談しよう。演技力は鍛えればいい。


 やはりシャルドネゼミは人材の宝庫だね。OGとして鼻が高いよ。



【ポマール】


 開会式はゼミの代表としてレイシア君に任せて、僕はゼミの教室で最終のチェックをしていた。ナズナ先輩はステージ発表の準備。スカウトが来るかもしれない最後のチャンスだから快く送り出した。どうせ毎年暇なシャルドネゼミの教室。時間になったら鍵を閉めて、レイシア君と応援にいってもいい。アルフレッド君は生徒会で忙しいから、僕とレイシア君とで対応すればいいだろう。シャルドネ先生も頻繁に顔を出すと言っていたし。


 そう思っていたんだ。


 レイシア君が帰って来た早々、開会式で王女様が帝国の皇子にプロポーズをされたと報告してくれた。シャルドネ先生となぜかレイシア君のメイドが学園長から呼び出され、王様交えて話し合いが開かれているそうだ。


 なぜレイシア君のメイドが? 

 

 よく分からないまま、それでもまあいいやと思って準備をしていたら、廊下に人が並び始めた。


 え~と、どういうこと?


「私とポマール先輩の発明品が、一部貴族で大評判なのです。それに、アルフレッド様の発表もありますし。この分だと二人では捌けませんね」


「……どうしよう」


 想定外だ! シャルドネ先生もいないし! 話すの苦手だし!


「とりあえず、10人ずつ入れましょう。5分で入れ替えします。先輩は魔道具の説明。私はアルフレッド様のレポート他を受け持ちます。後はお菓子で誤魔化しますから頑張りましょう!」


 僕より出来る後輩がいて良かった。頷いてレイシア君の言う通りにすることにした。



 シャルドネ先生に色々止められたから、今日見せる魔道具は送風機一つ。風の魔石で風を送るだけのもの。火の魔石と組み合わせて髪を乾かす道具を作るための前段階のもの。でも、こう暑いと、これだけでも需要がありそう。風が心地よいんだ。


 中に入ってきた人たちに風を当てると驚かれた。欲しいという人もたくさんいたが、原理を話して興味を持つ人は本当に少なかった。


 よかった。


 原理を理解するのは本当に難しいし、10分で説明なんてできない。女生徒は、レイシア君の髪に興味があるようだ。アルフレッド君との関係が気になっているようだ。ボクも聞かれたが、付き合っている様子はないし、ライバルみたいで張り合っているといったら、キャーってさけんで嬉しそうだった。


 レイシア君がクッキーを一枚ずつ渡すから、それを目当てに来る生徒もいた。


 何度も並び直し、僕と魔道具について話し合う大人もいたけど、そんなのは2~3人だ。ナズナ先輩のステージに行くのは無理だな。そう思った時、アルフレッド君が来た。


「一時間時間空けたから、手伝います!」


 気持ちは有難いけど、女子生徒が色めき立っているよ! キャーキャーうるさい! さらに人が集まってきた!


 レイシア君から「先輩、今のうちに休憩してください」とお弁当を渡された。


 確かにここで昼飯を食べないとチャンスが無くなる。そう思って、ありがたく休憩に入った。



 桜の木の下のベンチでレイシア君から貰った弁当を開けた。握り飯と腸詰め、それに卵を焼いたものが入っていた。


 僕のために作ってくれたのだろうか。


 おいしい。レイシア君のフワフワのパンもおいしいが、米のなんとおいしい事か。


 柔らかな歯触りに塩の辛さ。おまけに中に入っている魚の身が口の中で踊る。腸詰めはそこらで売っている肉だけの味でない。ハーブや香辛料をふんだんに盛り込んだ爽やかさを感じる。付け合わせのピクルスがまたいい! レイシア君の温かい料理は絶品だが、冷めた料理でここまでおいしい料理が出てくるとは!


 レイシア君はどれだけの才能の持ち主なんだ。


 僕は、レイシア君の商会に誘われている。僕みたいなコミ障な者がレイシア君のような前途洋々とした才能に絡んでいいのだろうか。


 だけど、レイシア君の邪魔にならないのなら。レイシア君の役に少しでも立てるのなら。


 レイシア君が望むなら、できるだけの事をするのもいいかもしれない。

 僕を認めてくれた数少ない恩人。レイシア君のために生きていくのはありだ。


 いつまでも休んでいられない。レイシア君と休憩を変わらなければ。


 教室に戻り、レイシア君に休憩を取るように言った。桜の木の下がすいているといったら、「じゃあそこで食べてきます」と出ていった。



 アルフレッド君と二人の教室で、来客に対応していた。レイシア君が休憩に入りクッキーを配るのが終わりと告げると、列が大分少なくなった。


 僕に説明を求める人は減り、アルフレッド君目当ての女子がほとんどになった。


「そろそろ生徒会に戻る時間じゃないか?」


 僕がそう言うと、並んでいた女子が「え~」といいながら僕を睨んでいた。


「そうですね。大分落ち着きましたし、レイシアが帰ったら戻ります」


 アルフレッド君はそういったが、僕は知っている。レイシア君のご飯が食べたいんだろう。今行けば、レイシア君はなんだかんだ言いながらも食べ物出してくれるぞ。


「いや。大丈夫。……食事まだだよね。桜のベンチで……」


 うまく伝わったか? アルフレッド君は爽やかな顔で「ありがとうございます!」と言って、駆け出した。


 アルフレッド君は生徒会長として気が抜けない。少しくらい休憩時間を持たないと。

 レイシア君となら、気兼ねのない時間を過ごせるだろう?


 女子生徒がいなくなって、初めて出来た静かな教室。いつものシャルドネゼミの発表ってこうだよな。と安堵の息を吐いた。

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