閑話 法衣子女の文学サークル
もうすぐ夏休み。私達の文学サークル「子猫たちのおやつ」の例会も、前期で最後になりました。現在、メンバーは二年生が6人、一年生が3人の9人で行っています。全員女性ですの。メンバーはこのようになっていますわ。
二年生
ミッチ(会長ですの)
チーノ(私ですわ)
ノリア (絵も描く読み専ですね)
アイカ(作家志望です)
カーリ(趣味で短編書いています)
リリミ(この子も趣味で書く子ね)
一年生
ミイア(大人しい読書家さん)
チリカ(ミイアの親友。読書はこれからかな?)
ノエリ(書きたがってるのかな。頑張ってね)
後輩も入って、内輪だけの読書サークルではいられなくなりました。本格的な文学サークルとして学園祭で発表をするつもりです。
最初は、レイシア様のお茶会で盛り上がり作られたこのサークル。そう、いまだにあの素晴らしいお店『黒猫甘味堂』には訪れることができません。平民街へ行くのは私達には荷が重すぎるのです。伝え聞くところによると平民街は女子には非常に危険な場所だと噂されていますから。好奇心で下町に行き、連れ去られたり、売られたりされた方もおられるそうです。
あのお店は、町から離れた所にあるので平民街の中でも比較的安全な所にあるのでしょうか? レイシア様にお聞きしたいのですが、身分と学年の差がありすぎます。
一年生たちが行きたがっているのです。私もまた行きたいのです!
なんとか場所を特定したいのですが、平民街については謎だらけなのですよ。
話がずれましたね。
私達は本を読み感想を言い合う仲間同士の穏やかなサークルです。もちろん一番人気はイリア・ノベライツ様のラノベ『制服少女』シリーズです。私達は素敵なお話だと考察を繰り返しておりました。
今年の春、入学式の時です。私達は見てしまいました。王子と制服を着た女子生徒が桜の木の下で語り合っているのを。
それは『制服王子と制服女子~淡い初恋の一幕~』のワンシーンとそっくりでした。桜の舞い散る木の下で二人きり語り合うというシチュエーションも、話しているセリフの内容も似ている。
それ以来考察の仕方が変わりました。
『制服王子と制服女子~淡い初恋の一幕~』は何とレイシア様と王子様が初めて出会った時の事件をもとに描かれたお話だったのです。これは三年生以上の方はほぼ知っているということでした。
なんてことでしょう。目の前に小説のモデルがいたのです。それもレイシア様⁈
そして驚いたことに、春に見た女子生徒は聖女コースに通っている男爵家のご令嬢でありました。
しかもですよ、成績は一年生で並ぶものなしのダントツの一位。一年生ながら生徒会員として、常に王子様の側で働いているのです。
一方レイシア様も王子様と同じゼミに通うご学友。二年生の時は王子様とAクラスで二人きりで授業を行っていました。聞くところによると、貴族コースのダンスでは、毎回王子様とレイシア様がペアを組んでいたそうです。
二冊の本と二人のヒロイン。これはどういう事なのでしょう。
イリア様に憧れて「作家を目指す」と言っているアイカや、「自主で作品集を作ろう」というカーリやリリミが盛り上がって二次創作なるものを書き始めました。それぞれ解釈が違って面白いのですが、不敬に当たらないか心配です。
ノリアが「だったら私が絵をかきましょう。薄い本にします?」とか言っておりますが、何ですか、薄い本って。え、私は知らなくていい? 仲間外れは嫌ですよ。
話がそれました。
私達は学園祭に向けて、イリア・ノベライツ様の制服少女シリーズを10倍深く読むための考察をパネル展示と簡単なプリントにして発表することにしました。今日の例会はここで終わりです。
◇
休み前の最期の例会でしたので、私達は少し値は張りますが人気のお店『マイム』へと向かいました。行けるものなら『黒猫甘味堂』へ行きたかったのですが、仕方ありません。予約も取ってありますし、初めての店で緊張しつつも、楽しみに店の前まで来た時です。
一台の馬車から王子様が降りてきたではありませんか! しかも、あの制服聖女様をエスコートしています。
いつも制服で王子様の隣にいる聖女様が、今日はドレスを着て身だしなみを整えています。二人仲良く、VIPしか入れない入り口から入って行ったではありませんか。
デートなのでしょう。きっと。凄い現場を見てしまいました。最近発刊された『制服王子と制服女子~許されざる恋心・二幕目~』のデートシーンにそっくりです。私達はしばらく動けませんでした。
「ねえ、今の」
「うん」
「そっくりだよね」
「「「ウワー」」」と大きな声でみんなが叫びました。ええと、恥ずかしいから早くお店に入りましょう。私は興奮しているみんなを、とにかくお店に連れ込みました。
さすが良いお店です。予約をしていたので個室に案内されました。個室ですよみなさま!
コースで予約していたので、お店の人が少し確認をすると私達しかいない空間でさっき見た光景を沢山話しました。
それも料理が来たら収まりました。そう、私達はここの料理を食べに来たのです。
このお店『マイム』はオヤマーという隣町の特産品を宣伝する目的で作られたお店だそうです。王都では珍しい米を使った料理が提供されるらしいです。米と言えばたまに学食で出される握り飯などが有名ですよね。たまにしか出ないのですぐに売り切れてしまいます。私食べたことが一度しかないのです。それほど貴重なものですのよ。
初めに『甘酒』というドリンクが出てきました。ガラスを透して見ると、白く濁った不思議な見た目ですね。おそるおそる口にすると
「甘い」
お砂糖ではない不思議な甘みが口先ではじけます。つぶつぶとした白い塊が舌の上で踊るように流れていきます。
「いかがでしょうか。お嬢様たちは学生のようですので、酒精のない甘酒にいたしました。成人なされたら、ぜひ米酒をお試しください」
給仕がそういってグラスを下げました。宣伝上手です。私達は次から次と少量ずつ来る、米を中心とした見たこともないおいしい料理を頂きました。
デザートの『餅』というお菓子が出てきて、私達はやっとゆっくり話す事が出来るようになりました。それくらい珍しくておいしい料理だったのです。
一年生のチリカが口火を切りました。この子は文学好きではないのですが、親友のミイアが心配でサークルに入ってきた元気のよい子です。
「先輩いいですか?」
「なんですか?」
「先輩の言っていた黒猫甘味堂で出している、チラシのようなものを手に入れたんですけど見ます?」
は? 黒猫甘味堂のチラシ?
「ほら、ここに先輩たちの好きなイリア・ノベライツと書いています」
「「「えええええ――――」」」
あわてて借り受け紙を見ました。イリア様の短編小説? なにこれ! え~~~~!
「私にも見せて」
「私も見たい」
全部読む前に取り上げられてしまいました。
「チリカさん、これはどこで手に入れましたの?」
「ミイアに付き合って本屋に行ったときに、何か買ったらってミイアがあきれた声を出すもんだからさ、新品じゃない方の売り場に置いてあったこれを取り合えず買ったんだよ。帰って読んでみたらイリア・ノベライツって作者名と執事喫茶黒猫甘味堂って書いてあったから」
執事喫茶? なんですのそれは。メイド喫茶ではなかったのですか?
「チーノ、最後まで読んでないでしょ。ほら、オヤマーの貴族街にメイド喫茶のような形で、女の子が執事の格好でお客をもてなす執事喫茶を作る予定って書いてあるわよ」
なんですって! 女の子が執事の格好で私達をもてなして下さるのですか! なんですのその夢のような状況。
「今度は貴族街に作るみたいだから、ちょっと遠いけど週末ならいけそうじゃない?」
馬車に乗れば一時間かからずに行けるオヤマー領。行けますわ。行きましょう皆さま!」
まだ見ぬ執事喫茶の話題で、予定時間をオーバーしてしまい、お店の人から帰りを急かされてしまいました。
◇
寮に帰るのは私とミッチと一年生のノエリ。寮生はこの三人だけ。三人で話しながら領に帰ろうとすると、一台の馬車が私達を追い抜いて行きました。
先ほどの馬車ではありませんか!
馬車はすぐに止まりました。私達はおもわず身を隠しました。
馬車からは王子様が降り、またしても聖女様をエスコートして降ろしました。
なにやらお話をしています。デートの後ですから盛り上がっているのでしょうか。
私達は聞き耳をたてて聞きました。
――――――――
「ありがとう。いろいろお世話になって」
「こちらこそ、遅くまで付き合わせてしまったね。さっきも言った通り、これからも生徒会の活動に協力してくれ。アリアには期待しているんだ。困った事があったら何でも相談して欲しい」
「あ、ありがとうございます」
これは! またしても?
「なにか心配ごとでもあるのか、アリア」
「え? 何もないです」
え、このセリフあったよね。無言のままミッチを見ると、ミッチも無言のまま首をブンブンと縦に振り続けます。
「どうしたんだ、俯いたりして。俺はアリアを気に入っているんだ。俺は君のためにどんなことでもしてあげたい。どうか俺だけを頼って欲しい」
え~~~~~、王子様、ここでプロポーズですか! しかも本のセリフの通りじゃございませんか。もちろん聖女様の答えはあれよね!
「ありがとうございます」
キタ―――――――――――!
私は心の中で喝さいを上げた。もちろんミッチも上げているよね。ああ、ノエリの目が定まっていないわ。衝撃よね!
やはり予言の書でありました。イリア様最高です! 明日皆様にお話ししなければ! ってあれ? 聖女様寮生だったのですか? 寮生多いし学年違うから気がつきませんでした。これは明日と言わず、寮の皆様にもお知らせいたさなくてはいけませんわ。
あれ? となるとですね、レイシア様は、悪役令嬢のポジションになるのでしょうか。考察が必要ですわね。
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