魔道具完成

 オンボロ寮も調理場に冷暗庫を置いてみた。持ち歩いているとシャルドネ先生から「私の屋敷においてもいいのよ。使用料くらい払うし。なんなら研究室でも」と言われ続けるのが面倒くさかったから。どうせ酒を冷やしておきたいだけなのは目に見えているし、レイシアは研究したいから身近に置いておきたかった。そのためのいいわけでもあった。


 初めて置いた時、カンナさんは困惑していた。しかし使ってみるとこれほど便利なものはないことに気がついた。


「はぁ~。食べ物が傷まなくなるってすごい機械だねえ。いくらするんだいこの機械は」


 カンナが聞くと、レイシアは「金貨120枚でした」とさらっと言った。


「金貨120枚! ひゃぁ」


 カンナはおかしな声をあげて、冷暗庫から手を離した。


「本体が高いのもそうなのですが、動かすための魔石も高いんです。一年ごとに取り換えるので金貨がいくらあっても足りないですね。それでもあれば便利なんですよ」


「魔石ってそんなに高いのかい! まあ、あたしも若い頃旦那から魔石の指輪を貰ったけど、それなりに大きかったからまあ無理して買ったみたいだったね」


「カンナさんの旦那様?」


「ああ。これでも昔はモテたんだがね。まあ、いい思い出さ」


 魔石は透明度が高くそれなりの大きさがあるものは、カットされて宝石として扱われている。


「ほら、あんたの髪飾りの猫の目も魔石だろう」


 子供の頃サチと買った猫の髪留め。その目は価値のないクズ魔石がはめ込んであった。


「クズ魔石を集めてその大きさにしたら動かないのかい?」


 カンナの言葉にレイシアは驚いた。調べてみる価値があるかもしれない。


「カンナさん! ありがとう。やってみるよ。無駄かもしれないけどやる価値はあるわ!」


 レイシアは急いで冒険者ギルドに行き、赤いクズ魔石を大量に買い付けた。



(私が作りたいものはお風呂を温める魔道具。火の属性の魔石を使って熱を出せばいい。軍の施設で見た魔道具は威力がありすぎだわ。そう、一属性の火の魔法では家を焼いてしまう。私の魔法ぐらいの弱い魔法ならちょうどいい。冷暗庫はわざと魔力が伝わらないように調整して、少しずつ魔力を出している。それにしてもなんて工夫をしているの、ケルト師匠は!) 


 魔道具を研究するため、期限の切れた特許技術、現在ある特許、そして冷暗庫を比べて調べまくった。現在出回っている特許のほとんどはケルトのもの。かなりの大金を使うことになった。軍の技術は特許を取らず秘匿されていた。


 それでも魔石についてはかなり分析することができた。


(クズ魔石を使えば体積を調整することができそう。一回で使い捨てでも構わないとすればできそう。弱い方がいい、短期的でいいとすれば何とかなるかも)


 レイシアはシャルドネ先生に相談した。先生は同じゼミのポマール・ヴィーニュに相談するように言った。普段無口な先輩は、レイシアのアイデアを聞いた途端、急に冗舌になった。


「そうか! レイシア君。僕の研究によれば魔石は鉄と反応するみたいだ。だから宝飾品に鉄は使わないだろう。熱くなったり冷たくなったりするから職人が気味悪く思って伝統的に鉄は使わないようになったんだ。その砕いた魔石に砂鉄を入れてみないか? 割合は何度も試さないといけないな」


 研究おたくのポマールは大喜びでレイシアと共同研究を始めた。ポマールに魔石の研究を任せたレイシアは、熱を発生させる魔道具本体の開発に集中できた。


 お風呂を温める魔道具を作っていたら、ふと新しいアイデアを思い付いた。形を変えたら料理にも使えそう。

 魔力を制御する仕掛けは冷暗庫を参考にすればいい。


 研究おたくとアイデアの宝庫のタッグは、恐ろしいほどの集中力で奇跡を起こした。前期の間に乾電池のような人工魔石箱とお風呂温め機、それに簡易かまどを作り上げ、それぞれ共同で特許を取ったのだった。


 発表や商品化については、休みの間テストを繰り返し、改良を施すことにしてひとまず先送り。販売に関しては、商人やお祖父様と相談しながらレイシアが受け持つことになった。

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