お祖父様の忠告

 カミヤ商会の一行は会長のヒビ・カミヤとその側近を除き王都に帰っていった。新年を祝う準備はどの商会も忙しくなるためだ。本来であれば会長が戻らないといけないのだが、それよりもターナー領に魅力を感じたカミヤ。領主を交え、商人ギルドなどと話を詰めようとしていた。


 そんな時、王都からお祖父様が予告もなくやってきた。


「お義父とう様。なぜこちらに」


 クリフトはあわてて客室を用意する様に執事に命じながら出迎えた。


「ああ。急にすまぬな。息子とナルシアが、儂の事を邪魔者扱いしだしてな。まあ、ヤツもなにやらプライドが高いからな。妻と結託しておる。まあなんだ、そうは言っても大したことなどできる男ではないが、お互いに居心地が悪くなりそうだったんだよ。なのでな、新年くらい好きにさせてやろうかと思ってこちらに来たというわけだ。どうせクリシュの迎えもあることだしな。2週間ほど早く来させてもらったよ」


 連絡くらい入れてくれ、と思いながらもにこやかに歓迎しなければならない。それが力関係というもの。


「おお、カミヤじゃないか。お前も来ていたのか」

「これはこれはオズワルド様。いつもお世話になっております」


 義父がターゲットを変えた。その間にレイシアを連れてこようとクリフトは動き出した。



 レイシアの案内のもと、孤児院の見学をしたオズワルドお祖父様。翌日、クリフト、レイシア、クリシュ、そしてカミヤと神父を集めさせ、提言を行った。


「クリシュの頑張りで孤児院関係者の仕事が大きくなったのは褒めるべきことだ。だがな、このままではまずいことにならんか」


 オズワルドは領主クリフトと神父バリューを試すような目で見つめてから、言葉を発した。


「この孤児院はお前たちのものか? バリュー神父。あなたの教育方針と孤児院の経営方針は確かに素晴らしいものだ。それにクリフト、お前の度量の広さも認めてやろう。だがな、お前たちに何かあったら教会はどうなる?」


「教会は手出しできないよう確約は取ってある」


 クリフトがそう答えたが、鼻で笑われた。


「確かに確約していることは知っている。だがな、儂が今懇意にしておるマックス神官。あれは最初密偵調査を兼ねてこちらに送られてきたのではないのか? 上手く取り込んで事なきを得たようじゃが。このような金になる孤児院が教会本部に知られたらどうなると思っているんだ?」


 改革に夢中になり、成功に喜んでしかいなかった二人。気たるべき危機管理が欠乏していた。


「万一にもお主がいなくなったら新しい神父が派遣されるだろう。そうなったらここはどうなる? 孤児院が神父権限で昔のように戻るのか、それとも強制労働所になるのか。どのみち碌なことにはならんだろうな」


 レイシアとサチが動揺した。他の教会の孤児院が酷いらしいと聞き続けていたから。二人に不安が広がった。


「お祖父様、どうすればよいの?」


「そうだな。まずはカミヤ。この孤児院とその関連の事は機密情報だ。商会内でも広めるな」

「もちろんです。先に帰した者にもそのように言い含めております。王都では孤児が製造したものだと噂が立てば売れなくなりますので」


「よろしい。ではレイシア。お前は会社を立ち上げろ」


「はあ? なにを仰っているんですか、お義父様」

「お前には言っていない。レイシアいいか?」

「はい、お祖父様」


「あの食肉加工所や石鹸工場こうば並びにその製品を卸す会社を立ち上げるんだ。そうだな、お前が5割出資しろ。クリフト、お前とクリシュで2割、儂とカミヤが1割5分ずつ出資しよう。そうすれば仕事は教会の手から離れる」


「なぜ私が5割なんですか? お父様とクリシュが5割でもいいのではないのですか?」


 レイシアがお祖父様に聞いた。


「いいや。お前が5割だ。領地内で領主が半分出資するとなるとそれは領地のものと思われてしまう。万一領地替えなどが起こった時、取り返しのつかないことになるぞ。レイシアお前は独立する気だろう? ならばお前が所有権を持っていたら、クリシュも個人で持っているということになる。所在を個人にして商会として独立させることは大事な事なのだ。儂とカミヤが出資するのもそう言った保険をかけるようなものだな」


「まだまだ私も勉強不足ですね」


「これから学べばいい。書物だけでは分からないことも多くある」

「はい」


 素直に頷くレイシアにお祖父様は微笑みをかけた。


「金額は後で話し合おう。土地建物、それに事業価値を含めれば、お前たちの収入になるぞ。3割払ってもまだまだお釣りがくるだろうよ。レイシアは、今までの稼ぎがあるから払えるな。もちろん、そんな金額はすぐに回収できるだろうよ」


「はい」


「では、次だ。孤児院だが、解体しろ」

「「「はい?」」」


 なにを言い出すんだ? と全員が思った。


「教会の孤児院は建物ごと解体だ。そうして領で孤児院を作ればいい」

「そんなことできるのですか? お祖父様」


「出来なくはない。むろん手続きは必要だがな」


 オズワルドの言う事はこうだ。孤児院は教会以外に作っても法律上は問題はない。教会が行っているのは、あくまで慈善事業。ただし、孤児の扱いで私腹を肥やす神父や、領主から孤児院への運営寄付金や一般からの寄付金によって教会が潤うためまた、孤児の売買を違法に行っている教会もあるため、一種の既得権益になっている場合が多く教会が手放さないことと、他に孤児の面倒を見るようなもの好きがいないため教会の仕事と思われているそうだ。


「そういえば、クマデの教会は孤児院を閉鎖していたわ」

「そうか。他にもこういうのがある。港町サカ。あそこは交易の中心で他国の者が多くいるのだよ。だから孤児に対してひどいこともできないのだ。他の国の文化では孤児は大切にされておるからのう。そんなことで孤児院は教会でなく領が経営しておる。とはいえ、孤児院をなくすためには神官のサインも必要だ。こちらの事情を知っている神官ならマックスしかいない。オヤマーにいるマックス神官をこちらによこそう」


「なぜそんなにお詳しいのでしょうか。オズワルド・オヤマー様」


 神父が聞いた。


「なに。儂もオヤマーで孤児院を独立させてやりたいと思っているからだよ。儂が現役の領主だったら今すぐにでもやっておったろう。ここの孤児院を見てそうおもったんじゃ。だがな、今は息子が領主。独立させたところで教会に押し返すだろう。それが今の悩みでなあ」


 オズワルドはため息をついた。


「本当に、お前がうらやましいよ。どのように育てたのだ?」


 義父に聞かれたが答えられないお父様。


「港町サカの孤児院、見てみたいです」


 レイシアが話を割った。お父様はほっとした。


「そうだな。1月にクリシュの社交を終えたらサカに行ってみるか。レイシアとクリシュよ」


「いいんですか?」

「はい」


「では儂が段取りを付けよう。孫たちを借りるがいいな、クリフト」


 お父様に拒否権はなかった。

 レイシアはめずらしくはしゃいで、お祖父様に抱きついた。港町サカに行けることも嬉しいが、クリシュと旅行できることが楽しみで仕方がなかったから。

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