閑話 王子の休日
「平民街に視察に行く!」
目の前の課題の山を片付けていた学園の休日。俺は思わず欲望を声に出していた。
「何を仰っているのですかぼっちゃま。戯言は課題が終わってからにして下さい。まあ、叶わないと思いますが」
執事のトーマスが呆れたように言った。ぼっちゃまはやめろよ。
「何が戯言だと?」
「いいですか。ぼっちゃまが下町に行くとなれば、警備のものを何人手配しなければいけないと思っているのですか? それに、先回りして視察対象への手回し、視察目的の通知、関係者以外の住人の排除。そういった諸々の手続きが必要になるのです。そういった諸々の雑用を私達にかけながら、ぼっちゃまは平民街のどこで何を視察なさりたいと仰るのでしょうか?」
そんな大げさな。俺は単に平民の暮らしをだな、見てみたいと言うか体験したいというか……。
「そんないい加減な視察など、認められるわけないですね。勉強、お疲れになったのでございますか? お茶でも用意させましょう」
「いや、いい。勉強が嫌な訳ではないんだ」
「ほう。ではなぜそのようなことを仰ったのですか?」
……う〜ん。どう言えばいいのか。下町グルメを味わいたい、とか言ったら怒られるよな。レイシアが住んでいる街を見てみたい。これも言えないな。う〜ん……俺は何をしたいんだ?
「俺は、この国の事を知りたいんだ。人々がどのように暮らしているのかを」
「左様ですか。良い心がけでございます。しかしながらぼっちゃま。ぼっちゃまは平民の暮らしの前に、貴族の者ともっとコミュニケーションを取られたほうがよろしいのでは? 休日だと言うのにお茶会にも参加せず断ってばかり。勉強だと言っては引きこもっているではありませんか」
お茶会、嫌いなんだよ。あの雰囲気がさ。媚と蔑みと自慢だらけのお茶会。
「それも含めての貴族の社交です。今からでも参加申し込みましょう。どこの貴族も大歓迎されますよ」
待て! そんなことしたらバランスが!
「ええ。娘がおられる家でしたら、明日とも言わず噂でもちきりでしょうね」
分かっていて言っているのか!
「もちろんです。今まで社交をないがしろにしてきたぼっちゃまに、現実を思い出していただきたく述べてみました。そろそろ、ぼっちゃまは、お茶会を主催するべきですね」
「……分かった。来月開く。準備は任せた」
「かしこまりました。でわ、参加者のリストをまとめましょう」
「嬉しそうだな」
「はい。まさか本当にぼっちゃまがお茶会を開くとは思ってもおりませんでしたので」
「姉から言われたんだよ。自分の周りの者をちゃんと躾けておけって」
「ああ。キャロライナお嬢様が。なるほど」
相変わらず姉様の信頼はあついな。思わずため息がでたよ。
「そうだな。せっかくだからお茶会という名の勉強会を開くか。毎週土曜日に補習をすれば、少しは使える者たちになるだろう。参加しなければ派閥から追い出そう」
「ぼっちゃま、それはお茶会とは申しませんよ」
トーマスは呆れながら俺に小言を言ったが、俺は本気だ。姉様にもレイシアにも負けていられない。
……って、あれ? 俺、女性にばかり負けているのか? なんてことだ! 王子として、男として、それでいいのか?!
何で俺は、こんな化け物みたいな女性たちに囲まれているんだ?! レイシア、次こそ勝つ! 姉様を超えてやる!
思わず口に出てしまったようだ。トーマスが呆れながら笑いを噛み殺していた。
「やはり、休憩にしましょう。お茶とお菓子を」
トーマスが命じて、メイドがお茶を出した。
「このクッキーは……」
「キャロライナお嬢様が独占しようとしている、サクランボジャムのサクサククッキーでございます。ぼっちゃまのために、私が確保しておきました」
レイシアが自慢していたクッキー。品の良い甘さが俺の口でほどけた。
おいしい。
レイシアの笑顔と、レイシアの温かい料理を思い出し、また切ない気持ちが胸をおそった。
…………………………………………………
これでどうでしょうか。
王子、結構書いているから、今さらなに書けばいいか分からなかったのですよ。
読みたいのはレイシア抜きの王子だろうな、と思いこのような形になりました。
城での生活なんて、考えてもなかったよ!
仕方ないじゃん。レイシア目線の三人称なんだからさ。
多分、家族バラバラに住んでいるんだろうな、とかさ、月一くらいは報告がてら食事会するんだろうな、くらいしか考えていなかったよ。
よく分かりません! 王族の暮らし!
人気投票の閑話、これで完了です。
とんでもない展開ばかりで、作者が一番困惑しています。
また何かの機会に、参加型のイベントできたらいいよね。
困ったし、悩んだし、書くのは大変だったけど、楽しかったです。
次、ちょっと間が開くかもしれないけど、お待ちになって下さい。本気で疲れました。
次の展開考えます!
みちのあかりでした!
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