第四章 二年生後期授業前の休日
王都に戻りました。
石鹸の改良が心残りではあったが、王都に行かなければいけない日が来た。
レイシアは、今さらだからと馬車には乗らず、サチと走っていくことにした。
「いけません! レイシア様」
とポエムが止めたが、レイシアはそこは無視した。
「では、私もレイシア様のお側で歩きます」
そう言って、メイド服でついて行くことになった。
「でしたら、私もメイド服にしましょう。さすがにドレスではおかしいわ」
そう言って、レイシア、サチ、ポエムの、メイド三姉妹のような不思議な旅団が出来た。
「じゃあ、行ってくるね!」
にこやかに笑いながら、レイシアは旅立っていった。
◇
メイド服姿の三人の女性が高速移動を始める。高速で移動している時はよいのだが、たまにのんびりと歩いたり、休憩したりしている時に、行商人などに合うと面倒くさいことになる。何しろ女性三人だけの警護の者もいない状態。周りに人気もない街道。襲われても攫われても助けなど入らない状況。
「どうします? やりますか?」
「相手にしていられません。さっさと行きましょう、レイシア様」
「そうね」
三人は消えるように移動した。残された旅の商人はぽかんとした顔でレイシアたちがいなくなった空間を見ていた。心配で声をかけようとしただけだったのに……。こんなことが何度か繰り返された。後に「王都とターナーを繋ぐ街道には、メイドの幽霊が出る」との噂が流れるのだが、それはまた別のお話。
◇
「では私は、オズワルド様の所へ帰還の報告に上がります。サチ、レイシア様がトラブルを起こさせないように見張るのですよ」
「了解しました」
「ひどくない、その言い方」
「「自覚してください」」
ポエムを見送り、レイシアとサチはオンボロ寮に向かった。
「あ、今年は早く帰って来たんだ」
イリアがレイシアを見て嬉しそうに言った。
「あ、イリアさんただいま。どうしたんですか? 疲れた顔していますよ」
「ええ。王子、アルフレッド王子の要求がどんどん増えていって。いま二冊目を書いているんだけど、資料多すぎ……。注文多すぎ! 締め切り早すぎ!」
どうやら、騎士団改革をさらに推し進めるために、現在の経過報告を本にしてまた販売させる気だった。
「あたしが書きたいのは小説であってルポタージュじゃないのよ~!」
イリアは大声で叫んだ。奥からカンナさんが大声で返した。
「そんなに叫んだって仕事はなくならないよ! あんた大儲けできたって喜んでたじゃないか。ルポって金になるんじゃないのかい!」
「そうなんだけど。この間のでしばらく安泰だから」
「あんたねえ。来年からは社会人なんだよ。一人暮らしするには金なんかいくらあっても足りなくなるさ。稼げるうちに稼いどきな!」
「そうかぁ。イリアさん卒業なんだ」
「そうだよレイシア。来年からここもあんただけになるね」
「え? ってことはあたし、レイシアの料理食べられなくなるの⁈ 温かいお風呂も⁈」
イリアが素っ頓狂な声で叫んだ。
「卒業したくない。レイシアのご飯が……」
「何を言ってるんだい! 卒業したら寮にはいられないんだからね!」
「どうしよう……。生きていけない……」
一度知ってしまった
「ダメだね、こりゃ」
「イリアさん。今からお風呂準備しますから」
「ご飯も……」
「はいはい。お風呂入っている間に作りますよ」
「レイシア、そんなに甘やかさなくていいよ!」
「まあ、今日くらいは」
結局、レイシアとサチでお風呂、夕食を用意することにした。イリアはゆっくりお風呂につかり、その後「これこれ、この味よ~!」と泣きながらご飯を食べた。
ご飯を食べながら、イリアはレイシアに聞いた。
「明日から学園祭だけど、レイシアは行くの?」
「学園祭? でしたっけ?」
「夏休みの最後に学園祭があるでしょ! って、去年は授業すら間に合わない帰り方だったから行ったことないんだ」
「はい。なんですかそれ?」
「はあー。あんたが興味ないのはよーく分かった。まっ、あたしもないんだけどね。三年生以上の学生が、お芝居をやったり、歌を歌ったり、ダンスパーティーをしたりするお祭りよ。ここぞとばかりに研究発表しているゼミもあるけど人気はないね。まあ、キラキラした人と、キラキラしたい人のお祭りよ」
「う~ん。いかなくていいかな」
「あたしもね、小説のネタ探しに二年生の時行ったけど、肌に合わなかったね。ま、忘れていたくらいだし、行かなくていいんじゃない?」
「そうですよね」
学園でのキラキラした人たちに混ざれない二人は、それが学園行事だと言う事も忘れて自分の趣味に走ることを決意した。イリアはドキュメンタリーの締め切りに間に合わすため。レイシアは……。
「明日は、弟のクリシュに会うのです。今、王都のお祖父様の家に来ているので」
そう。レイシアが早く王都に来たのは、入れ替わりに帰ってしまうクリシュと、王都で会うためだった。明日は思いっきりクリシュを甘やかそう。そんな決意を固めていたレイシアだった。
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