温泉で実験
教育改革は手始めに法衣貴族の子供たちから始めることにした。数が少なく金もかからないので始めやすかったからだ。孤児院の教育に関しては基礎と発展と応用に分け、発展と応用は個人の資質に合わせ選択できるようにした。むしろ仕事場を考える方が大変。
まずは精米の工場が作れるか、オヤマーに問い合わせの手紙を出した。平民の子供の教育に関しては、二年ほど準備期間が必要だと見積もる。一年で計画を練り人材を確保して、来年の祭りで発表することにした。
領主は役所に『教育課』を作り、レイシアに基本方針を作らせ説明させた。レイシアは、「私がいるのは休みの間だけですので、分からないことは孤児の教育に成功しているバリュー神父にたずねて下さい」と言ったものだから、神父に質問が殺到した。
神父はいちいち答えてもらちが明かないと、「まずはこれを理解してください」とラノベを読ませた。たいていの法衣貴族は一読するだけだったが、なかにはラノベに魅了されるものが出て来た。神父は少しずつ
◇
昼間はドレスを着こなし会議に明け暮れるレイシア。なぜこうなった? 本当ならクリシュと一夏の間楽しく過ごせるはずだったのに。おかしい。
もやもやとした気分を晴らすために狩りに行こうとしたが、ポエムに止められた。仕方がないのでおやつ用にふわふわパンを焼くことにした。
ふわふわパンの生地を作りながら、レイシアはクリシュと作っていた時の事を思い出した。
「特許があんなに厳密なものだったなんて知らなかったわ。まさかクリシュが避けられないなんて。……そういえば、あの後温泉で髪を洗ったら、いつもより髪がツヤツヤしていたよね。……? ふわふわパンを頭に? 頭? 髪の毛⁈ もしかして!」
レイシアはふわふわパンの生地を髪の毛に塗った。サチとポエムがあわてて止めようとするがレイシアはお構いなしに髪の毛に生地をいきわたらせた。
「何をやっているんですか、レイシア様!」
「そうね。サンプルは多い方がいいわ。比較検討のため塗らないサンプルもいるし。サチかポエム、どちらかも塗ってくれない?」
ポエムはレイシアが何を考えているのか分からず固まってしまった。
サチは、「今度は何をしようとしているんですか?」と言いながらも、わしゃわしゃと生地を髪に塗った。
「頭がこんなになったから温泉に行きましょう。サチもこんなになっているからポエム、準備をお願い」
ポエムは二人をおかしなものを見るような目で見ながらも、支度を始めた。
◇
「さあ、髪を洗いましょう」
温泉でポエムに髪を洗ってもらう。
「サチもいつも通り洗ってね。ポエムも髪を洗うこと」
桶で石鹸水を作り、丁寧に髪を洗うポエム。温泉は家庭と違ってお湯なので石鹸水が作れる。水の時とは全く違い、使い方が贅沢な感じになる。
いつもと同じように髪を3度に分け洗った。そしてポエム自身も三度髪を洗う。頭も体もしっかり洗うと、ゆったりと温泉につかった。
「結局何がしたかったのですか、レイシア様」
ポエムかたずねると、レイシアは「髪が乾いてからのお楽しみ」と言って、温泉から上がった。
ポエムが先に上がってレイシアの着替えができるように服を着る。サチはレイシアの側に着き一緒に上がる。サチが素早く体を拭き着替えている間に、ポエムがレイシアの体を拭き始めた。軽く肌着を着させると、ていねいに髪を拭き始めた。
「あら、レイシア様。今日は髪の状態がいつもより良さそうですね」
「やっぱり? きっとそうだと思ったのよ」
サチがささっと着替えを終えてポエムの手伝いに来た。
「サチ、髪の毛を見せて」
レイシアがサチの髪を見る。ポエムの髪と比較する。ポエムはサチの髪を見て驚いた。
「サチさん! その髪」
いつもささっとしか洗わないサチの髪。洗ったとは言うがそれなりでしかないつやのない髪が、今は光に照らされて輝きを放っている。
「一度しか洗っていませんよね」
「ええ。早く洗うのもメイドの仕事ですよね」
レイシアの髪は三度洗った。サチは一度だけ。レイシアの髪は貴族仕様なので油で固めている。汚れを落とす前に、整髪用の油を取らなければいけないのだ。サチは整髪の油など付けない
着替えを終え、髪が乾いたところで櫛を通した。レイシアの髪はいつも以上にサラサラとしている。櫛がススッと流れるように通っていく。
「レイシア様、これは……」
「ポエム、サチの髪もとかしてみて!」
ポエムがサチをとかすと、信じられないほどスムーズに櫛が動いた。
「どう?」
「レイシア様ほどではありませんが、とても櫛が通ります」
「やっぱりね」
「サチはどう? どんな感じ?」
「ええと……そうですね。髪はさらさらしていますね。それよりも頭が軽い感じがします」
髪の表面積は一本一本は些細なものだが、10万本もあると恐ろしく広くなる。わずかな汚れや脂でも、10万本の髪の毛についているとかなりの重さになる。まして、頭皮の脂や毛穴の脂。洗って取れているつもりの脂は、古くなり固まって層をなしている。今までの石鹸だけでは取れなかった古い脂などが、今回ごそっと取れたおかげでサチは頭が軽くなったと感じたのだった。
「もしかして……、あのお菓子の生地が関係しているのですか? 何をしようとしているのですか、レイシア様は」
「まだ仮定でしかないわ。でも上手くいけば特許ものよ! 何が効果をもたらしているか調べて石鹸を改良するわよ。孤児院の仕事も一つ増やせるかもしれないわ! 研究よ研究! まずは普通の石鹸の作り方を調べないと! さあ忙しくなるわよ二人とも! いけるわ! 絶対にいける! フフフフフフフ」
残念な感じで髪の汚れと一緒にレイシアのお嬢様の仮面と猫がはがれ落ち、神父仕込みのマッドサイエンティストの内面が顔を出した。
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