休日のレイシア②

「冒険者ギルドの朝の混み方は本当に嫌になりますよね。まあ、割のいい仕事は早い者勝ちなので必死になるのは分かるのですが、できれば近寄りたくないですよね」


「そう、なのですか?」


「朝一は低いクラスの冒険者であふれかえっているんです。自分の生活が一番ですからね。私達は冒険者として新規登録するためなので、混雑が去った頃に付くようにしたんです」


「あなたが冒険者になるのですか?」


「いいえ? 私はCクラスの冒険者ですから」

「はあ?」


 女教師は素っ頓狂な声をあげた。Cクラスの冒険者? 誰が?


「私の担当のゴートさんに、お祖父様のメイド、ポエムさんの冒険者新規登録をしてもらいました」

「あなた……担当者って?」


「以前一緒に冒険した今はBランクで解散した『黄昏の旅団』のパーティメンバーが私の担当になって下さったのです。冒険者コースのククリ先生とルル先生も一緒にいたのですよ」


「平民コースの先生とは話す事はありませんので分かりませんが、Cクラスは皆さん担当が付くのですか?」


「いいえ。そういう訳でもないのですが。そう言えばあんまりいませんね。Bクラス以上は無条件に付くみたいですが」


 冒険者の事などよく分からないが、話を聞いていると異常なことだという事だけは感じることができた。


「ボエムさんを冒険者登録しに行ったら、『また異常なメイドが増えるのか』って言われたのですよ。失礼だと思いませんか?」


先生は(分かりません)と突っ込みたいのをおさえた。


「それからすぐに私たちのパーティ『ブラックキャッツ』に加入させて、ランクアップの申請をしたんです。『ブラックキャッツ』の信用が高いので、その日はそのまま試験を受けることになりました」

「はあ」


「まあ、ポエムさんならDランクまでは心配なく上がるでしょうから私はそのままボア狩りの依頼を受けました。三頭分ですね」


「はあ? ボアってあの魔獣ですよね。あなたが! まさか! そう言えばチームを組んでいると言っていましたわね。どんな人がメンバーなのですか? 屈強な戦士たちで組んでいるの?」


「パーティですか? 私と私のメイド、サチの二人組ですよ。今回ポエムさんも加入したので3人になりました」


「メイド⁈ メイドって女性よね。ほかには?」

「いませんよ。女子だけの楽しいパーティです」


(女子だけの楽しいパーティ? 言葉だけを聞くと楽しいお茶会? あら、話が違っていたのかしら?)


 現実逃避をしようとしてしまうほど理解が追い付かない教師に、レイシアが追い打ちをかける。


「とりあえず、ボア狩るのは慣れていますから楽勝ですね」

「あなた! ボアを狩りに行ったの!」


「まさか! 狩るのは楽勝なのですが、王都の周りには狩場がないのです。狩場までは距離があるのです。まあ、私とサチだけなら走ればそんなに時間がかからないのですけど、最近はまったく行けていないですね。他にもやりたいことがあったので」

「じゃあ、依頼はどうしたのです? っていうか走る?」


「とりあえず、以前狩ったボアを三頭その場で出して依頼達成です。あ、ついでに一角ウサギとか常時買い取りしている物も一緒に売りました。いっぱい売りたかったのですが、値崩れするって少ししか引き取ってもらえないんですよね」


 以前狩ったボア? なにそれ?


「あなた、ボアを持ち歩いているのですか? 理解ができないのですが」


 カバンの事は秘密だったとレイシアがあせった。


「まあ、冒険者なら普通ですよ」


 どこの普通か分からない!


「そうなのですか? 冒険者は大変なのですね」


 考えるのを放棄した教師は納得したことにした。誤魔化せたとほっとするレイシア。


「冒険者はたまに依頼を受けないと評価が下がったり罰金が発生したり大変なのです」

「そ、そうなの? 頑張っているのですね」

「はい!」


 レイシアは満面の笑顔で答える。ひきつった笑顔を返す教師との差が激しい。


「それで、他の用事とはなにかしら?」


 必死で早く冒険者ギルドの話は終わろうと合図を出す教師。


「冒険者ギルドを出てからは、オヤマー領に行きました」

「オヤマーですか? ああ、あなたのお祖父様がオヤマーの元領主でしたわね」


 やっと貴族の話になる。教師はほっとした。


「オヤマーでしたら近いですからね。馬車ですと小一時間もあれば着きますわね」

「走ると20分程で着きますよ」

「は?」


 走る? なぜ? 何を言っているのか理解できない教師。


「オヤマーに着いたら、教会に行きました」

「教会ですか。貴族子女として素晴らしい行為です」


「そこで交流深い神官のマックス様と『スーハー』の講義をいたしました」


「はい? なんですの? その『スーハー』とは」


「先生もご興味があるのですね。神の呼吸スーハー。マックス神官はスーハーを王国中に広めようとするスーハー同盟の代表なのです。ターナー発祥のスーハーがこんなにも受け入れられるとは思ってもいませんでしたわ。私も開発に携わった手前、正しいスーハーの普及に尽力するつもりです」


「待って、なにそのスーハーって? 開発者? あなたが? 教会でなにが起こっているの⁉」


「スーハーの道は入りやすく奥深いのです。正しいスーハーの普及活動がこんなに大変だと思いませんでした。神父様達、恥ずかしさが先に出て思い切りがないのですよね。だから呼吸が浅くなるのです。違うのですよ、考え方が。そうは思いませんか?」


「え? そうですね。生徒たちの中にもそういう感じの方はいますね。ダンスとか照れているのか真面目にできない男子とかいますわね」


「なるほど。さすが先生です。そうですね、照れている。なるほど」


「照れに関しては、あまり追及しないことですね。素知らぬ顔でやらせていればそのうち慣れて出来るようになりますから。焦っては逆効果になります。特に人前で注意するのはいけません。コンプレックスになると大変ですからね」


「なるほど。さすが先生です。適切なアドバイスありがとうございます」


 スーハーが何か分からないままでも適切なアドバイスをする教師と、感心するレイシア。カオスとしか言いようのない状況は、まだまだ続くのであった。



※※※


 前回のお知らせに心配と応援のメッセージを頂きありがとうございました。

 全部読ませて頂いています。

 数が多いので、個別にお返事できませんが、こちらで感謝を申し上げます。


 心配頂きありがとうございました。


 痛みが定期的に来るのはしかたがないです。しばらく不定期な投稿になると思いますが、御勘弁ください。


 今後とも、貧乏奨学生レイシア、よろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る