騎士コース(馬術基礎② 実践基礎 後期)


 次は馬に馬具を装着するための基礎知識の実践を行う。様々な馬具が用意されていく。

 王子は一つ一つレイシアに解説をしながら装着していった。


「いいか、まずはくらをつける。あくまで優しく。これが鞍だ」


 レイシアに鞍を持たせる。重さを確認させたら、その場に置かせた。


「この鞍を馬の背に乗せるんだが、その前にこの大きくて厚いゼッケンを敷くんだ。馬だって直接置いたら痛いだろう。背中のこの骨に指2~3本分、いやお前の手なら指4本分でもいいかな? そのくらい開けて敷くんだ」


 王子は、レイシアの手と自分の手を重ねた。王子はドキドキと顔が赤くなった。


「い、いいか、馬に不安がらせないように顔を見ながら、ゆっくりでいいから優しく乗せる。そう。こういう風に」


 ドキドキを隠すように、レイシアの顔から馬の顔に、視線を移し替えて布を置いた。そんな王子の心情など何も気にしていないレイシア。


「次に鞍を固定するために腹帯をかける。あくまで優しく手順通りに。少しずつ少しずつ締めるんだ」


 そうして、鞍を固定し、ハミを咥えさせ、手綱や頭絡とうらくを頭部に付け、最後にあぶみを付けて完成させた。

 感心しながら見ているレイシア。いつもの戦うときの顔とは全然違う表情に、王子の胸は高鳴る。


(なんだこれは?)


 その気持ちを確かめる前に、教師が声をかけてきた。 


「さすがアルフレッド王子。手際がよいですね。どれ……。緩みもなく完璧な仕上がり。素晴らしい」


 王子のドキドキはスウーっと引いた。何もなかったかのように。


 レイシアも馬具を付けたがったが、さすがにいきなりは駄目だと教師に止められた。王子は馬具を外して、残りの時間は馬具の説明をして終わった。




◇◇◇





 数日後、今度は騎士コース実践基礎。王子がレイシアに対戦を申し込んだ。


「レイシア、お前が休んでいた前回、俺はお前以外の全員と戦い見事勝ちぬけた。前期までの俺とは違う! お前に勝つために休みの間鍛錬を欠かさなかったんだ。さあ、勝負だ。本気で来い!」


「本気ですか?」


 レイシアの目が大きく開いた。


「本気はやめておいた方が……」

「なめるな! 本気の貴様を叩く。それが俺の存在意義だ」

「でも」

「なめるなレイシア! お前の本気を見せろ」


 木刀を構える王子。確かに構えに隙が無くなっている。


「本気ですか。では」


 どこからかテーブルナイフを4本取り出し、両手に2本ずつ指に挟めて持ちながら構えるレイシア。


「い。いやナイフはなし! 木刀で戦おう」


 本気の意味を伝え間違えた王子は、あせって武器を指定する。

 ナイフをしまい、木刀を取りに行くレイシア。


「これでいいでしょうか」

「ああ。本気で来い」

「では」


 剣をブンッ! と振り下ろし王子に向けるレイシア。剣先から軽く殺気がほとばしる。


「な……」


 思わずひるむ王子。


「では、これから本気を出しますね」

「えっっ……」


 殺気の質量が高まる。


「ま……」

「まだまだ!」


 声も出せない。王子は構えをガチガチの防御に変えた。


「行きます」


 音のない世界。身の危険を感じた王子の脳はゾーンと言う高速処理の世界に入った。


 「ブォォゥゥゥゥ—————ンンンン」

とゆっくりと流れる音は、レイシアの木刀が風を切る音。レイシアの剣筋が、真っすぐ胴に向かってくる。


「死ぬな……」

 そう思いながら、木刀の剣先を左手で持ち剣筋の中央に構えた。そこにレイシアの一撃が!


「カッッコォォォーヲゥゥゥ――ンンンンンンンン—————ブワッッッッッッッッアアアアアアアアア—————」


 ここでゾーンは終わった。高速で吹き飛ばされながらも防御だけは間に合った。


 手元ではミリミリと音がして木刀にヒビが入った。馬具指導で手が触れた時のドキドキした淡い感情と一緒に木刀は砕け散った。


 地面に落ちた後気を失った王子に、


「あれを防ぐとは。強くなったね」

 と言うレイシアの称賛の声が届くことがなかった。


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