閑話 その頃女子寮では
「カンナさん、レイシアは?」
明日から学園が再開するというのに、晩ご飯になってもレイシアは寮に帰ってこない。心配だったのでカンナさんに聞いてみた。
「ああ、なんか地元のお祭りを立ち上げたから、1週間遅れて帰るって手紙が来たよ。ほらこれだよ」
カンナさんが引き出しから手紙を出した。受け取った私は便箋を取り出した。
「……これって…………」
「……だろ…………」
カンナさんと目を合わせてため息をついた。レイシア、あんた何やろうとしてんの!
手紙には、計画表が付いていた。馬鹿みたいに大規模で説明の細かな計画表が……。半分以上の計画責任者がレイシアじゃん! おかしいよあいつ!
「まあ、レイシアだからね」
カンナさんの一言で、納得せざるを得なかった。
◇◇◇
始業式の早朝。
昨日、筆がのってつい夜更かしして寝落ちした私をカンナさんが起こしに来た。
「いつまで寝てんだい! レイシアがいないからあんたも朝の準備手伝いな」
ああそうだ。あの子まだ実家か……。え〜、起きなきゃいけない?
「ほら、あんたも去年まではちゃんとやってたじゃないか。最近はレイシアに任せっぱなしで……! いい機会だよ。これからは、あんたも手伝うんだよイリア!」
ええ〜! ……仕方がない。やるか。
「分かった。ちょっと待ってて、着替えるから」
そう言って着替えを始めた。眠いや。はぁー。
◇
「じゃあ、水を汲んできておくれ。水瓶いっぱいにだから、4往復ね」
えっ、水汲み?
「早く行きな、仕事はまだまだあるよ」
ドアを開けると、外が柔らかな白さの光で包まれている。明け方の光なんて浴びたのいつ以来だろう。大きく伸びをして新鮮な空気を思いっきり吸った。
「やるか」
ガヤガヤと
◇
「ゼイゼイ」
「なんだい、まだ3周目だよ。あと一回頑張りな」
「ちょっと休ませて……」
「休むともっと疲れる! こういうものは気合と勢いだよ。さっさと行く」
おかしいな。去年は毎日出来てたのに……。体力落ちた?
なんとか4回目を運び終わった。
「じゃあ次は食堂の掃除ね」
「や……休ませて……」
「何いってんだい! 水くみ場ぐらいで疲れてちゃ仕事になんないよ。去年やってたことだよ。まったく。レイシアが来てから甘えまくってたね」
その通りですね……。はあ。
「ま、もっともあたしも頼りすぎてたのが分かったよ。今日はまあ、手を抜こうか」
カンナさんがニヤリと笑う。
あたしも無理やり笑顔を作る。
思惑は一致した。
「じゃあ朝ご飯はパンとスープだけでいいかい」
「いいよ〜」
「夕食も手抜きだよ」
「オッケー」
「でも、昨日入ってないから風呂は入ろうか」
「えっ、また水汲み!」
「そこはやっとくよ」
「ありがとう、カンナさん」
手早く用意して朝食を食べた。
「それにしてもあの子便利ね」
「ほんとだねぇ。あたしもレイシアのおかげで楽してたのが分かったよ。あたしとあんただけの時は、この程度の生活だったよね」
「そうだね。あの子の料理絶品だしね」
「あたしにゃ作れないよ、あんなの」
「「はぁ〜」」
あたしたちの生活クオリティは、あの子のおかげで成り立ってたんだ……。いつの間にか当たり前になってたけど……。すごいや、レイシアって。
◇◇◇
「カンナさん! 水冷たい!」
お風呂に入ったあたしは、思わず声を上げた。
「当たり前だろ! 水は冷たいものさ」
「だってお風呂……あっ!」
そうだ。レイシアだ。レイシアが来てからお風呂が温かく……。
「お湯……どうしてたの? どうやって温めてたの?」
「なんだい、気づかなかったのかい? レイシアがビューって手から水を出して、その後ゴーって火を出して温めてたんだよ」
何それ! ビュー? ゴー? 何なの?
もう、訳が分かんない! どうでもいいから早く帰ってきて〜! レイシア〜!
あたしは心の底で叫んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます