騎士コース(魔法基礎)②
「では、これから魔法攻撃と防護の見本を見せる。魔法はイメージが大切だ。よく見てイメージを持てるようにするんだ」
「ハアッ! ファイアー」
頭から髪の抜けた騎士が思いっきり掛け声を放つと、伸ばした両腕の間から、頭より大きい火の球が「ブオオオオオー」と飛び出していった。ファイアー
もう一人の騎士が「ファイアー!」と声を掛けると、こんどは手のひらから「ゴオオオオー」と巨大な火柱が5秒ほどたった。
中央の的に当たると、的はそれぞれが一気に発火した。
「これが火の魔法だ! 『ファイヤー』が魔法の出る呪文になる。ボール状で飛び出す者と帯状に出る者があるが、どちらも対象物に当たると燃やすことが出来る。威力は大体同じだ。魔力量によって打てる回数が変わってくる。俺は5回打てるが、これは多い方だ。訓練次第で増やすことが出来るから、皆頑張るように。次は水の魔法だ」
反対側にいる魔法使いたちが「ウォーター!」と叫ぶと、ある者はボール状に、ある者は帯状に水が噴き出し、中央の的の火を消していった。
「これが水の魔法だ! 呪文は『ウオーター』だ。相手から火魔法で攻撃を受けた時消すことのできる、非常に有能な魔法、それが水魔法だ。また、一人いれば、長距離移動の時飲み水に困ることもない。もっぱら、勢いが強いので桶に入れるのが大変だがな。ガハハハハ」
レイシアは手を上げて聞いた。
「水の勢いは殺せないのですか?」
「いい質問だ! 魔法は伝わってきたイメージでしか再現できないようだ。昔はいくつもの業があったらしいが、今残っているのはこれだけだ。だから我々はこの技術を継承しなければならない。風 土 闇 はイメージすら残っていないので使うことが出来ないんだ。 もし有能な魔法を復活させられたら勲章物だ」
魔法はイメージの具象化。昔大戦があったとき、どの国も戦場で活躍させるため、騎士という戦場の者たちに管理を一本化した。当時の騎士は脳筋の塊。上からの命令が絶対! そんな騎士が管理するようになったおかげで繊細な魔法は失われ、派手で戦場で役に立つ火魔法が1つと、水魔法が1つだけしか残らなくなった。
そのため、パワーの調整など考えず、最大規模の魔法を打つことに当時の脳筋は力をかけた。戦争が長く続いていた
この世界の魔法は、脳筋の塊がだめにした。残念な結果だ。
◇
「では、訓練を始める!」
レイシアと脂肪吸引少女リリー以外の仮契約を結んだ者たちが訓練をはじめた。一人が水を出した時には拍手喝さいが起きた。が、すぐに魔力が切れたのか、訓練はすぐに終わった。
「君たちは、どうしようか」
レイシアともう一人の少女リリーに、「とりあえずやってみろ」と訓練場に立たせてみた。まず痩せた娘が適当にやらされた。
「呪文が分からない。いいや、風よ吹け!」 当然だが何も起きない。
「土よ! どうしよう……」 そもそも土をどうしていいか分からない。
結局何もできず、騎士たちもアドバイスもできなかった。
レイシアの番になった。
「ファイアー!」
手を伸ばし、声を上げると、
「ゴオオオオー」
と、人差し指から、指の長さの半分ほどの火が噴き出した。
5分……10分……。いつまでも出来そう。
もともと6属性のため、威力が1/46656しかない。しかも魔力は神様のやらかしのため平均的な魔法騎士の60倍以上。おまけにこんな弱い魔法ではすぐに回復してしまう。
「もっと力を込めて!」
レイシアが魔力を込めると、火は一向に大きくはならなかったが、炎の色が赤から青へ、青から透明へ変化していった。
「よくわからんが、まあいい。次は水魔法」
レイシアが「ウオーター」と叫ぶと、手のひらからジョボジョボと水が流れだした。
「力を込めろ!」
魔力を込めると、水の勢いは増したが所詮は1/46656。最初のがコップに入れるのが役に立つくらいなら、今は桶に水を張るのが2秒で出来る程度。
騎士たちはため息をついたが、レイシアは(何て便利)と心の中で思っていた。
「リリーとレイシアはどうする? 魔法の仮契約を解除するか?」
教師がそう聞くとリリーは
「嫌です! 痩せられたのだからこのままがいいです!」
と、契約をすることにした。
レイシアは、便利そうだという下心を隠しながら
「せっかくですから、失われた魔法について調べたいと思います。今年は授業免除なので、私の研究テーマにしたいですわ」
と教師に言った。
「復活できれば、勲章物だといっておられましたよね」
そうニコッと微笑みながら言ったので、教師も認めざるを得なかった。
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