お仕事コース 料理基礎



 料理基礎。それは大人気の基礎講座。メイド、冒険者、料理人、何になろうが持っていると役に立つスキル。生きていくための必須条件の一つ「食」。それを扱う料理基礎は人気NO1の講座だ。当然一度ではテストも出来ないので、テストだけでも何クラスにも分けて行われる。他の科目と合わないところで申し込みが行われるのが特徴的だ。


「料理できる奴は、すぐに合格証を渡してやる。人数減らしたいからな」


 教師はそう言った。実際多すぎるから。


「合格は、冒険者が野営するときの料理が出来ればOKだ。それ以上は3年生でコースを選択した後だ。いいな」


 最初に包丁を使ったことがない生徒に挙手をさせた。ほとんどの生徒が手を上げた。


「やれやれ、今年もそこからか」


 教師はため息をついて、残った生徒を前に出した。

 残りは6人。70人いる生徒の中で料理経験者はたったのこれだけ。女子が4人に男子が2人。


「では、このりんごの皮をいてもらおう。剥き方は自由だ。なるべく薄く剥くように。ナイフは向こうにある。慣れているものを探して使いなさい」


 教師が号令をかけると、生徒たちはナイフを選びに行った。レイシアを残して。


 みんなが戻って来てもレイシアは動かない。教師は「やったこともないのに出来ると見栄を張る奴が毎年いるが、今年は1人か」と思い、他の生徒がけがをしないか見て回った。

 その刹那、一瞬風が舞ったかと思うと、どこからか取り出したペティナイフでリンゴを切り始めた。そこからレイシアの本格的な作業が始まる。あっという間にレイシアの前には芸術的なりんごの作品ができあがった。


 一角ウサギを模したうさちゃんリンゴ、薄くスライスされた数十枚の紙のようなりんご、細かくキューブ型に切られた角切りリンゴ。それらは皿の上で美しく飾られていた。

 二匹の一角ウサギは、少し残した皮でツノと耳を作り、仲よさそうに中央に並べられた。クルっと丸められた薄いりんごが雪に埋もれた草原の風景を作りあげ、角リンゴが足跡のアクセントをつける。

 薄く剥かれた赤い皮は細く糸の様に切られ、白いりんごの身を引き立てる様に添えられていた。

 もちろん塩水につけて、変色防止処理も完璧。

 最後にプレート状に厚めに切った皮に、『冬のウサギたち』とタイトルを掘り入れ完成させた。




 そこまでやれとは誰も言ってない!




 これだけできるやつが料理できない訳がないだろう。そう判断されたレイシアは、教師から合格をもらい、他の生徒がやる気をなくすからと早々に調理場から追い出された。


 

 あまりの出来事に見ていた生徒たちはざわついた。


「ねえ、あの子もしかして黒魔女様?」

「まさか? でも」

「黒魔女様かも」


 女子生徒があちらこちらで「黒魔女様」というと、男子生徒が


「あれは魔女というより手品師マジシャンだ」


 と言い出し、男子生徒の中で「マジシャン」という二つ名が付けられた。




【現在のレイシアの二つ名】

 制服の悪魔のお嬢様(略称 制服の悪魔 悪魔のお嬢様)(市場)

 黒魔女様  (女子生徒)

 マジシャン (男子生徒)

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