バイトさせてください!

「ここで働かせてください」


 レイシアは店主に頼んだ。


「このふわふわパンは私があこがれて恋焦がれていたものなんです。ここで出会えるとは思ってもいませんでした。王都にはこんなふわふわパンが普通にあるんですか!」


 いきなり、出したまかない料理を魔改造されたうえ、働かせてほしいと言い出す女の子に、店主はうろたえていた。


「あ、あのね。このパンはうちの妻が失敗してできたものだから他にはないよ。一度売り物にしたんだけど人気なくてね。ここにしかないと思うよ」


「とっ、特許ものです! 特許とりましょう!」

「何言ってるの! 落ち着いて」

「落ち着いてられません! 大発明ですよ!」


「そこまでじゃないとおもうんだけどな。それに、もう止めようと思っているんだ。この店」


「えっ!」


「妻と二人でやっていたんだ。僕が作って妻がお客様の相手をして。妻が生きていた時は流行っていたんだよ。でもね……。僕ひとりになったら雰囲気が変わってしまって。いまじゃ、お客様も激減してね。そろそろ潮時かなと思っているんだよ」


 店主は寂しそうに言った。それでもしつこいレイシア。


「一か月! 一か月雇ってください! ダメだったらバイト代はいりません! 私を雇ってください。絶対繁盛させます!」


「どうして? そこまで……」


「このパン、バターとハチミツを加えてどう思いました? このパンには無限の可能性があります。潰してはダメです。一緒に頑張りましょう!」


 店主は迷いを生じた。


「明日から来ます。よろしくお願いします」

「あ、ああ。よろしく」


 押し切られるように言ってしまった店主。なまじ若い頃の妻の姿を重ねていたため、否定することもはばかられた。思えば、妻の情熱に押されて開いた店がここだ。店主も、この不思議な少女にかけてみようと思った。


「お店は何時に開きますか?」

「ああ、午前11時から。午後の5時には終わるよ。酒を出さないからね」

「では、明日9時に来ます。よろしくお願いします」


 そう言って、レイシアは帰っていった。

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