50話 金銭感覚

 お祖母様とランチを食べた。高級なお店で……。個室に入ると料理が運ばれてくる。店のオーナーがお客様のお皿からすこしづつ料理を毒見した。貴族の皿に毒が入っていないことを、オーナー自らが行うことで証明するのだ。少し時間を置いてから、食事が始まった。


「他の人は?」


 レイシアはメイドや従者が食事出来ないのでは、と心配していた。


「代わる代わる別室で食事しているわ」

「そうですか。心配しました」

「優しいのね。レイシアちゃんは」


 レイシアは冷めてぬるくなったスープを飲みながら、ターナー家の暖かな食事風景を思い出していた。



 次は仕立屋。やはり馴染みなのかお祖母様は店主と挨拶を交わしている。

 仕立屋では、あれこれサイズを測られた。脂肪がほとんどついていない冒険者のようなウエストに驚かれる。貧乏ゆえ、野菜と獲ってきた肉中心のささやかな食事に、メイド修行、料理人修行(狩り採取含む)などの日常生活。もはやレイシアの肉体はアスリートのようになっていた。



 最後に宝飾店に行った。レイシアは、お祖母様のお金の使い方に驚愕していた。靴とドレスだけでも、ターナー家の1年分からの食費以上使っているのではないか。


「あら、たいしたことはないわよ。遠慮しないで」


 無理! 宝石の値段が! 無理です! 心の声は通じない。


「そんな安物の髪飾りなんかしていちゃダメよ。ほら、外して」


 お祖母様は黒猫の髪飾りを取ろうとした。


「これはダメ。大切なものなの」


 サチどの友情の証の髪飾り。レイシアが初めて自分で選んだ髪飾り。


「ダメよ、レイシアちゃん。ドレス、靴、宝石、身につけるものは立場に合ったものにしないと。品格を大事にしないと、貴族としては失格ですよ」


 お祖母様の言うことは、貴族として当たり前のこと。身分に合わないものは貴族社会では見苦しい。


「でもこれは……」


「外しなさい。持っていてもいいから。ここは王都。そして私はオヤマー夫人。今の貴方の立場はターナーの貧乏貴族の娘ではなく、オヤマー家の孫なの。オヤマー家に属する者として、立ち振る舞いをしてちょうだい」

「オヤマー家の孫として?」


「そう。貴方にお金をかけているのは私達のためなの。貴方がオヤマー家からみて格の合わない服や宝飾店を身に着けていたら、私達が貴方をいじめている事になるのよ。だからお願い。きちんとしたものを身に着けさせて頂戴。私達からすれば、大した金額じゃないのよ」


 レイシアには、お祖母様が言っている意味が分からない。仕方がないのでお祖母様に任せることにした。自分では、考えられない金額の大きさに、いろんなことが麻痺してきた。


 黒猫の髪飾りは、丁寧に包んでもらって持って帰った。それだけが心の拠り所だった。


 レイシアは、なにかもやもやした感情を持て余していた。

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