手紙
4月。クリフト・ターナーにオズワルド・オヤマーから手紙が来た。オズワルド・オヤマーとは、アリシアの父、クリフトの義父で借金先だ。
手紙は貴族的な長々とした文章で書かれていたが、要約すると
『レイシアも今年で12歳。お前じゃ碌な女性貴族教育などできんだろう。くれとは言わんがしばらくこちらで過ごさせろ。学園に通うなら女性貴族の繋がりは絶対に必要じゃ。必要経費はこちらで持つ。大切な事は二度言う。お前じゃ女性貴族のための淑女教育は無理だ! レイシアのために妻に預けろ』
クリフトは頭を抱えた。あそこに預けるのか〜。しかし、確かに淑女教育はこの環境では無理だ。金もコネも無い。とりあえず、執事とメイド長に相談してみた。
「女性としての身のこなしは私が教えましたが、淑女教育となると奥様なき今、難しいですわね」
「お嬢様は勉強なら出来ます。ですが……確かに学園での生活を考えますと、今のお嬢様では困難かと存じます」
二人からは、『いったほうがいいよ〜』とやんわりと言われた。盟友でもあるバリュー神父にも相談に行った。
「そもそも、ターナー様はレイシア様の将来について、どうお考えなのでしょうか」
「えっ?」
「……何も考えておられないのですね。あと2年で学園に入学されるのですよ。貴族の嫁を目指すか、法衣貴族を目指すか、騎士爵……これは無いな、平民になるか。……もしかして、家で飼い殺しにするおつもりですか?」
「…………」
「どこを目指すかでカリキュラムが変わります。……そうですよね。ターナー様は初めから領主候補生以外は考えなかったから分からないのですね。いいですか、自領を継げるのは一人だけ。クリシュ様です。二番手として飼い殺すなら領主候補生に。自由にさせたいなら、それ以外を選ばなくてはならないのですよ。真面目にお考え下さい」
クリフトは、何でも出来る娘ゆえに、育児を放任していたとやっと気付いた。
「どうすればいい?」
神父は、はぁ、とため息をついてから答えた。
「それは、貴方とレイシア様で決めること。……ですが、今のままでは決めるだけの情報がレイシア様に足りないでしょう。とりあえず一度外の世界を見せてあげてはいかがでしよう。かわいい子には旅をさせるのです」
クリフトは、レイシアに手紙の事を話す事に決めた。
◇◇◇
「……という手紙が来ているのだが」
クリフトがレイシアに手紙の事を話した。
「ああ。以前から
当たり前のように答えたレイシアに、父としてのプライドが揺るがされた。
「以前から誘われていた?」
「ええ。でも忙しかったし、クリシュから離れたくなかったし、お断りしていたのです」
「そう言うことは報告するように。私が行かないようにしていると思われるだろ」
「でも、報告しても行かせなかったですよね」
「それはそうだが……」
「報告して行かなかったら、完全にお父様のせいになりますよ。教えなければ私のせいです。お父様の責任にしたほうがよかったですか? まずくないですか?」
「……」
「なので、私の独断でお断りしていました」
清々しく言い切ったレイシア。父としての立場が無くなったクリフト。それでも、淑女教育の話と学園の話をすると、さすがにレイシアも考えた。
「分かりました。明日先生と話しあって来ます」
結局、レイシアは父より神父様の方が信頼できるという事が、クリフトに少なからずのダメージを与えたのだった。
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