お誕生日のパーティー❷
クリシュ4歳の誕生日当日の早朝。アリシアとレイシアは温泉に来ていた。
「なぜ朝から温泉に来ているのですか、お母様」
と聞くと
「淑女はね、ここぞと言うときにはクレンジングから始めるものよ。いくら化粧品を塗っても、元が汚れていては駄目なの。お肌も心もね」
「ふーん。クレンジング大事」
「それからね、レイシア。あなたは当たり前過ぎて分からないかもしれないけれど、温泉ってね、すっごく珍しいものなのよ」
「そうなの?」
「そう。王都に言ったら水のお風呂しかないのよ。王都以外でもね。アマリーにもなかったでしょ」
「え〜、王都にもないの?」
「そうよ。だから
レイシアは、温泉の素晴らしさと珍しいということを覚えた。
◇
クリシュの誕生日パーティー会場。楽団が静かな音楽を奏で始める。クリフトがアリシアをエスコートして入場。その後に、クリシュがレイシアを……いや、レイシアがクリシュを……どっちだ? とにかく二人仲良く手をつないで入ってくる。
使用人達の拍手に迎えられてワルツを踊る。クリシュとレイシアでは、4歳と9歳、身長に20センチ程の差があるが、そんなことは気にしない。お互いを大好きな姉弟。音に合わせて右左、ゆらゆら揺れているだけで楽しい。
クリフトとアリシアは、優雅に踊る。ルン・タッタ ルン・タッタ。
「いいものだな。たまにこうするのも」
「ええ。そうですわね」
「君の誕生日にも、こうしてパーティーしようか」
「本当に?!」
アリシアは、踊りを忘れて抱きついた。クリフトは抱きつかれたまま、クルクルと器用に回った。
お父様はやっと、気を利かせられる大人に成長できた。良かったね、お母様。
その後、3ヶ月後にアリシアの誕生日パーティーが開かれたが、それはまた別のお話。
◇
「「「 お誕生日おめでとう、クリシュ」」」
楽しいダンスも終わり、大好きな両親と姉からお祝いを言われたクリシュは、
「ありがとうございます。おとうさま、おかあさま、おねえさま」
と、しっかりとお返事した。クリシュの成長を見て、レイシアは感動に震えていた。
(ありがとう、おねえさま。おねえさまですってよ〜、クリシュ〜)
ニコニコと笑いながら、お話しながら、三人はごちそうを食べ、いよいよプレゼントを渡す時間になった。クリシュはプレゼントを開ける前に、両親とレイシアに言った。
「いつもプレゼントもらってばっかりだから、ボクからもプレゼントだよ」
三人に、紙を渡した。クリフトには、いかにも子供が描いたネコの絵。アリシアには、大好きな家族の絵。そして、レイシアには、
『 だ い す き 』
とたどたどしい文字で、はっきりと書かれた手紙。
「お姉さまが、読んでくれるネコの絵本で、『だいすき』ってかいてある字を写したんだ。あってるよね』
レイシアは壊れた。嬉しさで壊れた。この子天才?! 何、この人たらし。
「だいじょうぶ? お姉さま」
大丈夫じゃないよ! クリシュのせいだよ! レイシアはクリシュを抱きしめながら、泣いた。嬉しい嬉しい涙がでた。
◇ ◇ ◇
「「お誕生日おめでとう、クリシュ」」
クリシュ5歳の大切な誕生日。
洗礼を受ける大切な誕生日。
それでも、去年のように楽しく出来ない。
………………お母様がいないから…………
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます