お誕生日のパーティー❷

 クリシュ4歳の誕生日当日の早朝。アリシアとレイシアは温泉に来ていた。


「なぜ朝から温泉に来ているのですか、お母様」

と聞くと


「淑女はね、ここぞと言うときにはクレンジングから始めるものよ。いくら化粧品を塗っても、元が汚れていては駄目なの。お肌も心もね」


「ふーん。クレンジング大事」


「それからね、レイシア。あなたは当たり前過ぎて分からないかもしれないけれど、温泉ってね、すっごく珍しいものなのよ」


「そうなの?」


「そう。王都に言ったら水のお風呂しかないのよ。王都以外でもね。アマリーにもなかったでしょ」


「え〜、王都にもないの?」


「そうよ。だからここターナー領は素晴らしい所なのよ。さあ、上がりましょうか」


 レイシアは、温泉の素晴らしさと珍しいということを覚えた。



 クリシュの誕生日パーティー会場。楽団が静かな音楽を奏で始める。クリフトがアリシアをエスコートして入場。その後に、クリシュがレイシアを……いや、レイシアがクリシュを……どっちだ? とにかく二人仲良く手をつないで入ってくる。


 使用人達の拍手に迎えられてワルツを踊る。クリシュとレイシアでは、4歳と9歳、身長に20センチ程の差があるが、そんなことは気にしない。お互いを大好きな姉弟。音に合わせて右左、ゆらゆら揺れているだけで楽しい。


 クリフトとアリシアは、優雅に踊る。ルン・タッタ ルン・タッタ。


「いいものだな。たまにこうするのも」


「ええ。そうですわね」


「君の誕生日にも、こうしてパーティーしようか」


「本当に?!」

 

アリシアは、踊りを忘れて抱きついた。クリフトは抱きつかれたまま、クルクルと器用に回った。


 お父様はやっと、気を利かせられる大人に成長できた。良かったね、お母様。


 その後、3ヶ月後にアリシアの誕生日パーティーが開かれたが、それはまた別のお話。



「「「 お誕生日おめでとう、クリシュ」」」


 楽しいダンスも終わり、大好きな両親と姉からお祝いを言われたクリシュは、


「ありがとうございます。おとうさま、おかあさま、おねえさま」

と、しっかりとお返事した。クリシュの成長を見て、レイシアは感動に震えていた。


 (ありがとう、ですってよ〜、クリシュ〜)


 ニコニコと笑いながら、お話しながら、三人はごちそうを食べ、いよいよプレゼントを渡す時間になった。クリシュはプレゼントを開ける前に、両親とレイシアに言った。


「いつもプレゼントもらってばっかりだから、ボクからもプレゼントだよ」


 三人に、紙を渡した。クリフトには、いかにも子供が描いたネコの絵。アリシアには、大好きな家族の絵。そして、レイシアには、


『 だ い す き 』


とたどたどしい文字で、はっきりと書かれた手紙。


「お姉さまが、読んでくれるネコの絵本で、『だいすき』ってかいてある字を写したんだ。あってるよね』


 レイシアは壊れた。嬉しさで壊れた。この子天才?! 何、この人たらし。


 「だいじょうぶ? お姉さま」


 大丈夫じゃないよ! クリシュのせいだよ! レイシアはクリシュを抱きしめながら、泣いた。嬉しい嬉しい涙がでた。



◇ ◇ ◇



「「お誕生日おめでとう、クリシュ」」



 クリシュ5歳の大切な誕生日。


 洗礼を受ける大切な誕生日。





 それでも、去年のように楽しく出来ない。



















 ………………お母様がいないから…………

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る