お迎え
とうとう弟がやってくる。レイシアはそのニュースを聞いて興奮していた。
「では、お母様の時のようなお迎えを。まって。クリシュは男の子なのですから、異世界ファンタジーで言う『勇者の凱旋』をイメージとした……』
「「「いりません!」」」
その場にいた全員がツッコんだ。アリシアが言った。
「レイシア、明後日クリシュを迎えにいきます。一緒に来ますか」
「いきます! 連れて行って下さい」
レイシアはまだ見ぬ弟に会いに行けるなら、どこまでも行こうと意気込んでいた。
◇ ◇ ◇
宿場町アマリーではアリシアの両親、オヤマー夫妻が出迎えてくれた。レイシアはアリシアに習ったカーテシーをした。
(間に合った。お母様に習わなければメイドのお辞儀をするところだったわ)
レイシアは女子力の大切さを感じた。
「まあまあ、なんて可愛らしい。アリシアちゃんの小さい時にそっくり」
「そうだな。アリシアが小さい時は、もっとお転婆だったが可愛かったな」
「レイシアちゃん、こちらにおいで」
レイシアが近づくと、祖母に抱きしめられ頭を撫でられた。
なんだかんだ言っても、お母様が帰って来るまでの一年半はやっぱり寂しかった。無条件にレイシアを甘やかしてくれる人はいなかったのだ。皆レイシアの事は大好きでかまっていたのだが、師匠や先生の役割を与えられたため、甘やかす方向より鍛える方向になったのだ。
お母様が帰って来てからも、甘える前に、様々なミッションをこなす方に意識が行っていたため、なんとなく無条件の甘えにたどり着けなかった。
そんな中で、お祖母様の孫に対する無償の愛、というか甘やかしは、レイシアの気を張って過ごした、一年半の心の張りを緩ませたのだった。
◇
「弟はどこにいますか?」
レイシアが聞くとお祖母様は貸し切った宿屋の一室に案内した。
「旅の疲れで寝てるのよ。静かにご覧なさい」
お祖母様はそう言うとゆっくりと扉を開いた。ベッドでは、小さな子供がスヤスヤと寝ていた。お母様に似た濃茶の髪。
「クリシュ? かわいい!」
レイシアは、触りたくなる気持ちを抑えクリシュをみていた。孤児院で子供は見慣れているはずなのに、お母様に似た弟は天使のように可愛かった。
「また後でね。起きたら会わせてあげるから」
お祖母様はそうレイシアに言った。レイシアはいつまでも寝顔を見ていたかったが、「はい」と言うとお祖母様の手を取り部屋を出た。
◇
レイシアとアリシア、それにお祖父様お祖母様は、お茶とお菓子を楽しみながら話をしていた。
「レイシアちゃん、何か欲しいものはないの? 明日お買い物にいきましょう」
「いいね。帰るの2〜3日遅れたってどうって事ないだろ」
「お父様!」
「いいじゃないアリシア。私達レイシアちゃんと初めて会ったんだから。あなたが連れて来ないから」
「そうだぞ。母さんがどれだけがっかりしてたか。お前が連れて来ないから……」
「はいはいはい、もういいから」
「では、明日くらいは泊まって行きなさい。アリシア。クリシュも長旅でつかれてるんだ。いいね」
「はーい。仕方ないわね」
「良かったわ」
会話についていけないレイシア。とりあえずお菓子をたべながら思った。
(これが王都のお菓子。砂糖入れすぎね。王都では甘ければ甘いほど高級なお菓子になると聞いてたけど……駄目ね、食べる人の事考えていないわ。あっ、お祖母様ったら、あんなに砂糖入れて。甘いお菓子に甘いお茶。……王都の人って味覚違うのかしら。あ~ストレートティー最高。お口の中がさっぱりするわ)
お菓子を食べながら料理人モードに入ったレイシア。周りからは、よく躾けられた静かな子供にしか見えない。
「レイシアちゃん。明日はお買い物よ。おばあちゃんが何でも買ってあげるわ。何がいいかしら。靴? 帽子? ブローチとかもいいわね。何がいい?」
お母様との女子力訓練でだいぶ知識は付いたものの、特に欲しいとまでは思えないレイシア。
「本が欲しいです」
レイシアは、聞いても聞いてもやたら隠される『薄い本』という物の正体が知りたかったが、お母様の反応が怖くそこまではいわなかった。ナイス判断!
「えっ? 本? レイシアは字が読めるの?」
「もちろんです。私は素敵なお姉さまなのですから」
そう言うと、いつものように胸を張った。
「弟に絵本の読み聞かせをするために勉強したんです」
「まだ6歳なのに⁉ どうして字が読めるの?」
「6歳なら読み書き計算出来て当たり前じゃないの。孤児院のみんなもできるよ」
レイシアが言うと、場が凍りついた。
「孤児院? 何で孤児院が出てくるのだ?」
お祖父様が聞くと
「勉強は孤児院で皆と一緒にやってるよ。今は神父様と、科学 数学 文学 経済など、いろんな本を読んでるところ。趣味で小説も読んでるしね」
理解不能な祖父母。やっちまったと焦るアリシア。
「だから、弟のクリシュに読ませてあげる絵本と、新しい小説があったら嬉しいです」
ニコニコと笑顔で話すレイシア。
内心焦りながら笑顔のアリシア。
笑顔のまま固まる祖父母。
みんな笑顔で場が持たない。
気を利かせたメイドのノエルが、「お嬢様、そろそろ夕食ですからお着替えに行きましょう」とレイシアを退場させた。
「では私もこれで」
アリシアは、ここぞとばかり逃げようとしたが父母に捕まり、どういうことか説明を求められたが答えられず、代わりに説教と旦那への愚痴をクドクドと浴びせられたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます