閑話 アリシアの疑惑❶
やっと両親から開放された〜!
里帰り出産を終え、最後の宿場町アマリーで両親と別れた私は、1km程馬車で進んだ所でお嬢様の仮面をぬぎさった。
両親嫌いじゃないわ。でも、愛が重いの。嫌いになりたくないのよ。
実家で寛げないって、どれだけしんどいことが分かるかな。安心したら小さなため息が漏れた。はぁ。
「お疲れ様です、アリシア様。何か必要なものはございますか」
メイドのノエルが聞いてきた。必要なもの……必要なもの……
「私に必要なもの……それは癒やし」
思わず口から吐きでた言葉を飲み込もうとしたが、代わりに「あ――っ」というため息が出た。
両親から離れられてほっとしているのは私。でも帰っても……
愛しい夫と可愛い娘。でも……
不満はない。不満はないのだけれどそれだけ。心が踊るような事はなにもない。
このまま帰った所で夫と娘が出迎えてくれるだけだろう。そういうの気が利かない人だから。
プレゼントの一つでもあればいいな。……まぁ、期待するだけ無駄か。
考えるたび、ため息をつく私を見て、ノエルとポエムは声をかけてくれた。
「温泉に寄りませんか、アリシア様」
「そうですわ。アリシア様はお疲れです。温泉で癒やされなければいけません」
「それに、そんなお顔で帰られては、旦那様もお嬢様も心配なされます」
「たっぷり温泉でデトックスして、笑顔で帰りましょう。アリシア様」
温泉か……いいかも。いや、温泉に浸かりたい。そうよね、デトックスは大事。癒やされたい。このまま帰っても癒されない。温泉、そう温泉にいかねば!
「温泉によりましょう。皆で温泉に浸かるわよ。癒やされましょう。楽しみましょう」
そうして、私達は温泉でたっぷりと癒された。
◇
温泉を出て、メイクもバッチリ決めた私は、愛しい家族のために気持ちを入れ替えた。
実家の毒は洗い流した。
日常生活に疲れても、私には温泉がある。心強い
気が利かない夫に頼るな。夫をフォローするのが私の役目ではないか。娘のために頑張るのよ、私。
颯爽と馬車に乗り込み帰路につく。あの坂を登れば館が見える。
その時、高らかに鳴るファンファーレが聞こえた。
えっ? 何? 坂の頂上から館を見ると、大勢の人々がこちらを見ている。
楽団が行進曲を奏でている。馬車の動きが曲にシンクロしてゆく。
もしかして私のために?
ドキドキしている私の鼓動と反比例しながら、演奏と馬車は緩やかに終焉をむかえ、止まった。
扉が開くと、そこには普段は無頓着な夫が、タキシードを着こなして私を迎えに来ていた。
「お帰り。アリシア」
たったそれだけ。気の利いた言葉なんてない。でも、私は、それだけで十分だった。
「ただいま。あなた」
少女のように頬を染めながらそう言うのが精一杯だった。どうしたの、私。抱きつきたい気持を押さえて、エスコートに応じた。
ふわふわとした時間。夫に身を任せる。
「今日は私の妻アリシアのために、このような歓迎セレモニーを開いて貰えたこと、心より感謝する。何かやるとはレイシアから聞いてはいたが、ここまで素晴らしいものとは思わなかった。ありがとう」
こんな素敵なお出迎えをして貰えるなんて、夢にもおもってなかった。嬉し涙がポロポロと流れ落ちる。
[私は愛されていたんだ]
◇
紙吹雪が舞う中、
「お帰りなさい、お母様」
と言うと、私に飛びついた。
私の涙腺は崩壊した。
レイシアを抱きしめ、私は幸せを噛み締めていた。
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