今はまだ遠い未来❷ 回想

 (このまま気絶できないかな〜。え〜私頭働いていないよ。え~となんだっけ? 聖女様が可愛いくって、帝国が王国を乗っ取りに来て、アルフレッド様が私にプロポーズ……夢だ。きっと夢だ。あ〜天気い〜な〜。今日の夕食何かな〜。お肉たべたいな〜)


「おい」


 (お肉といたっら、やっぱりボアだよね~。ステーキ素敵、くっだらないね)


 「おい」


 (ボア肉ボア肉、あ〜弟のクリシュに食べさせてあげたいな〜。クリシュ元気かな〜)

 

「おい、聞いてるか!」


 (聞いてませ~ん)


「現実逃避するな、レイシア!」


 レイシアは逃げ切れなかった。とにかく落ち着かなければと立ち上がり、腕を広げては閉じ、スーハー スーハーと深呼吸を始めた。


 (落ち着け落ち着け呼吸大事)


 十分に脳内に酸素を取り込んだレイシアは、なんとか言いくるめようと決めた。


「今のはなんのお戯れでしょうか。王子様」


 レイシアは猫を被ってお上品に聞き直した。もちろん笑顔で。目は笑ってない怖い笑顔で。

(なかった事にしましょうね)


 しかし、アルフレッドも今更引けない。

(なかった事ににされてたまるか)


 もう一度、大仰に芝居がかった態度でプロポーズした。


「結婚しよう。レイシア・ターナー嬢」


「本気ですの。好きなのはアリア様ですよね。意味が分からないのですが」


 レイシアは諦めて回避する策を探った。だがアルフレッドは畳み掛けた。


「本気だ。この国を守るためには、帝国に出し抜かれる前に然るべきタイミングで僕は婚約発表をしなければならないんだ。さっきも言ったが、ここから先は国家機密。守秘義務が発生する。僕の為に巻き込まれてくれ。愛なんてなくていい。一緒に幸せを探そう」


 一方的に始まった長ったらしい説明を聞き終えたレイシアは、なんてことに巻き込まれたんだと大きなため息をつきながら、もう一度机に突っ伏した。


◇ ◇ ◇


 (夢見てるの……かな……?)


 父と母の満面の笑顔とごちそう。ターナー家の使用人達が私を囲むなかで、母が自慢の美声で誕生日の歌を歌ってくれた。


「レイシア、誕生日おめでとう。あなたは私の宝物よ」


 母の言葉を聞いた5歳の私は、駆け寄って抱きついた。


「おかあさま、大好き」


 母は私をギュッと抱きしめると


「あなたに幸せが訪れますように」


とおでこにキスをした。


「おかあさま、おなか大きくなった?」


 そう言ったら母は、「ここにね、あなたの弟か妹がいるのよ」と微笑んだ。


「ほんとに! すごい! 今年のプレゼントは弟か妹なの?」


 そう言ったら、みんなが笑った。みんな嬉しいんだね。最高の誕生日だよね。


「プレゼントなら、ここにもあるよ。レイシアお誕生日おめでとう」


 そう言って父がプレゼントを手渡した。「開けてごらん」と言われプレゼントボックスを開いたら真新しい石板とチョークが入っていた。


「レイシア、これから文字を覚えなさい。本が読めれば世界が広がる。世界が広がれば正しい行いができる。そうすれば、優しくて素敵な大人になれるよ」


「おかあさんのような?」


「そう。お母さんのような最高に素敵な美しい女性になれるよ」


 母を見上げると赤くなった顔で父を見つめてた。父は幸せそうに乾杯の音頭を取った。


◇ 


 夢うつつのレイシアは、

 

 (私にもこんなに可愛くて素直な時もあったんだよね)


 と思って涙を零した。



 ――――私はどこで間違えたんだろう。



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