貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!〜
みちのあかり
第一部 スローライフで大きくなあれ
今はまだ遠い未来❶ レイシア16歳
「今までの話、ちゃんと聞いてた? レイシア」
誰もいないゼミ専用教室の机の向こうで、とろけそうな笑顔で惚気ているアルフレッド王子を眺めながら「聞いてないよ」と心の中で毒付いているのは、しがない貧乏子爵令嬢レイシア・ターナー。心の中では、
(なんで同じゼミを受けているとはいえ、何故に私がアルフレッド様の惚気話を聞かされなければいけないの。冬休みで明後日には寮が閉まるから、今日中にこのアイデアまとめたいのに。こんな時は愛想笑いで誤魔化しましょう。そうしましょう)
などと失礼な事を考えながら、レイシアは白々しく社交辞令を言った。
「アリア様はお優しい方なのですね」
アルフレッドはレイシアに反応があったのに満足したのか、惚気を続けた。
「そうなんだよレイシア。アリアは優しくて気立ても良くて可愛くて、将来は王妃として迎えて上げたいんだよ」
レイシアは、(王妃?何言ってんのバカ王子、現実見なさい)そう思いつつ言葉を選んだ。
「え~と、アリアさんは……確か下町育ちで、光属性の魔術適性があったためグレイ男爵の落とし子と発覚し、10歳直前で男爵家に引き取られ、貴族教育も儘ならぬまま、今年入学された1年生でしたよね」
「その通りだ」
「自信満々に言われても困ります。いくら光属性の聖女様でも、平民出で男爵じゃ、王妃なんて無理なの分かりますよね」
レイシアは冷めた目をして言い放つ。
光属性の女性は治療魔法が使える。そのため聖女と呼ばれ、卒業前になると王宮、教会、騎士団、高位貴族等で引抜きの駆け引きが巻き起こるが、数は少ないがそこそこいるので、平民や法衣貴族程度の娘では、それなりに扱いが良いだけ。
「……確かに今のままでは無理だな。しかし、5〜7年程かけて貴族教育・王妃教育を完了させて、その間に王家と貴族間の道筋を整えれば、全く無理とは言えないだろう」
「そんな訳ないでしょ。側室ではいけませんの」
「あのさぁ~、今のまま彼女の卒業を待つと俺には断れない縁談が来るのは分かるよな」
「……でしょうね。王家の決まりで学園を卒業するまでは王子王女に縁談を持ち掛けるのは禁止されてるから、卒業した途端引く手数多でしょうね。なんでそんな決まりあるのかな」
(話題変えよう)レイシアはどうでもいい質問で話を脱線させようと試みた。
「5代目の王の時、小さい頃に決めた婚約者がお年頃になったら性格悪くなってね。王子の婚約者の立場をカサに掛け我儘横暴やりたい放題。結婚後も散財が酷く国が傾き掛けたんだよ。その反省から女性が17歳になるまで王家の婚約者候補になれないんだ。でもそれだと年上ばかり有利になるだろ。だから王子王女が学園卒業するまでは縁談がすすめられないんだよ。あっ、自由恋愛は別ね。学園でお互い好きなら相手が若くても王国関係者に王妃候補として認めさせたら婚約者になれる決まり。知らなかった?」
「ヘェーーソウナンダー」
「興味なさそうだね」
「王家の結婚なんてはなから興味ないわ」
「で、アリアと結婚するには、自由恋愛で関係者に認められて、いろんな縁談が来る前に……」
「無理!その条件だと今のアリアさんじゃ無理。いくら愛し合ったとしても王妃としては認めて貰えないでしょう」
「そうなんだよ。5年位掛けて教育した後なら人間的には可能だろうけど今すぐには時間がないし」
「平民上がりだし、やっぱり側室でいいんじゃない? 1人なら持てるしね、側室」
側室が一人までなのは、10代目の王の女好きが酷く国家財政を危うくしたのと、年頃の貴族令息の婚約者が次から次へ召し上げられた結果、貴族制度が崩壊の危機に陥ったため、王は隠居させられ議会により貴族の側室は一人までと決められたという話が伝わっている。但しお世継ぎの問題があるので、三年子を成さない女性は離縁してもいい事に。別に別れなくてもいいが……。そんな、男に都合のいい決まりがあるのはさすがにレイシアでも知っていた。
「アリアの卒業を待って側室に迎える、それも考えたが」
「考えたんかい!」
「考えたが、そうすると……帝国がこの国を乗っ取りに来るかも知れない」
「???なんで?」
「ここから先は国家機密レベルの話、他言無用だ。いや、誰にも話すことは許されない。心して聞くように」
急に真面目な顔になったアルフレッドの態度と言葉に動揺したレイシアは、
(えっ? 何? 国家機密? なんか国家の陰謀に巻き込まれているの、私? 王子の妄想?)
と、混乱に陥った。
そんなレイシアの事など何も気にせずアルフレッドはやおら立ち上がる。優雅な動きでレイシアの前で跪き、ジュエリーケースを差し出し蓋を開けた。箱の中には王子の瞳の色とおなじ色のエメラルドの指輪。その宝石より美しい瞳でレイシアをじっと見つめながら、
「だから、僕と結婚しよう。レイシア・ターナー嬢」
と愛の言葉を告げた。
(瞳と同じ色の宝石は、正式なプロポーズの必須アイテム。嘘や冗談やで出していいものじゃない。何この状況)
呆然としたままレイシアは机に突っ伏した。
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