カフェ「グロッサム」にようこそ!

@Adukimame

第1話

毎日何かしらで呼び出され、注意を受ける。

「真田!またか…お前は何なんだよ」

頭を抱える上司。

真田 優志(さなだ ゆうし)、ここに就職して3年。

僕はいつも…同じミスをする。

任された計算…表計算ソフトの入力を一行間違えていた。

しかも、取引先に送ったあと。

どうして…こうなんだ?

何なんだよ、自分が一番自分に訊きたい。

解らない。

なぜ、こんなミスに気づかないのか。

「まーた、真田先輩っすか」

後輩の牧田もため息。

僕は苦笑いをする。

「すみません…」


社内カフェスペース。

僕は会社の近所のコンビニで買ったサンドイッチとカフェラテを持って歩く。

コンビニの袋がぶらぶら揺れている。

いつものミックスサンドと甘いカフェラテ。

「あの人、何であんなにミスするんですかねー」

牧田の明るい声。

あの人、たぶん、僕のこと…。

「あんなやつ、初めてだよ」

先輩の声、そしてため息。

「教えたことも忘れる、もう3年なのに今年の新人と同じレベルだよ」

「それに今やらなくて良いことやってるし、俺だって優先順位分かるのに」

もう何度も聞いて、何度も悔しい思いをした言葉。

なのに僕は抜けてしまう。

「牧田はほんっと育てがいがあるよ」

笑い声。

僕は…その場から動けなかった。

先輩や牧田の言うこと…事実だから。

悪口じゃない。

本当のことは悪口にならないんだ。



電車で10駅。

そこまで来ると都会から住宅街になる。

夕方と夜の間。

『お前、もういいよ。帰れよ』

『はあっ…ほんっと。後は俺らでやりますんで』

僕は鞄を持つ。

後ろで聞こえてくる小声の会話。

『ほんとに帰ったよ、あいつ』

『まあ、いられたら仕事増やされるだけっすよ』

『まあな』

僕は振り向かずフロアを後にした。

聞こえてるのに。

いつからだろう、聞こえないふりが出来るようになったのは…。

いつからだろう、こんなに生きづらく感じるようになったのは…。

電車を降りてアパートまで歩く。

確か冷蔵庫の中には…

あ、何もない!!

いつもの小さな家族経営のスーパーに向かう。

安くて美味しい惣菜がある。

今日も作る気が起きない。


『本日臨時休業』


り、臨時休業?!

ため息…。

仕方ない…今日は…って何もないんだ。

ついてないなぁ。

「あ…」

隣から小さな声が聞こえた。

僕が声の方を見ると黒いワンピースと白いシンプルなエプロンが揺れていた。

腰までの長い髪の毛を渋い茶色のシュシュで一つに縛っている。

身長は160cmくらい…?

丸い顔立ちに切れ長の目…ぽっちゃり系って言うのかな、可愛らしい感じの女性。

彼女が僕を見る。

そして、笑う。

「困りましたね」

彼女の言葉にはっとして僕も

「あ、そ、そ、そうですね」

と返した。

駅前のスーパーは高いんだけど…仕方ない。

「何を買われる予定だったんですか?」

彼女の声にドキッとする。

僕は苦笑いしながら

「あ、お恥ずかしいんですが惣菜を…家に何もなくて」

彼女は僕の言葉を聞き、

「なら!うちに来ますか?!」

と言い出した。

僕は驚きを隠せなかった。

こ、これって逆ナ…いや、違う、こんな冴えない僕なんかをナンパするわけがない。

もしかして、彼女についていったら怖い顔の人達がぞろぞろ…とか!!

「あ、いや、違うんです!!」

彼女が慌てる。

「私、その…」




『カフェ グロッサム』

「カフェ…?」

そこはいつもの帰り道を一本入ったところにある古民家…。

庭が広くて、立派な家。

「結ちゃん、陽一さん、戻りましたよー」

彼女が引戸を開ける。

「茅廣ちゃん、生クリームあったー?」

中から出てきたのはショートカットの女性。

頭には藍色のキャップ。

Tシャツにジーンズで活発そうな女性だ。

「…って、お客さん?!」

「茅廣ちゃん、またお客さんを連れて来ちゃいましたか」

奥の台所から出てくる50代くらいの男性。

白髪交じりの髪の毛にギャルソン風の格好。

「あ、紹介しますね。こちらの女性が仲田 結(なかた ゆい)さん、こちらのおじさんが葉山 陽一(はやま よういち)さん」

仲田さんに葉山さん…。

「私がこのカフェ グロッサムのオーナー宮城 茅廣(みやぎ ちひろ)です」

宮城さん…。

「あ、真田 優志です」


この日出会った「カフェ グロッサム」の結さん、陽一さん、そして茅廣さんによって僕の運命は変わって行くことになる。























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