ンディアナガル殲記【ver.1.11】

馬頭鬼

第壱期 ~ 鏖殺の塩野 ~

~ プロローグ ~


「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」


 ……いつだってそうだった。

 人間なんて、全て死んでしまえと思っていた。

 世界なんて、みんな滅んでしまえと願っていた。


「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」


 下らない授業を聞かされ続けた時。


「消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ」


 人ごみの中で潰されそうな時。


「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」


 街中でゲラゲラと下品に笑うカップル共を見た時。


「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」


 ……隣のクラスで虐められている誰かを見て不快に思いながらも、関わり合いにならないように無視することしか出来なかった時。

 友人がいる訳でもなく、特に趣味がある訳でもない、特技もなければ成績も人並みで、喧嘩なんてしたこともない。

 そんな、なんでもない俺は……そうやって人類の死滅と世界の崩壊を望みながら、気に入らない相手に呪詛と殺意を向けながら、毎日をただただ生きるだけだった。


 ──学校帰りに『ソレ』を見つける、その時までは。

 

 『ソレ』は、人気のない帰り道の、中空に浮かんでいた。

 真っ黒な訳の分からない文字で描かれた、変な模様……ゲームなんかでよく見かける魔法陣と言えば分かり易いだろうか?

 ただ、その真っ黒な文字は如何にも禍々しい雰囲気を放っており、「近寄っただけでろくなことにならないだろう」と俺の直感が全力で叫んでいた。

 だけど……俺がそんなものに向かって何故か引き寄せられるように近づいたのは、いつも破滅を願っていた所為、だろうか。

 それとも、この思い通りにならない糞みたいな世界から逃れられるなら、その先がどんな場所でも構わないと思っていた所為かもしれない。

 そうして恐る恐る手を伸ばした俺が、その魔法陣に触れた瞬間。


「───っ、うわっ?」


 突如、魔法陣から漆黒の手が生え、伸ばした俺の手を掴んだかと思うと、俺をその漆黒の魔法陣へと引きずりこみ始める。


「──っ、や、やめっ?」


 ただの学生でしかなかった俺に、そんな怪異に抵抗する術などある筈もなく……俺は成す術もなく魔法陣の中へと無理やり引きずり込まれてしまう。

 そうして俺の手がその魔法陣の中心部を超えた刹那、俺の意識は一瞬でかき消されていた。


 ……思い返してみれば、この時からだったのだろう。

 ただ退屈と虚無ばかりだった俺の人生が、破壊と殺戮とに彩られてしまったのは。


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