君想い刺す五色の縫取

やすみ

7月におこなわれる節供・七夕たなばたは、中国の「織女しょくじょ牽牛けんぎゅう伝説」と、婦女が裁縫の巧みなることを乞う行事「乞巧奠きこうでん」が日本に伝わり、在来の棚機津女たなばたつめ信仰と結びつき、習合したものとされる。

乞巧奠を日本で初めて行ったのは、『公事根源くじこんげん』では天平勝宝七年(755年) 女帝・孝謙天皇こうけんてんのうであるとし、それより200年も昔、蘇我馬子や物部守屋が生きた時代に日本で行れていた証拠はない。


しかし、あくまで公で行ったのは孝謙天皇が初かもしれないが、個人間で行っていた可能性まで完全に否定することはできないであろう。


乞巧奠が日本に伝わった時期は不明であるが、南朝・りょうの人物・宗 懍そう りんが記した『荊楚歳時記けいそさいじき』によると、荊楚地方(現在の湖北・湖南省)ではすでに織女・牽牛伝説と乞巧奠が紐付いて行われていたことようである。

『荊楚歳時記』の六世紀半ばごろの成立と考えられ、であれば物部守屋や蘇我馬子らが活躍した時代と重なる。

もし大陸からの渡来系氏族や、外交を担い大陸の文化に造形が深かった蘇我氏が乞巧奠を認知し、あるいは彼らが中心となって、ごく一部の氏族の間で行っていたとしたら――


本小説は、そんな空想をもとに書き綴る。

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