3.一緒にいるとすごく居心地がいい
城研は夏休みに研修旅行に行く。
実際に城を見に行くのだ。
中学では修学旅行にも行っていない
電車の中でみんなでトランプをするのも初めてで、楽しくて仕方がないのに、お弁当を食べたらウトウトしてしまった。
「夢うつつのとき、和馬君と
周りには居眠りをしている和花しかいなかったのだろう。ぼんやりしていたので会話はよくわからなかったけれど、普段の先輩後輩とは違う、親しげな話し方だったのはわかった。
「和馬君が、美空先輩を呼び捨てにしてたんですよ。びっくりしました」
苦笑いして見せた和花に、虎太郎が半信半疑の様子で「へえ」と相槌を打つ。二年でなれなれしい言い方をする虎太郎でさえ、部長のことは「美空ちゃん部長」か「美空ちゃん先輩」だ。
真面目な和馬は全員苗字呼びで、同級生の和花のこともみんなのように下の名前で読んだりはせず、「三原さん」と呼ぶ。
(なのにあの時、和馬君ははっきり「美空」って呼んでた)
すごく親しい間柄なのだけはわかり、なんだかショックを受けたけど、その時は何でかわからなかった。
「それで?」
先を促され、和花はどこから話そうかとカップに入ったコーラの泡を見つめる。今のではただの雑談で、驚いたとしても、だからなに? としか言えないものだ。
実際和花自身、夢だったのかもと思ってたくらいなのだから。
◆
研修で訪れたのは岐阜城だ。
「わぁ、きれい」
昨日まで続いていた雨が嘘のように澄んだ青空が広がり、ずっと奥の方にはどこかおいしそうにも見える入道雲が見える。地上を流れる川は鵜飼で有名な長良川だ。
(部活で旅行に行くなんてびっくりしたけど、来てよかった)
「ロープウェイからの景色もよかったけど、天守閣からの眺めは格別だよな」
いつのまにか隣に来ていた和馬に声をかけられ、和花はこくこくと頷く。
「私、お城に入ったのはじめてなんだ。昔ここに、斎藤道三や織田信長がいたんだよね。不思議……」
実際には昭和三十一年に再建された天守閣だが、かつてここに岐阜城があったことも、歴史で習った人物が実際に生きていた場所であることも事実。
「天守って、信長が初めて作ったんでしょう? 最初が小牧山城で、次がここを改修して、えっと次が……」
「安土城だな。堀があって石垣があって天守がある。今の城のイメージを最初に作ったのが信長だと思うと、なんかすごいって思うわ」
「だよね。石垣も実際見て、あんなにバラバラで大きな石を積んでるなんてすごいって思ったよ。現存天守のあるお城も見たくなっちゃった」
「じゃあ来年はそれで企画出そうか。俺も見たい」
「うん!」
和馬に共感してもらい、和花はにっこり笑う。
「私ね、歴史、特に日本のものって苦手だったんだ。でも城研に入って、先生とかみんなの話を聞いて面白くて。実際こうやって来ると、習った出来事に温度があるっていうか、歴史に触れられた感じがするっていうか、すごく不思議な気がする」
めずらしく
少し笑いを含んだような柔らかな相槌に、和花の胸がトクンと、小さく音を立てる。
(同い年なのに和馬君て、時々お兄さんぽいよね)
入学してから四か月弱。
まだ人との距離感が手探りな和花は、和馬と話すたびにドキドキが増え、慣れるどころか緊張が増えていくのに首をかしげる。
嫌いなわけではない。むしろ大事な友達なのに、時々言葉に詰まったり、顔がちゃんと見られなくなるのだ。
他の同級生や先輩方にも慣れてきたのに、和馬ははじめに助けてもらった恩人だと思うからか、親切にされればされるほどそうなり、ちょっと申し訳ない。
和馬は虎太郎よりは少し背が低く、やせ型。
普段制服の時は、ゆったりしたシャツやスラックスに長い手足を持て余してるような印象を受ける。
かたそうな黒髪で、勉強をするときには眼鏡をかけることを、期末のために皆で勉強した時に知った。
(英語教えるのが上手で、すごく助かったんだよね。あれのせいで、余計にお兄さんぽく感じるのかな)
緊張するのに、和馬と一緒にいるとホッとできて、すごく居心地がいい。
その後くじ引きで二人ずつに分かれて行動した時も、相手が和馬で和花はとても嬉しかった。
でもその気持ちが凍り付いたのは、夕方じゃんけんで負けた和花が、コンビニまでお菓子とジュースを買いに行った時のことだ。
宿のすぐ近くにあるコンビニだけど、和馬がすかさず一緒に行くといった。
「俺も行くよ。三原さん小柄だし、ジュースなんて女の子一人じゃ重いでしょ」
二人で行動することは少なくない。小中学生の時みたいに冷やかされることもないため、その時も素直に一緒に来てもらった。
なのに驚きの事実を知ったのはこの直後のことだ。
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参考文献
「図解と写真でよくわかる!日本の城200(監修/小和田哲男・写真、文/薮内成基)」
「日本の城語辞典(監修/三浦正幸・著/萩原さちこ)」
「日本100名じょうのひみつ(日本城郭協会/監修・著/萩原さちこ)」
「子供の科学 2022年1月号」
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