アジサイ

一色 サラ

おおらかな笑顔が。。。

 6月の終わり、中学2年になる藤堂とうどう麻衣まいは、学校の帰り道、マンションにある花壇が目に映った。あれほど何個も咲いていたアジサイの花が減って、緑が多くなっている。

 いつの出来事だったろう、もどかしい思い出が蘇ってきた。 このマンションが建てられる前に、建てられていた家があった。小学校の頃に仲良かった倉木くらきはなの家だ。その庭にもアジサイが咲いていた。 もうあれから3年前が経つ。あの時は小学生5年生だった。


「ねえ、麻衣は誰が好き?」

 アイドル雑誌にを見せられた。華の家に遊び行くと、よくアイドルのことを話題で盛り上がっていた。アイドル雑誌には顔の整った男の子の顔が並んでいる。どの人も同じような笑顔で、色んなポーズをして載せられてた。でも、麻衣はあまり興味がなかった。それに、どの人も同じ顔に見えていた。

「うーんと、大代くんかっこいいよね」

 華に合わせるように、会話している。たいして興味がないのに、アイドルの名前を憶えていた。この家に来るために、華に嫌われないようにしてした

 窓の外から、微かに水の音たした。窓の外を見ると、ホースで水を撒いてる男性の姿が見えた。少し心がざわめく。

「うちのお兄ちゃんって、花が好きなんだよね。」

 華は立ち上がって、外に顔を向けながら言った。

「ふーん、いいね」

「そうかな。男が花好きって、気持ち悪んだよね」

「お兄ちゃんでしょう。」

「そうだけど。一緒に遊んでくれないし」

 華は不満げに言った。でも、優しそうな人だった。初めて、この家に来た時も、こんな夕方の4時ごろに水をホースで撒いていた。さわやかな印象の人だった。でも一度も話したことはなかった。いつも、水やりしている姿しか、見ることができなかった。水を撒いた後は、いつもどこかに出かけているみたいで、家の中で会うことはなかった。

 華とは11才年が離れていているお兄ちゃんで、桃悟とうごという名前らしい。現在は大学4年で、家から大学に通っているらしい。麻衣は夕方に水やりをしている時に遭遇することを期待して、この家に遊びに来ていた。

「こんど、お兄ちゃん、結婚するんだって」

「えっ、そうなんだ」

 麻衣は言葉に詰まりそうになった。

「うん。なんか大学卒業するタイミングで結婚するんだって」

「へー」

 麻衣は、華に好きなことをバレないように装った。どうしても、華のお兄ちゃんが好きになったことを華には気づかれたくなった。   

「来年、大学卒業するから結婚するんだって」

「ふーん。」

「相手の女、あまり好きじゃ何だよね」

「そうなんだ」

 華を刺激しないように言葉を選んだ。麻衣は、結婚することはショックだった。

「なんで、お姉ちゃんって呼ばないといけないんだろう。」

「呼ばなくていいんじゃない」

「そうだよね」

 華の機嫌がよくなったのは良かったけど、麻衣はどうしようもなく苛立っていた。この恋は叶わないのだろう。好きと告白したいけど、恥ずかしくて、それは出来ない。


 部屋のドアがノックする音がして、華のお母さんが顔をのぞかせた。

「ママ、どうしたの?」

「あのさ、麻衣ちゃん、今日はうちで夕食を食べて行かない?」

 突然の申し出に、麻衣は戸惑った。

「麻衣、食べて行ってよ!」

「うん、わかった。お母さんに連絡してみる」

「じゃあ、おばさんからお母さんにも連絡しておくから」

 華のお母さんが部屋のドアを閉めて、行ってしまった。麻衣はお母さんにメッセージを送ると、すでに、華のお母さんから連絡が来ていたみたいで、『食べておいで』とメッセージが届いた。


 ダイニングテーブルに着くと、桃悟さんもいた。

「こんばんは、麻衣ちゃん」

「ああ、こんばんは。」

 名前を憶えてくれていた。なんか嬉しかった。

「お兄ちゃん、何でいるの?バイトは?」

「今日休みだよ。華、何怒ってるの?そんなに藤乃が嫌いの?」

「別に怒ってないし、藤乃さんは嫌いだけど」

「あっそ」

 少し、空気が悪くなっている。なんだろう。麻衣は1人っ子だから、華と桃悟さんとの会話が違和感を感じてしまった。

「ごめんね、いつもこうだから」

 おばさんは笑って言っている。

どこか、静まった空気の中、席に着くと、テーブルには、手巻き寿司の用意がされていた。

「なんか、お祝い事でもあるの?」

 華が不機嫌そうな声で言った。

「まあね。それと違う話もあるんだよね」

 華のお母さんが言った。

「何?」

 華が、さらに不機嫌そうになってしまっている。

「夏休みが終わったら、引っ越すことになったのよ」

「どこに?」

「少し遠いところにね」

 おばさんは少し遠い目で言った。そして、華も凄く怪訝そうなっている。

「あと、藤乃が妊娠したんだよ」

 桃悟さんが、言った。それを聞いた華の顔が段々赤くなっていく。

「だからって、何で今日なの?」

 華の怒りは頂点に立ってしまっているようだった。なんでこんなタイミングで、麻衣もここにないといけないのだろうと不愉快な気持ちになってしまう。麻衣も桃悟さんのことが好きなのに、なぜかすごく傷ついた気持ちになって知った。

「それで、今日、俺もこの家出て行くことになっただよ」

「なんで?」

 華が怒っている。今日出て行くってことは、麻衣も今日で会うのが最後になるかもしれないということかもしれないと思った。

「引っ越しするんですか?」

「そうだよ。麻衣ちゃん、ごめんね」

「そうなんですか」

 華が隣で泣いている。

「お兄ちゃんのバカ。いじわる」

「もう、別に藤乃さんに奪われたわけじゃないのに、なんでそんなに泣くかな」

 華のお母さんも複雑そうだった。兄妹って変な関係だなと思う。そんな空気のまま、手巻き寿司を食べて行った。

 もう、凄い空気のまま時間が過ぎて行った。そのまま、時間が過ぎて、麻衣も家に帰ることになった。

 家に帰ると、どこか恋が終わった気がした。もう、華の家に行く理由がなくなってしまった。

 そのあと、華もどこか落ち込んでいるようで、遊ぶ機会が減って行った。そして、夏休みを過ぎたくらいで、華も麻衣に何も言わず、引っ越して行った。

 家が壊されて、マンションが建った。それから、華とも連絡をしなくなった。恋と友情が終わった夏だった。

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アジサイ 一色 サラ @Saku89make

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