第9話地下都市
その時僕は忌み土地に足を踏み込んでいた。記憶はある。
「ハザン様、歴代の当主の皆々様、ようこそ、いらっしゃいました。テファリーザ王国本国のご帰還おめでとうございます。さぞ苦難の道を歩まれたでしょう、この地下都市、当主達に創られた人造人間の代表としてお喜び申し上げます。執事のアイクルと申します」
有能そうな執事は山羊の頭をしている。頑強そうな兵士も黒い竜の鱗の巨体でテファリーザ王国の家紋の旗を掲げている。美しいメイドも人間大の女性の蜘蛛の姿に戻り、祝福している。
「皆さん、今までご苦労様でした。もう人間の姿に化けていいよ。だいぶ進化が進んだみたいだね、古代からの研究により生まれたいとし子達よ、生活はどうだった?変わりない?」
「もったいないお言葉、私達の主にして創造主であるあなたの苦難に比べれば何ということもありません、数十代の世代に及ぶ研鑽の準備は出来ております。上の連中を駆逐しますか、竜戦士の軍隊の準備は整っております。メイドも教育して賢くしてあります。子供達も元気よく育っております。どう致しますか?ハザン様」
「ううん、当面の目標は『ハザン商会』を広めること何だよね、商品の職人と護衛、それとよく働くメイドも持って行きたい。もちろん賃金は払うよ。上の不良騎士団も追い出したいからね、それと僕の母親はどうしている?亡くなったと聞いているけど……」
「いえ、こちらの監視衛星には生きている姿が確認されています。ハザン様が生まれて直後隠されたのでしょう。こっそり守っていたのですがどうされますか?先ほどの都合はすぐ着きますが、獣人の種類のパターンも増えております」
「このまままだ守り抜いてくれ、会うのはまずい、また気絶されでもしたら、落ち込むからね」階層全体の住民が苦笑に変わる。シュプレヒコールが鳴りやまない。「ハザン様」「ハザン様」の言葉が繰り返し唱えられる。
「アリア様はどうしましょうか?懐妊されておりますが、男の子と女の子、調べましたら、黒い
「二の轍は踏まないよ、父親も僕が適正者ということを知ってこの国を託したよね」
「では、早速人員の手配を送り出します。竜戦士二万、獣人の職人五万、メイド三万、元テファリーザ王国の古城をお使いください。また人員が不足なようでしたらいつでも申しつけ下さい」
「父親の墓はどうしている?」僕は感情のない仮面を被った様に聞く。
「地下都市に埋葬してあります。代々の慣習なので、お祈りしていかれますか?」
「ああ、ありがとう、でも記憶や経験値はあるのに自分の墓参りみたいだよ」
「案内します石室の奥に埋葬されています。メイドに案内させますのでカイル様達には先に話しておきましょう。本日はご帰還おめでとうございます」
僕はメイドに案内されて光の道へ転送される。石室には代々の自分の体が眠っている。ゆっくり祈りを捧げて、メイドから花束を受け取り、石室の前の祭壇に置く。十五年かかったよ、お父さん。安らかに眠ってくれ、お母さんは必ず僕達が守るから」
メイドはその横顔を静かに見守っていた。自分のことはシズと呼んでくれと自己紹介して、玉座の間に戻る。光の道を歩かず宙に浮き先に進みながら戻る。座ると今後の計画が話される。
元テファリーザ王国に独立運動を流行らせる計画だ、軍隊との交戦もあるだろう。『
「あなた、お茶を持ってきたけど、カイルからいい報告があったわよ」
扉を開けてアリアが入ってくる。仕事机で書類を片付けながら、アリアの方へ向けて笑みを浮かべる。「へえ、早速仕事が動いたね、カイルは何と言って来ている?」
「赴任先の兵士と職人や女性の働き手が炊き出しを行っているわ、不良騎士団も徐々に追い出されて、住民が安心しているようよ、凄く強いって評判なの、職人の腕もいいし、元テファリーザ王国時代の古城も清掃してくれているそうよ、雇用契約書をセイラが交わしているけど、空いている部屋があるから『ハザン商会』で使ってくれと言っているわ、もちろん許可はいるけど、雇われた交渉人が大国に使っていいという許可の報告もあるの。呪われた城だけど、しばらくしたら引っ越したらいいそうよ。不良騎士団が攻めてきたら危ない物ね」
「そうだね、そうしよう。あちこちに準備して置いた甲斐があったという物だ」
僕はアリアのご機嫌な様子を見てお茶を飲む。新しい農作物も買い上げないといけないな、だいぶ進化して食べやすく育てやすく加工しやすい。書類を見て判を押す。
「ハザン、これからこの地方は生まれ変わるよ、兵士が屈強で強すぎるくらいだよ。職人の腕もいいし、メイド希望の人が面接に来たよ。女性達が力になってくれて助かる。セイラと現場を視察して来るから、仕事頼んだよ。守りは兵士長のガダンさんがやってくれるから、職人たちと農作業機械車の技術を詰めてくるよ。それじゃあよろしく」
機嫌良さそうに飛び出していくカイルにセイラが「カイル新技術に浮かれているの、もう子供じゃないのに騎士団長としてついて行くわ。それじゃあハザン」セイラも出て行く。
「あのう、メイドの面接に来たシズと申します。責任者のハザン様ですか?」
おずおずと背の高い美人が面接を受けに来る。
「私も面接するわ、ハザン仕事しましょう」アリアが張り切っている。
予定調和だなと思いつつ、「執事も募集しようか?元テファリーザ王国時代の古城に住むなら管理してくれる人を考えなくてはいけないからね」アリアに聞いてみる。
「いい考えね、しっかりお姫様気分だわ、昔からの夢だったの―――」
「それはいいですね、知り合いの引退した紳士が働きたいと話していました。採用されたなら聞いてみますね」
「ふうん、ハザンには美人過ぎない、もう少し年配でも仕事が出来る方がいいかも知れないわ」それでも機嫌が良いことにアリアは笑みが隠せない。
「アリアが出産する時に女手は必要だよ、『ハザン商会』は儲けているし、後で幾らでも女性の仕事は増えてくるよ」アリアを落ち着かせて、面接を始める。特に品性に問題なし。勉強も護身術の心得もある。子供の頃に赤ん坊を取り上げたこともあると聞いて採用になった。医者を目指していたらしい。知識も問題なかった。
シズは身支度して帰ると、兵士長のガダンさんがやって来て、その巨体で丁寧に挨拶をする。不良騎士団を掃討中だと聞いて、満足する。警護の仕事があるので階下に下がっていった。アリアと一緒に書類仕事をしてお昼を食べて、また作業に戻る。夜になり、交代で夜勤をしてくれる兵士にアリアがお弁当を作り持って行く。一緒の寝室に寝て、手を握っていると「あなた、私妊娠した気がするの」と話してくる。落ち着かせると、どうやらまだわからないらしいが女の勘というやつらしい。アリアも運命かなと思い今日は眠りにつく。明日にはアイクルが面接に来て、引っ越しが始まる。まだ嘘でも「元気に生まれろ、子供達」といい眠りの中に落ちた。滝に落ちた夢はまだ尾を引いてまだ傷を長引かせていた。
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