第7話母国帰還

 あっという間に学校の三年制、成績が良ければ二年制の上位クラスまで行ける。セイラに勉強を教えてもらって、三年間を一年で卒業する。セイラの家に遊びに行って、大国の大量の本から新しい技術や勉強を学んでアリアもカイルも、もちろん僕も教えてもらい、セイラの知識や知恵を吸収して、無事飛び級を果たす。大国の技術はかなり進んでいて、古代から続くテファリーザ王国には劣るものの新しい剣術や闘法、農作物や支配管理の仕方など、この十五年でテファリーザ王国の技術を吸い取るだけ吸い取っていた。大半は物真似に過ぎなかったが、新しい技術に開発など熱心な様子だった。元テファリーザ王国にはそれを還元せず一方的に搾取している様子で噂も流れていた。呪われ子の土地の全ては奪いつくして当然の受け取り方に怒りを覚える。秘匿の本に蒸気機関の仕組みまで記載されている。代々の当主の記憶と経験値では古代魔術を含めてもっと高度な文明があったらしい。元テファリーザ王国の隠し研究所には国王代々の技術が眠っている。まずその場所に行かなくてはいかない。三人が手伝ってくれる『ハザン商会』は順調すぎて、大国まで支店が出来ている。代々の当主の研究で魔法薬、それから生まれる農産物の新種の種、火傷や切り傷、打撲や骨折、内臓疾患や流行り病まで癒す効果を発揮する薬、魔法薬の試薬で走る四輪の車、巨大なものは蒸気船など、小さなものは可愛い小物など、それぞれの町で生産する工場や働き手、大国の貴族の出資者の訪問など、よその大陸まで評判が伝わり、巨大な産業として成長していった。


 責任者として二年制の上位クラスに通いつつ、お客様の応対や元テファリーザ王国にも支店を出す計画を練っていた。農作物は大口の商売で一年中需要があり、加工してもおいしく、パンに混ぜこむことにより美味な食材ばかりだった。新しい料理のレシピの覚え書きを書いて活版印刷で出版したり、古代魔術で加工した木材やゴムで試験的な四輪の車を作ったり、大国ではもう車が売れて大衆車となって、走り始めていた。蒸気船も造船所で造り上げ、大国が先物注文して職人の働き手が不足していた。蒸気機関車は大国で実験的に始められるようで計画も発表してあった。僕は各地方からの書類を片付けて、セイラは副責任者として、カイルはその護衛役となり、アリアは秘書の役目を担ってくれて、各方面からの仕事をこなすようになっていた。学校からも十五歳で二年制の学業は免除してはどうかと聞いてくる。成績も実技ももう卒業を軽くこなしていた。カイルは四輪車に興味を持って、新しく開発したがり、猛勉強をセイラと始めていたし、セイラと一緒にも子供達に公用語の書き読み計算を教えて充実した日々を送っていた。アリアは剣の訓練を一緒にしたり、これからの元テファリーザ王国の支援を計画したり考えている様子だった。車を私用で二台買ってカイル達と使っていた。村長さん達にも一台送ってすごく驚かれていた。『ハザン商会』がここまで大陸に名をはせる程大きくなるとは思わなかったらしい。アリアは夫人として鼻が高いらしい。


 久しぶりに学園長に挨拶に行くと、「ハザン君の商会がこんなに巨大になるとは思わなかった。二年制の上位クラスを経て、騎士団長になる予定だが、セイラもアリアもカイルも同列だ。孫娘があんなに生き生きと仕事をこなす時が来るとは夢にも思わなかったよ。赴任先は元テファリーザ王国だが、君ならよくやってのけるだろう。しかし、新種の農作物やあの四輪車の技術といい、燃焼機関の試薬といいよく思いつくな、今では君の方が大金持ちだが、君が特別な存在に思えるよ。卒業には論文が必要だが、提出されたものとしては当校で一番画期的だよ。剣の腕も弓矢も成績は一番だ、ここに略式だが卒業資格を与えることにする。おめでとう、また世界で活躍して、この学校を有名にしてくれ、後でセイラ達も卒業資格を与える。カイルはいい青年になるな、孫娘が取られると思うと正直はらわたが煮えるが、四輪車の次の世代にかける情熱は見ていて愉快だよ。進展があったら報告を忘れないようにと話を通して置いてくれ、騎士団長に相応しい仕事をしてくれればいいが、もう飛び越えている気がするよ。仕事に集中していいぞ、騎士団長として存分に働きなさい、君のことだ、元テファリーザ王国の住民も良くするのだろうが、あまり無理するなよ。育ての親に報告もして置いたらどうだ」と話し終えて僕達は学校を惜しむように去って行った。

「ハザン、今日はダヤンの墓参りに行きましょう。これからのことを一緒に話し合いましょう。家に泊まるといいわ。思い出話もしたいから……」

「そうだね、久しぶりに村に帰ろうか、ダヤンに報告したいことが山ほどあるからね」

 四輪車を走らせ村の村長さんの家に着く。村人が寄って来て話しかけてくる。

「ハザン、ダヤンの墓参りか、学校はもう卒業か、村もお前のお陰で活気が出て助かっているよ。新しい農作物はおいしいし、作りやすいな。病人も怪我人もすぐ治る。村の誇りだよ」

「ハザンの商会大きくなったな、お前のお陰で年を越せた。子供も職人になりたいと興奮しているよ。四輪車なんてよく実現できたな。お前は子供の頃からすごかったよ」

「これが四輪車か、いい出来の物だな、騎士団長になったって、すごいよ、ハザン達」

 村人に挨拶して村長の家に入る。


「ハザン、アリアよく来たな、今日は泊っていくのかい、ダヤンの墓参りに来たのか、共同墓地に行ってくるといい。お前を育ててくれた立派な親だ、花束も持ってアリアもよく挨拶して来なさい」アリアは花束を用意してくれる。

 僕達は共同墓地に行き、ダヤンの墓を掃除して花束を置く。しばらく動かない。

「ダヤン、ダヤンが拾ってくれなかったら死んでいた。おかげでここまで育ったよ。騎士団長にもなれた。『ハザン商会』も順調だ。アリアとも子供を儲けるつもりだ。天国で見守っていてくれ、目的を遂げるまで死ねない、だから僕が返せる精一杯の恩返しだよ、ダヤン」

「ハザン、あなたの言うことはわからないけど、私あなたについて行く。結婚式はまだだけど、今日は一緒に寝ましょうね」アリアは手を握りしめてくる。

「そろそろ帰ろうか、アリア」ダヤンお墓の前で祈りを捧げる。

「はい、あなた」アリアは浮き立つような心を上手く動かせなかった。

 翌朝朝早く自分達の家に戻り、元テファリーザ王国に向けて出発する準備を始めた。カイルとセイラにも話して、町の教会で結婚式を挙げることになった。各町の名士や職人の女性達、助け出された子供達、学校の友達など、アリアの両親や村の皆も招待して盛大に行った。


 村長さん達やカイルとセイラ、学園長も挨拶して結婚式は三日三晩続いた。賑やかに行われるそれを見て、アリアは幸せそうにしていた。皮鎧をダヤンの墓に飾って来た。餞別のつもりで感謝の印だった。今までありがとうダヤン、僕は嘘をついていたけどこの気持ちは本物だ。アリアとの子供も呪われ子かも知れない。そうすると、僕の記憶も経験値も受け継ぐだろう。黒いまなこにアリアは怯えるかも知れない。勇気を出して伝えようと思う。僕は十五年前のテファリーザ王国の呪われた王子だと、あの国を立て直すまで死ねない。子供達は全力で守る、代々受け継いできた数十代の当主の力で、アリアを守る。カイルとセイラも認めてくれるかわからない、でも伝えるよ、ダヤン勇気を与えてくれ、祈るような気持ちで、結婚式を見つめる目には皆が幸せそうに祝ってくれる姿しか映らなかった。結婚式が終わり、大陸をまたいで、蒸気船に乗り大国に渡った。四輪車でアリアとカイルとセイラと一緒に騎士団長として、元テファリーザ王国に赴任した。『ハザン商会』の支店はもう建ててある。家もそこに建てた。カイルもセイラも良くついて来てくれたと思う。騎士団長として『ハザン商会』の責任者としての仕事の日々が待っていた。元テファリーザ王国は書類を見た限り、荒れ果てていて、治安も悪くまだまだ、人の助けが必要だった。炊き出しから始めなければいけないと思いつつ、母国に帰って来たという事実が僕の中に徐々に浸透していった。



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