まごころを込めて君に捧ぐ

詩村巴瑠

まごころを込めて君に捧ぐ

                 

西村と上倉が教室の席に向かい合うようにして座っている。(西村は前の席の椅子の向きと逆向きに座って上倉の方を向いている)


西村 あいつ遅くね?

上倉 言い出しっぺなのにな

西村 抜け出してくんの失敗してたりして

上倉 あり得るな、あんな嵐みたいなやつが生まれてきたとは思えない程善良な親御さんだし

西村 あんなにタイプ違うのに仲良さそうなのすごいよな

上倉 な、普通に羨ましいわ

西村 そういえばお前んとこはどうよ、最近聞かないけど

上倉 相変わらず。もう、言葉すら通じないから。モンスターだよ

西村 お受験モンスター?

上倉 なんかなぁ、自分の成功体験を子供に押し付けてくんのウザいよな。母さんにとって上手くいったことでも俺に合ってるとは限らないのに

西村 お前、難しいこと言うね

上倉 そうか? 

西村 お前頭いいからな、難しいこと考えられるの普通に尊敬する

上倉 ……同じ言葉でもこんなに違うもんなんだな

西村 ん?

上倉 いや


西村 そういや、校門って防犯カメラついてたっけ どうしよう、俺映ったかも

上倉 え、お前 馬鹿正直に正門から来たの?

西村 そうだけど

上倉 裏手のフェンスの破けてるところから来いよ

西村 え、そんないいとこあったの

上倉 学校の防犯意識を疑うよな

上倉、鞄からお茶のペットボトルを取り出そうとして落とし、ペットボトルが転がる

上倉 うわっどこだ……(机の脚に足をぶつける)痛っ

西村 声大きいって

上倉 仕方ないだろ痛かったんだから、(転がったペットボトルを探しながら)あれ……どこ行った

西村 じゃじゃーん、懐中電灯(ドラえもんの声真似で)

上倉 お、

西村 明かり、必要だろ

上倉 お前、えらいな

西村 どうせお前も冬川も持ってこないだろうからな


 扉が開いて冬川が教室へとづかづかと入ってくる

冬川 お待たせー

西村 おっそい

冬川 いやぁ、寝静まるの待ってたら遅くなっちゃったー

上倉 言い出したのお前だろ、遅れるなよ 

冬川 だから、今謝ったでしょ!

上倉 いや、謝ってないけど

冬川 え、嘘

上倉 それにさ、お前うっきうきだけど、こっくりさんって小学生とかがやるやつじゃない?

冬川 えー、上倉ってアニメは子供が見るものでしょとか言っちゃうタイプ?そういうの嫌われるよ

上倉 そういうことではないだろ。それに俺がアニメが好きなことは冬川も知ってるだろ

冬川 うん、知ってる

西村 遊ばれてやんの

上倉 大地は納得してるのかよ

西村 別に冬川の気まぐれは今に始まったことじゃないだろ

冬川 物分かりがよろしい

西村 あと普通に三人で集まっておきたい気持ちあったから。お前これから大分忙しくなるだろ

上倉 まぁそうだけど、お前俺のこと大好きかよ

西村 愛してるよマイハニー

上倉・冬川 気持ち悪い

西村 おい

上倉 でも夜中にわざわざやることないだろ

冬川 昼間にやっても雰囲気出ないから 丑三つ時にやったら説得力増すでしょ

西村 そういうもんなの?

冬川 丑三つ時は中国の陰陽五行っていう思想が由来で、陰の力が一番強いと言われている時間なのです

上倉 わかった 深夜にやらないといけなかったのはよくわかったよ、もういい

西村 それはともかくそういえば俺、冬川の進路知らないんだけど

上倉 確かに

冬川 服飾の専門学校

西村 服好きだもんな

冬川 西村の感想ってなんか浅いよね

西村 えっ

上倉 わかる

冬川 まぁそこが良いんだけど

上倉 わかる

西村 なんだそれ、褒められてるのかけなされてるのかわかんないな

上倉 褒めてる

西村 あ、そうなんだ やっぱ俺の事好きじゃん?

上倉・冬川 気持ち悪い

冬川 いちゃついてるところごめんだけど、こっくりさん早くやるよ

   はい、椅子持ってきて

西村 はーい


西村・上倉 椅子を冬川の座る机まで持って行って座る


冬川 こっくりさんで準備するもの! じゃじゃーん。(鞄から取り出しながら)五十音表と鳥居とはい、いいえを書いた紙、十円玉、以上。

西村 すごい、これ冬川が書いたの?(冬川が書いたこっくりさんの紙を覗き込む)

冬川 そう。自分で書いたやつでも効果あるかな?霊感とかちゃんとある人が書かないといけないとかあったら嫌だな

上倉 まぁ、こっくりさんって割とメジャーだし、結構成功してる感じあるし大丈夫なんじゃない。成功していいのかはともかく

冬川 楽しみだな 未知のものとの遭遇より胸が高鳴ることはないよ 次は宇宙人と交流してみたい

西村 まだこっくりさんもやってないのにもう次の事かよ

上倉 こっくりさんまではまぁ小学生ならやるかって感じだけど宇宙人と交流まで来たらいよいよやばいやつだなって感じだぞ

冬川 そうよ 私はやばいものにひかれてるんだから 変人で上等って感じ

西村 冬川が変なのは今に始まったことじゃないだろ

上倉 そうだったわ

冬川 さてさて始めていきますよ まずは五円玉を鳥居の上に乗せて~ 

西村 五円玉? 十円玉じゃなかったっけ

冬川 五円玉の方がこっくりさんとご縁が出来そうだから!

上倉 こっくりさんとご縁作りたくないよ俺

冬川 五円玉を置いたら~、「こっくりさんこっくりさんどうぞおいでください、もしおいでなされましたら『はい』へお進みください」って言います 

西村 はい、先生

冬川 動かない場合は何度も繰り返します  どんな質問しちゃおうかな 上倉の好きな人とか

上倉 やめろ

冬川 あ、その感じはいる感じ?

上倉 ルール説明を最後までしてください先生

冬川 よろしい 質問に回答してもらうごとに「鳥居の位置までお戻りください」と言います 最後は「こっくりさんこっくりさんありがとうございました」って言って終わりです なかなか離れてくれなくても離れてくれるまでお願いしないといけません あと始まってから終わるまで絶対に五円玉の上から手を離さないこと

西村 離したらどうなるんだろう

上倉 やってみれば

西村 やだよ、呪われる

冬川 確かに気になるね 西村呪われてみてくれない?

西村 なんでそんなに軽い感じで物騒なお願いされてんの俺

冬川 台詞はメモしてきたからこれを見なさい

西村 お、準備万端じゃん

冬川 上倉はともかくお前には覚えきれないだろうと思って

西村 酷い

上倉 事実だろ

西村 酷いやつしかいない

冬川 よし、始めるよ

西村・上倉 はい

三人は深呼吸をする

三人 こっくりさんこっくりさんどうぞおいでください

 五円玉は動かない、三人は黙って顔を見合わせる

三人 こっくりさんこっくりさん、おいでください

 五円玉は動かない

三人 こっくりさんこっくりさん、おいでください

  その時、大きな音が鳴った 扉が開け放たれ、そこには黒崎侑が立っている

冬川 (小さな声で呟く)こっくりさん……

西村・上倉 (こっくりさん?という顔で黒崎を見る)

黒崎 犯人はお前だな、西村!

西村 は?

上倉 えっ?

冬川 ちょっと儀式の邪魔しないでよ

黒崎 え、何やってるの

上倉 こっくりさんは別に儀式ではないだろ

西村 俺が犯人ってなんの話だよ

黒崎 っ……。毎日毎日懲りもせず、僕に嫌がらせをしてくる犯人ですよ!

冬川 嫌がらせ?

黒崎 はい。下駄箱の中に手紙を入れてくるんです

冬川 脅迫状とか?

黒崎 いや……。(目を逸らして言いよどむ)

西村 果たし状とか?

黒崎 違いますよ 貴方は犯人なんですから内容知ってるでしょう

西村 だから知らねぇよ なんの根拠があってそんなこと言ってんだよ

黒崎 手紙の内容は、ラ……

冬川 ラ?

黒崎 ……恋文です

西村 コイブミって……、ラブレター!?

黒崎 そうです

西村 お前に!?

黒崎 だからお前の嫌がらせなんじゃないかって思ってるんでしょう!僕だってわかってますよ! 自分にラブレターなんか送るもの好きな女の子なんていないことぐらい。

西村 いや急に叫ぶな

冬川 え~良かったじゃん お返事はしたの?

上倉 冬川、お前今までの話聞いてなかったのか?

黒崎 返事は、しました

西村 いやしたのかよ!

黒崎 数パーセントの奇跡にもかけたくなってしまうのは男なら仕方のないことでしょう!

西村 ま、まぁそうだよな ファンタに入ってる果汁より少ないパーセントだと思うけど   

黒崎 数パーセントって言ったのにわざわざ一パーセントに限定しなくていいんですよ

冬川 ほんとに女の子からの手紙かもしれないよ?

西村 まさかぁ

黒崎 希望を持たせる方が時には残酷なこともあります

西村 いや待て、返事が出せるなら誰がくれたかわかるはずだろ

黒崎 いや、そうじゃなくて僕が返事を出したのは手紙が毎日靴箱に入れられるようになったからで、自分の靴箱に返事の手紙を置いといたら次の日に手紙を入れに来たやつが見るかなって思ったんです

上倉 じゃあ返事は出したけど誰がくれたかはわかんないんだ

黒崎 そうです

冬川 ラブレターはどんなかんじのこと書いてあったの?

黒崎 最初の日のやつには好きです、とだけ

西村 もしかすると人違いとかも可能性あるんじゃないか?

黒崎 僕もその可能性を考えましたよ でも二通目、三通目が具体的なこと書いてあったから

上倉 ていうかこっっくりさんどこ行ったんだよ

黒崎 こっくりさん? (机の上に広がる紙や五円玉を見る)そんなことやってたんですか

冬川 こっくりさんはいつでも出来るけど、「ラブレターの差出人を探せ青春ミステリーゲーム」は今日ぐらいしか出来ないからいいかなって思って

上倉 俺ら引っ張り出されたのに

西村 意外と乗り気だったみたいだぜ   

上倉 違う、せっかく来てやったのにって言ってんの お前は文句ないのかよ

西村 俺は別にお前らと思い出作り出来たらそれでいいし 

上倉 お前、よくそんな気障な台詞さらっと言えるな

冬川 それに黒崎君が困ってるなら助けてあげないと!

西村 お前それ半分楽しんでるだろ

上倉 冬川の怖いところは半分は本気なところだけど

黒崎 いいんですか

冬川 勿論 クラスメイトのよしみですもの!

上倉 なんて希薄なよしみなんだ

西村 うちの家のカルピスくらい薄い

上倉 さっきから、お前の中ではジュースで例えるの流行ってんのか?

黒崎 うちのカルピスは濃いので大丈夫です

上倉 お前も何が大丈夫なんだよ!

西村 で、どうつながったら俺が犯人ってことになるんだよ 話の流れが全然読めねぇけど

黒崎 そうして、その日から毎日手紙が届くようになったんです

冬川 毎日?

黒崎 はい、今日の朝まで 最初は嫌がらせだと思って無視していたんです ですが、三日目くらいからもしかするとこれは本当のラブレターなんじゃないかという気持ちが芽生え始めて、僕はまずいと思ったんです

冬川 どうして?

黒崎 だって、そんな。僕のことが好きな女の子なんているわけがないのに。期待しちゃうじゃないですか

西村 正直、名乗らず、毎日手紙入れ続ける女子って……たとえ本当のラブレターでもご遠慮したいけどな

黒崎 そういうのは選り取り見取りな人だから言えるんです

西村 わかった、ごめんって。もう黙ってるよ

黒崎 四日目、手紙をもらった僕は思いました。「そうだ、返事を書こう。返事を書いて自分の靴箱に入れておこう。そうすれば、嫌がらせなら、馬鹿め、引っかかったなみたいな返事が返ってきて僕の目を覚ましてくれるに違いない。」と思ったんです 

上倉 黒崎って意外とネガティブな考え方するんだね 

黒崎 保険かけておかないと、期待しすぎると、心が粉々になりますからね

冬川 違ったらその都度傷つけばいいのに

西村 ダイヤモンドの心を持つやつが言ってもな

冬川 綺麗な割れ方したら輝くようになるかもしれない

西村 上手いこと言おうとするな

黒崎 本題に戻しますけど

上倉 なんか可哀想になってきた

黒崎 そうして僕は四日目の朝、返事の手紙を自分の靴箱に入れました そして五日目の朝、返事が返ってきました

西村 え、返ってきたんだ。嫌がらせなら返ってこないだろうなと思ったのに

黒崎 それがこれです

   黒崎、鞄から手紙を取り出して見せる

   冬川、受け取って読み始める

冬川 「お返事ありがとうございます。まさか返事が返ってくるとは思っていなかったので驚きました。私はただ貴方に、貴方のことを好きな私という存在がいることを知ってもらいたかっただけなんです。これで黒崎君の知りたい返答になっているでしょうか。」うわーなんかめっちゃ清楚な感じする

西村 いや……なんつーか疑って悪かったというか

黒崎 僕だって嫌がらせだと思ってましたけどこんな丁寧な返事貰ったら本当に自分のことを好きな人がいるのかなって思うじゃないですか

西村 でもそれだったらやっぱり俺のことを犯人だと思うのは違うだろ!

黒崎 だってまさか夜中にこっくりさんを学校でやろうとする馬鹿がいるとは思わないじゃないですか だからてっきり、結構朝早くに登校する方の僕より先に学校に来ている人が犯人、もしくは僕のことが好きな女の子だと思ったんですよ

上倉 で、冬川が黒崎のことが好きだという可能性は考えないで西村が犯人だと?

黒崎 そりゃあだって……

西村 そりゃあなぁ、ないよなぁ

   西村、冬川の表情を伺う

冬川 だとするといつも朝早く来てる人の中に黒崎を好きな人がいる可能性が高いってこと?

   冬川、机に手紙を置く

黒崎 まぁ、そうなるんですかね

冬川 上倉、なんか知らないの? 図書室行って朝勉してるの知ってるけど

上倉 朝図書室に来る物好き、俺以外にいないからな。教室に来てるやつは知らない

冬川 そっかー

黒崎 朝勉してるって真面目ですね

上倉 まぁ、親にそう言ったら、朝、顔合わせないで出てこれるし

冬川 あぁ、それでなんだ

   西村、冬川が机に置いた手紙を覗き込む

西村 それにしても綺麗な字だな

冬川 ほんとだ~ これは女の子だよ やっぱり嫌がらせなんかじゃないよ

黒崎 そ、そうですよね?

上倉 字が綺麗な男子の嫌がらせっていう可能性もなくはないとは思うけど

黒崎 可能性が低いなら言わなくてもいいと思います で、こんな丁寧なお手紙もらったら返事を書かないわけにはいかないじゃないですか? そこから靴箱で交わす僕と彼女の文通が始まったんです

西村 これって惚気聞かされる会だっけ?

黒崎 ほんとに気になってるんですよ。文通相手が誰なのか

冬川 今わかってることって、字が綺麗な人で黒崎よりも早く来てる人っていうことだけだよね 

西村 両方、当てはまるやつかぁ 藤村は?

上倉 藤村さんは字は上手いけど意外と遅い時間に来てる

西村 ん~そっかぁ

冬川 鈴木さんは?

上倉 鈴木さんは確かに俺より早い時間に来てるけど、字はそんな上手くない

冬川 わかんないよ? ラブレターの時は本気出してるかもしれない

上倉 書道の時に本気出さないのにラブレターになったら本気出すのかよ

西村 鈴木さんって晴翔と一緒で芸術科目選択書道なんだ

上倉 そう

黒崎 岡山さんとか、確か書道コンクールで賞を取ってた気がするんですけど、

冬川 岡山さんは彼氏持ち

黒崎 なるほど……

西村 こんなに字が上手かったら覚えてそうなもんなんだけどなぁ この学校で特別字が上手いやつって藤村とか岡山くらいしか印象にないんだよな

黒崎 その後の手紙にもヒントがあるかもしれないのでこれも

   黒崎、鞄から四つ手紙の封筒を取り出して机に置く

西村 そういうのは先に言えよ

黒崎 それは貴方が惚気とか言うから!

冬川 「好きなもの、そうですね最近は受験勉強で忙しくて自分の時間を取れていないことが多いんですが、対策のために源氏物語を読んだら意外と面白くて試験に出なさそうなところまで読んでしまいました。黒崎君は普段、どんな本を読みますか?」 このこ、文学少女だ

冬川 「夏目漱石の『こころ』が好きだと聞いて驚きました。私が教科書に載っている中で一番よくわからなかった作品だからです。」 

西村 おい、お前の好きな小説よくわからないって言われてんぞ

黒崎 続きを読んでください

冬川 「私がよくわからないと思ったのは、先生は親友が死んだときには死のうと思わなかったのに天皇が自殺した時には死のうと思ったことです。ここの黒崎君の考えを聞きたいです。私には先生の考えも黒崎君のこともよくわからないけど、よくわからないからこそ気になって惹かれるところがあるのかもしれません。」 誌的な文章だ

黒崎 僕のことをミステリアスだと思ってくれているんですよ!

西村 よくわからないやつとしか言われてないだろ。ん、なんか聞いたことのあるような……

   西村、何かに気づいたようなはっとした顔をする

冬川 なに? 気づいたことがあるなら言いなさい

西村 いや、……そんなまさか

黒崎 なんですか?わかったんですか、誰なのか

西村 いや、そんなわけがないし……これは言えない

冬川 はぁあ? わかったなら言いなさいよ 私はっきりしない人嫌い

西村 嫌いって……

   西村、困ったように頭をかく

黒崎 でもこのままだとわからないままでモヤモヤします

冬川 じゃあヒント!ヒント頂戴

西村 え、無理

黒崎 なんでですか、やっぱり西村さんは僕に意地悪したいんですか

西村 そういうわけじゃないって ただ俺は双方のためを思って……

冬川 何それ 

   西村、助けを求めるように上倉を見る

上倉 これだけ考えてわからないんなら、もう無理だろ 西村の様子だと知らない方が幸せ案件っぽいし

冬川、不満そうに唇を尖らせる

黒崎 そんなぁ

上倉 もう三時だし、帰ろうぜ 明日の授業寝ることになる

冬川 えーじゃあじゃあこっくりさんだけでもやって帰ろ

上倉 もう丑三つ時じゃないし、眠いって

上倉 仕方ないな 一回だけだぞ 一回で来なかったら終わり

冬川 やったー

西村 お前も結構冬川に甘いな

黒崎 これ僕も参加するやつですか?

冬川 こっくりさんに、黒崎の事好きな子のこと聞けばいいかなって

黒崎 それって信憑性あります

冬川 そりゃあ、こっくりさん信じてない派が言うには十円玉が勝手に動くのは手で押さえてる人の中に動かしてる人がいるからだって言うけど、それはだって信じなかったらなにも始まらないし楽しくないでしょ!夢の国のきぐるみを指さして中に人が入ってますよねって言っちゃうようなものだから

黒崎 なるほど?

冬川 まぁ、こっくりさんは存在するんですけど

上倉 やるなら早くやるぞ

冬川 はーい じゃあ皆、五円玉に手を置いて

   全員、机の上の紙の五円玉に手を置く

冬川 こっくりさん、こっくりさん

十円玉は動かない、四人は黙って顔を見合わせる

四人 こっくりさんこっくりさん、おいでください

西村 駄目だな

冬川 うわーん、そんなぁ

上倉 また今度にしよう

冬川 なにが駄目だったんだろう、やっぱり紙を自作したから? 専用の紙を入手するべきだった? それとも場所の問題? 霊感がないからだったらどうしよう……

黒崎 手紙の件忘れてません?

西村 すまん、黒崎こいつこういうやつなんだ

上倉 今日はもう遅いし、帰ろう

冬川 今度はやってくれるってその今度いつ?

上倉 え、あー受験終わったら

冬川 ほんと?

上倉 約束する

冬川 指きりげんまん

   上倉、ため息をつく

冬川、上倉 指きりげんまん嘘ついたらハリセンボンの~ます指切った

黒崎 (目をこすりながら)僕は朝まで、下駄箱に手紙を入れるところを見張ります

冬川 じゃあ私もそれに付き合う

西村 いや、お前明日の授業の用意持ってるのか

冬川 持ってない

西村 じゃあ駄目じゃん

冬川 えー気になる

上倉 わかった 

冬川 なにが?

黒崎 もしかして、わかったんですか? 誰が手紙を書いた人か!

上倉 わかった、言うよ 俺だよ

黒崎 下手な冗談言わなくていいですよ

上倉 冗談じゃない 手紙を書いたのは俺だ そんな顔で見るな、魔が差したんだよ!

   テスト前に徹夜して塾の課題やった朝にちょっと息抜きに本読んでたら見つかって親に怒られて、喧嘩になって家飛び出した衝動で何かに当たりたくなって、それでラブレターを偽造するなんていう小学生みたいな嫌がらせをした

冬川 えぇ、嘘

黒崎 僕の夢と希望が……

上倉 現実には知らない方が幸せなこともある 

西村 俺がせっかく止めてたのに

冬川 一日目は嫌がらせなのはわかる でも、どうして二日目、三日目と手紙を書き続けたの? 嫌がらせにしては内容がありすぎたし 

黒崎 それはそうですね、気になります

上倉 三日目まではまだ信じてないみたいだなって思って……言ってて思ったけど普通に最低だな、俺

黒崎 そうですよ、謝ってください

上倉 ほんとにごめん……

黒崎 許します

上倉 甘くない? だって俺、だいぶ酷いやつだよ?

黒崎 だって、四日目からは嫌がらせのつもりじゃなかったってことですよね?

上倉 いや、まぁ……

冬川 え、それってまさか本気でラブレターを? え、私偏見ないから応援するよ?

上倉 違うわ! いや、その……、朝勉って言って図書室に通ってたんだけど親と朝顔会わさないための口実だったから暇で…… 手紙に返事してたらなんか文通が楽しくなってきて

西村 『こころ』の先生の気持ちがわからないってのも本当のことだもんな 前に言ってたからそこでわかった

冬川 確かに考えて見れば黒崎より先に来てるし、手紙が入れられるようになった日と朝勉を始めた日は同じだ

西村 こいつ、普段の字は汚いけど、書道コンクールで賞とってたことあるしな

冬川 女子だと思ってたから全然気づかなかった

黒崎 無意識に犯人を除外させる、よくあミステリーの手法ですね いやぁ、好きになる前で良かった 

上倉 お前、文字しか知らないやつのこと好きになるのかよ

黒崎 好きな本とか、映画とか音楽の趣味は知ってますよ

上倉 文通だけで恋って、平安時代か

黒崎 僕は好きですけどね、ロマンティックで

上倉 これで満足した?(冬川の方を向いて)

冬川 うん、謎は解けたし

上倉 そうか、じゃあ帰るぞ

黒崎 上倉くん、

上倉 なに?

黒崎 また、文通したいです

上倉 は?正気か、こっちは嫌がらせするような人間だぞ

黒崎 だって映画の趣味とか合いそうだし……好きなものの話をする友達なんていないから

西村 俺が友達になってやろうか

黒崎 合わなそうだからいいです

西村 おい

冬川 うわ、外がほんのり明るい

上倉 ほらぁ、早く帰ろうって言ったじゃん 

黒崎 僕もじゃあ一旦家帰ろっかなぁ

上倉 あ、裏口から来たから靴あっちだわ

冬川 じゃあ、バイバイ! また明日

上倉 明日っていうか今日な 

西村 着いてく

上倉 あ、そう? 

黒崎 文通友達……

上倉 (こっくりさんの紙にアドレスを書き込む)……これメアド

黒崎 ありがとうございます

西村 ナンパ成功したくらいの喜びようだな

   冬川、教室を出ようとする足を止める

冬川 私さ、高校卒業したら皆とバイバイだと思ってたんだよね

西村 ん?

冬川 いや、西村と上倉の関係は続くと思うけど、私とあんたたちの関係ってそんあ大層な絆があるとは思って無くて、

冬川 それがちょっと寂しいなって思って何か思い出づくりしたいなって思って今日誘ったところはあるんだよね

西村 嘘つけ、こっくりさんやりたかっただけだろ

冬川 それもほんとだけど! まぁ言質が取れてよかった 卒業しても遊ぼうね

   次は鳴神トンネルに行ってみたい気がする え、めっちゃいい 絶対行きたい

黒崎 (小声で)僕、この場に居ていいんだろうか

上倉 それは無理 さすがに本物の心霊スポットは無理

冬川 あ、幽霊信じてるんだ

上倉 いや、信じてない!

冬川 言質取っちゃったもんね! 

冬川 じゃあ、また今日~

   冬川、自分の発言がツボに入ったように笑い続ける

黒崎 また今日ってとっても面白い

上倉、西村、宇宙人を見るような目で二人を見る   

手を振って上倉、西村が上手に、冬川、黒崎は下手に別れてはけていく


靴を持った上倉と西村が下手から再登場する

西村 まさか冬川があんな風に思ってたとはな

上倉 まぁどうしても異性であるという壁が出来るのは確かだし、それを感じ取ってはいたんだろうな

西村 結構、俺ら誘われ待ちだったりしたもんな

上倉 でもよかったのかよ 冬川と帰らなくて

西村 いや別にだって、もう振られてるも同然だしな

上倉 そういうとこだと思うんだよな 負け犬根性っていうか 案外押せば冬川だって靡くかもしれないのに

西村 冬川だぞ?

上倉 ……ないか 案外、黒崎いたいなのがちょうどよかったりしてな

西村 変人同士?

上倉 うん、気が合いそうだなって今日見てて思った

西村 やだなそれはなんか……

上倉 だったら、

西村 いやだからそうじゃなくて黒崎ってのが もっとなんかすごい人と

   上倉、ため息をつく

上倉 帰るか

上倉 あ、これ冬川の五円玉だ……

   上倉、机の上から五円玉を拾い上げる

西村 まぁ五円くらいいいだろもらっとけ

上倉 そうする

西村 あぁ なんか上倉と帰るのも久しぶりだな

   荷物を整え始める二人

上倉 確かに 最近直で塾行ってるからな

西村 やっぱ勉強しんどい?

上倉 しんどいっちゃしんどいけど、来年には自由になるって考えるとまぁ必要な努力かなとは思う

西村 晴翔は寮暮らしか

上倉 西村はやっぱり家出ないの?

西村 うちに私立に行く金はない

上倉 皆、もうすぐバラバラだもんなぁ

西村 でも、会うんだろまた  

上倉 うん

西村 なら別に寂しくないだろ


二人は荷物を整え終わって下手からはけていく

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