高校生エンジニアと転校生アイドル ~転校してきたアイドルが求めていたのは俺のITスキルでした~

あらたな

第1話 ふつうの高校生活

 俺、熊谷大地くまがやだいちは、大都市郊外のごく普通な公立高校に通う高校1年生だ。俺は所謂「陰キャ」に分類される人で、周りのクラスメイトに恋人ができていく中、そんなことはちっとも気に止めず、ぼっちを謳歌していた。


 だが、そんなごく普通の俺には、唯一、普通ではないことがある。それは――


「…はい、ベースとなるシステムにはProdPress(*1)を採用する予定ですので、専門知識のない方でも簡単にコンテンツの更新ができるようになります。…はい、わかりました。では、頂いたワイヤーフレーム(*2)をもとに、こちらでサイトのほうの実装を始めていきますね」


 ――俺は、現職のシステムエンジニアでもある。


 何にせよ、モノを売りこむにあたっては、他の人に差をつけなければならない。そこで俺は、ウェブサイトの制作にあたって、実際に現場に取材に行くサービスを用意してある。こうすることで、クライアントも気づいていないようなポテンシャルを、余すことなくウェブサイトに反映できるし、資料画像を先方に撮っていただく手間も省ける。そういうサービスをやったりしているおかげか、俺の商売はそれなりに繁盛していた。



 打ち合わせが終わり、俺はおもむろにスマホを取り出して、検索アプリに上がってくるレコメンデーション記事の欄を眺める。スマホでも四六時中技術関連の調べものをしているので、その類の記事が多い。気になった記事はちょっと読んで、ブックマークに入れる。そんな感じで、打ち合わせの後はちょっと一息つくのが日課だ。


 だが、その日見逃した――見るつもりもなかった――その記事が、俺の生活、そして人生を大きく揺さぶる前兆であったことを、その時は知る由もなかった。


『石丸彩恵、Tweeterで引っ越しを報告 首都圏外へ移住か』


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【注釈】

*1 ProdPress … ウェブサイトの記事の作成や編集を、専門知識なしに行うことができる、Webサーバー上で動作するソフト。現実世界では WordPress などが有名。

*2 ワイヤーフレーム … ウェブサイトのレイアウトの簡易的な設計図。

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