第9話(2) 源くんと平くん

「ああ……」


「止めに入った方が良いのでは⁉」


「そうだな」


 令和と平成は男性たちの間に割って入る。


「ちょ、ちょっと! こんなところで言い争うのはやめた方が!」


「うん?」


 立派な兜を被り、見事な甲冑を身に纏った男性が不思議そうに令和を見つめる。


「なんだ?」


 烏帽子を被り、紅色の狩衣を着た男性も怪訝そうに令和に視線を向ける。


「あ、争いはやめて下さい!」


「こやつが悪いのだ!」


 甲冑姿の男性が狩衣姿の男性を指差す。


「そなたが絡んできたのだろう!」


 狩衣姿の男性が言い返す。


「なんだと⁉」


「なんだ?」


「ああ……また……」


 令和が戸惑う。その脇で平成がため息交じりに呟く。


「はあ……お二方……『喧嘩するほど仲が良い』とはよく言いますが……」


「だ、誰が仲良いのだ! 平成!」


「聞き捨てならんな! 平成!」


「え⁉ お知り合いの方々ですか?」


 令和が平成に尋ねる。


「……今日、紹介しようと思った方々だよ。時管局古代課の『げん』くんと『ぺい』くんだ」


「ええっ⁉」


「いつものやつ、お願い出来る? さん、はい!」


 平成が促すと、甲冑姿の男性が声を上げる。


「わーれの名前は『源氏』♪」


 次いで狩衣姿の男性が声を上げる。


「わーれの名前は『平家』♪」


「「両家合わせて『源平げんぺい』だ♪」」


「君と僕とで『源平』だ♪ ……あれ?」


「「あれ?じゃない!」」


 源と平は平成に向かって揃って突っ込む。


「なんだよ、ノリ悪いな~」


「やかましい!」


「おかしなネタを仕込みよって!」


「仕込んだ?」


「酒の席で繰り返し歌ってもらっていたら、条件反射的に歌うようになったんだよ」


 令和の問いに平成は答える。


「は、はあ……」


「面白いだろう?」


「素面の時にやってもさっぱり面白くないわ!」


「大体、酒の席でも笑っているのいつもお主だけではないか!」


「まあ、それは多少否めないかな……」


 平成は苦笑する。令和は額を抑えながら話す。


「えっと……状況を整理させてもらっても良いですか? お二方も時代なのですね?」


「ああ、我が源だ」


「我が平である」


「別々の方々が一つの時代を担っているのですか?」


「結構珍しいパターンではあるな。一緒の時もあるが……」


「一緒の時もある?」


「しゅっちゅう融合と分裂を繰り返しているんだよ」


「なんですかそれ……」


 平成の説明に令和が戸惑う。


「なんですかと言われてもな」


「そういうものなのだから仕方がない」


 源と平が令和に対して答える。令和は思わず口元を抑えて呟く。


「え、ちょっと待って下さい、怖……」


「こ、怖いとはなんだ!」


「そ、その視線をやめろ!」


 令和の恐れをはらんだ視線を浴びて源と平は慌てる。


「平成! この女はなんだ!」


「見ない顔だが?」


「期待のニューフェースですよ。令和ちゃん、挨拶」


「あ、令和と申します。初めまして、よろしくお願いします……」


 平成に促され、令和は頭を下げる。


「ほう……」


「噂の新しい時代か……」


 源と平は頷く。


「まあ、見ての通り今日は分裂状態ってわけだ」


「わけだって……」


「で? 今回の喧嘩の原因は?」


「ふん、こいつがお高く止まっているからだ」


 平成の問いに対し、源が平を指差す。平成が首を傾げる。


「お高く止まっている?」


「我らは武士だ! それがなんだ、この公家かぶれした恰好は……」


 源が再び指し示す。平は手に持った扇をひらひらとさせながら笑う。


「かぶれではなく、実際に官位も授かっているわけだからな。おかしなことではない」


「……確かに、『平正盛たいらのまさもり』が白河上皇の信頼を勝ち取り、その子である『平忠盛たいらのただもり』は武士として異例の正四位に昇り、『殿上人てんじょうびと』としての地位を確立しました」


「ほう、よく知っておるではないか」


 令和の言葉に平は満足そうに頷く。令和は話を続ける。


「忠盛の子、『平清盛たいらのきよもり』は従一位・太政大臣にまで昇り、『平家』一門は栄華を極めます」


「……盛多いな! 『マル・マル・モリ・モリ』かよ!」


「盛という字は平家というか、平氏の通字ですから」


「通字?」


「実名に先祖代々伝えてつける文字のことです。平氏の場合はそれが盛です」


「まだまだいるぞ。重盛、知盛、敦盛……」


「盛でゲシュタルト崩壊を起こしそうだ!」


 平の補足に平成は頭を抱える。源が笑う。


「おい、宗盛や維盛はどうした?」


「ふん……大体だな、貴様の恰好の方がおかしいだろう。鎧兜をつけて戦にでも赴くつもりか? 近衛の服装ならば、『束帯』が正しい」


「……束帯とは律令制で定められた男子の朝服です」


 首を傾げている平成に令和が説明する。源が胸を張る。


「ふん! いつ何時でも変事に備えられるようにするためだ! こういった姿勢を見せておくと、それこそ頼りにされるというもの!」


「頼は源氏の通字です。『源頼朝みなもとのよりとも』が有名ですね」


「まだまだいるぞ! 頼義、範頼、頼家……」


「頼の字が迫ってくる!」


 平成は再び頭を抱える。

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