第15話 初めての夜3、カーリン家、青茸
途中這い進まなくてはならない箇所もあったが、下水の側道の壁に空いた亀裂の中を二人は進んで行き、その先のレンガ造りの小部屋に出た。
「ここはカーリン家の屋敷の地下室だ」
「カーリン家?」
「帝国には大貴族の家系が五つある。それが以前にも言った
カーリン家はその一つだ。
それが連中の力になっている。
カーリン家はブルア、ハンコック家はベルダ、ブレナム家はルーガ、セリオン家はフラバの丸薬だ。
ローゼット家はキノコではない何かを材料にして丸薬を作っている。
作っているのは審問官用の黒の丸薬だ。その他にも一般向けのいわゆる薬も作っている。
そして、その
それで、ここはカーリン家の屋敷の地下ということだ。
「ふーん」
「この部屋は使われなくなって久しい。
下水の臭いが立ち込める部屋は使いたくないだろうからな」
「それはそうだね」
「扉を開けたら素早く外に出ろ。
臭いが部屋からあまり漏れないようすぐに扉を閉めるからな」
「そう言えば、下水の脇を歩いてた時も、あんまり臭いが気にならなくなってた」
「そういうものだ。いくぞ」
ケルビンは扉の取っ手に手をかけて素早く開き外に出た。
続いてビージーも素早く外に出たところで、ケルビンが扉を閉めた。
扉の先は最初の小部屋と同じくレンガ作りの細い通路で、通路の両側には同じような扉が並んでいた。
燭台のようなものが等間隔に取り付けられていたがどこにも火は灯されていなかった。
「この通路の先にキノコ園がある。そこで栽培されているキノコがブルアの材料だ。見た目が青いから
「そうなんだ。ブルアはその
「いや。もう一つ大切な素材が必要だ。いずれ取りにいく。
その材料は、全ての丸薬を作る上で必須の素材なんだが、皇帝がその素材を独占している。
だから五公家がたとえ力を合わそうとも、皇帝を脅かす事はできないし皇帝の命令には逆らえない」
「いずれ取りにいくって、皇帝のものを取りにいって大丈夫なの?」
「面倒でもあるし、危険でもあるがなんとかなる」
「そうなんだ」
通路を進んでいくと突き当りに扉があった。
「キノコ園はこの先だ。ここのキノコ園の天井にはところどころに明かりが点いている」
「うん」
ケルビンは、ベルトの小物入れの一つから鍵束を取り出し、その中の一本の鍵を扉の鍵穴に入れてひねった。
カシャリ。
小さな音を立て扉の錠が外れた。
ケルビンは少しだけ扉を開けてその先の様子を見極めて、素早く扉を開けてキノコ園に入った。
ビージーもすぐ後に続き、ケルビンが素早く扉を閉めた。
「さっきのは合鍵っていうもの?」
「ああ」
「たくさん鍵があったけど?」
「ほかにも稼ぎ場所があるってことだ」
「稼ぎ場所って、さっきケルビンが言ってた
「そういうことだ」
キノコ園は天井まで十五フィートくらい。奥行きは三十ヤード、幅は十ヤードといった縦長の倉庫のような地下室で、少し湿った黒っぽい地面がむき出しになっていた。
天井のところどころからランプが下げられているだけなので、影の御子にとっては苦にならないが、普通人がそれだけの明かりで作業するなら、かなり暗い。
キノコ園の中には、長さ五フィートほどの
その
確かに
二人の立っているのはキノコ園の端で、すぐ目の前に
「このキノコを採るの?」
「そうだが、俺たちがキノコを採ったことがばれないよう慎重にキノコを採る必要がある。
キノコの効用は大きくても小さくても変わらないので、なるべく目立たない小さなもので石突きの細いものを一本の木から二、三個採るのがコツだ」
「今まで見つかったことはないの?」
「これまで危なかったことは何度かあるが、見つかったことは一度もない。
それじゃあ始めるが、ビージーは見ているだけでいいからな」
「うん」
ケルビンはマントの内ポケットの中から布製の小袋を取り出し、腰の鞘からダガーナイフを抜き出して
一本の
都合五十個ほど小型の
「よし。帰ろう」
「うん」
キノコの栽培場から出る時はちゃんと扉に鍵をかけ、二人は来た道を戻っていった。
注1:
榾木(ほだぎ、ほたぎ) キノコを栽培するときに、種菌をつける原木のこと。
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