第3話「証言」



吉川夫妻が私の事務所を訪ねてきた一週間後。


病院に入院していた蓮くんが目を覚まし、こう証言したという。


「芽依お姉さんは僕を庇って車にひかれて大怪我をしたの」と。


そこに女神が現れて芽依さんの怪我を治し、「少年の命を救うために危険を顧みず車の前に飛び出したあなたはとても勇敢です。勇敢で優しいあなたにご褒美をあげます。あなたを異世界に招待します」と言ったそうだ。


蓮くんは女神に「僕も芽依お姉さんと一緒に異世界に行きたい! 僕も連れて行って!」と頼んだそうだが、女神は「まだ幼いあなたを異世界に送ることはできないわ」と言って断ったそうだ。


実は異世界誘拐には巻き込まれ誘拐というのもある。


たまたま隣に住んでいた人などが、巻き込まれる形で異世界に連れて行かれるのだ。


巻き込まれて異世界に連れ去られた人たちには、神からチート能力が与えられることもなく、異世界人にちやほやされることもない。


異世界の知識も生き残るための武器もないまま異世界に放置される。


巻き込まれた人間にとってはたまったものではない。


私感だが蓮くんが芽依さんの異世界誘拐に巻き込まれて、異世界に連れて行かれなくて良かったと思う。


六歳の少年が異世界に連れて行かれ、なんの知識も武器もなく放置されたら、野垂れ死ぬ未来しか見えない。



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