第4話 共通の趣味と距離感のバグ
「正直、貴方達の方が羨ましいと思うけど」
正直、一度付き合っていた時期を私は羨ましく思う。
私には距離を詰めることができないから。
「なんで?」
「だって、好きな人と一度でも結ばれたんだから」
お互いの思いが通じ合う事など確率的に100はない。
加えて松本君は女子から人気があるので、競争率を考えると通常より半分かそれ以下の確率だ。
確率的に私なら絶対にあきらめてしまうだろう。
「……本気で言ってる?」
「本気よ、二人とも両思いなんてそうそうないもの」
私の場合は……只の友達だろうな。
なんとなくそんな気がする。
これだけアピールしても戸惑ったりしない所を見るに、私を女として見てないだろう。
叶彼方という共通の趣味の友達、ただそれだけの関係だ。
それ以上でもそれ以下でもない。
そう思っていると、彼女は頬を膨らませ怒ったようにこっちを見る。
「なんか、かなちんってずるい」
「ズルい?」
「だって何もせずに羨ましいとか言ってるのってずるくない? 私の場合は行動を起こしてこうなってるけど、かなちんは何も行動せずに告白を待ってる」
私の前に立ち、私達はその場に立ち止まると彼女はそう言い放った
「そんなこと……」
「かなちんは逃げてるんだよ、今どき女性の方から告白しちゃいけないなんてことはないよ」
逃げてなどいない。
そう言いたかったが、誰にも言えないので黙る。
「まぁ、かなちんも色々あるんだろうから深くは聞かないけどさ、後悔しないようにしなよ」
「うん、わかってるよ」
いずれは決着をつけなきゃいけないことは解ってる。
わかってるのだけど……。
「あのさ、咲奈」
「何?」
「もう少ししたら、相談乗ってくれる?」
「もう少しっていつ?」
「わかんないけど、全部終わったら話すから……それまでかな?」
「……そっか、わかった、それまで待っててあげる」
彼女は納得したように笑顔でこっちを見てそういった。
彼女のこういう理解のある所が一緒に居て心地いい。
互いに互いに押すところと引くところの線引きが出来ているので私は彼女と話すのは好きだ。
「それじゃ、歌うぞ~!!」
そうしてカラオケに入り彼女は元気よくそう言った。
それと同時に、蓮人から「何時?」と連絡が来た。
いつも私は彼と帰っているので、駅前の待ち合わせ時間だろう。
「多分八時かな」っと送ると「かしこまり~」っと帰ってくる。
恐らくだけど、松本君と時間でも潰す気なのだろう。
そうして私達は女子二人で目一杯カラオケを楽しんだ。
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「なぁ、蓮人」
「なんだよ……言っとくけど、無理だからな」
カラオケの個室に入るなり、真剣な表情を浮かべこちらを見る晴斗を僕は一蹴する。
彼に以前から彼女小倉さんとの仲を取り持ってほしいとお願いをされている。
僕は断っているのだが、奏が彼女の親友という事もあってずっとお願いされているのだ。
「頼むって!! あれから咲奈はあんな感じだし、もうどうしようもないんだよ!!」
彼は涙目で僕に両手を合わせて懇願してきた。
そういう所じゃないかな。
彼は正直、顔も整っていてサッカー部の一軍という事もあり相当モテる。
しかし、実の所このように一途で小倉さんの事が心底好きなのだ。
これは奏に口止めされている事だが、小倉さんも晴斗の事をまだ思っているらしい。
実に面倒な話だ。
理由は僕だと口を滑らせるため教えられないそうだが、奏曰くどっちもどっちだそうだ。
「素直に思いをぶつければいいんじゃないか?」
「それができたら苦労しねえよ~!!」
ヘタレだな~、いや待てよ……。
「晴斗、僕の推しの叶彼方にこの内容贈ってみないか?」
「ラジオ番組の叶彼方だっけ? でもあの子番組降りるって聞いたぞ」
「番組をやめて新しい活動場所でやるんだよ」
そう言って今朝の動画を見せ、僕は問いかける。
「どうせ迷ってるなら、相談してみるのもいいんじゃないか?」
僕は晴斗にお便りの場所を教えた。
晴斗はそうして自分の思いを打ち込んでいた。
「なぁ蓮人、これで良いか?」
「それは君が決める事だろ、僕は見ないしそれでいいならいいと思う」
正直な話、これは僕が見ていい物ではない気がする。
リスナーは自分のペンネームで読まれた時本人がわかる程度でいいのだ。
「そう言うなって、これでいいのか?」
そう言って無理矢理携帯を見せてくる。
初めまして叶彼方さん。
私事なのですが、元カノと付き合っていた時に喧嘩してしまいました。
私は仲直りして出来れば彼氏彼女に戻りたいのですが、どうすればよいでしょうか?
「戻りたいんだ」
「そりゃそうだろ、俺がどれだけあいつを思ってるか知ってるだろ?」
そりゃ知ってるさ。
中学から一途にどれだけスクールカースト上位の可愛い女の子に目もくれず、彼女の事で悩んでいたのか僕だけが知っている。
放課後、奏と共に協力してうまくサポートして付き合えた時には惚気でこちらが胃もたれを起こしたほどなのだ。
「それで、どうだ?」
「う~ん、これに加えて険悪になる前の行動とか書いてみるといいんじゃないか?」
「確かに」
そう言って彼は書き直すと、僕に再び見せてくる。
「うん、これでいいんじゃないか」
「よし、それじゃお願いします!!」
晴斗はそう言って天井に向かって祈るように送信ボタンを押すのだった。
「「あ……」」
飲み物を入れに行くと、小倉さんが飲み物を入れていた。
僕が入れに行ってよかった。
晴斗だったら気まずかったに違いない。
「佐川君もカラオケ?」
「あぁ、晴斗と一緒にな」
晴斗の名前を出すと同時に、ジュースのボタンを押したまま固まる。
「ジュース、溢れてるよ」
「え? あわわ」
彼女は溢れているコップを見て慌てる。
そして少し捨てると、近くにあった紙で手やコップを拭く。
「大丈夫?」
「う、うん大丈夫!! それより聞いてもいい?」
彼女はまるで恋する乙女の如く、恥ずかしそうにこっちを見てきた。
晴斗の事だろう。
「晴斗、私の態度に怒ってた?」
「全然、怒ってなかったよ」
「そっか」
ほっとした表情で彼女は嬉しそうにしていた。
二人とも不器用だな~。
どっちかが歩み寄れば全て解決するだろう。
「よかったら、一緒にカラオケでもどう?」
距離を縮めるチャンスだ。
いつまでも喧嘩されていてはこっちもいい加減面倒くさい。
「私は……」
案の定、彼女は躊躇っている。
彼女もわかっているのだろう。
だけど、踏み出せないでいるのだ。
お節介なのはわかってる。
だけど友達としていい加減片を付けてほしいと僕は思うのだ。
僕は奏と相談の後に決めるといいと言って彼の元に戻る。
目の前の彼は楽しそうに好きなアニソンを死ぬほど楽しそうに歌っていた。
吞気なものだ。
「サンキュ、何か歌うか?」
「いやいい、それより話がある」
「話?」
先程、小倉さんにあった事を話した。
ついでにこっちに来る可能性がある事を伝えると、彼は当然の如くうろたえた。
「どどど、どうしたらいいんだ!?」
「どうしたらっていい加減、話し合えばいいんじゃないか?
「ど、どうしたらいい!?」
「少しは自分で考えろよ」
「それが出来たら苦労しねえ!!」
言い切りやがった。
そんなことを話していると勢いよく扉が開かれ、奏が小倉さんと共に入ってくる。
「お邪魔しま~す!!」
「お、お邪魔します……」
当の二人は目を合わさない。
小倉さんは奏に、晴斗は僕に視線を向けながら話している。
「さて、次はこれ歌おうかな……蓮人、相方お願い」
「あ、わかった」
そうして二人で歌い終えると続いて音楽が流れる。
晴斗と小倉さんが着きあっていた時、二人で歌ってた曲だ。
「次はお二人、お願い」
二人とも、「嵌められた!!」っといった顔で恨めしそうにこっちを見てきた。
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