第14話
「いやー。やっぱり久々来て正解だな。国から申請許可がおりたんだろ?」
現れたのは背の高い男。身長だけで言えば臥牛さんと同じくらいなのだが、手足が細長いからか、更に高く見える。
黒い革ジャンに肩まで伸びるウェーブした髪の毛。
一言でいうなら怪しいという雰囲気がぴったりだった。
「て、あれ? リーダー何やってんだ? しばらく会わない間に新しいプレイに目覚めたのかよ?」
「ば、馬鹿! 違うに決まってんだろ!
メンバーに恥ずかしい姿をみられたからか、逃げるように去っていった。臥牛さんにもそんな気持ちがあるんだな……。てっきり喜んでるのかと思った。
ギルドの中へ消えていく背を見つめ頷いていると、「ジー」と視線を感じた。
クジさんが腰を掲げて俺を睨んでいた。
「こいつ、誰よ?」
「彼は
俺とクジさんを知る織納さんが互いに紹介をしてくれた。
俺は手の平を自分のズボンで拭い、「よろしくお願いします!」と手を伸ばした。俺の手をクジさんは迷わず握る。
「そうか。改めてよろしくな」
「は、はい!」
俺の手を握り微笑む。
良かった。
優しそうな人だ! ギルドに顔を出さないから怖い人かと思ってたけど、そんなことはなかった。
「あ、言っとくけど、クジクジの性格は最悪だからねー。勘違いしないように」
そんな俺に忠告するように織納さんが言った。
性格が最悪ってそんな風には見えないけど。この忠告にだって、「そんなこと言わなくてもいいら?」と笑ってくれてるし……。
語尾に「ら」を付けるのはどこかの方言なのだろうか?
「で、【ダンジョン】攻略の許可がおりたんだったよな? 折角なら顔合わせついでに俺が行くぜ?」
「……クジクジがギルドに顔出したってことは――うん。まあ、そうだね。じゃあ、お願いしようかな。そっちの方が安全だろうし」
織納さんは後は任せたとギルドの奥へ消えていった。
◇
俺達が向かった【ダンジョン】は、田舎町にある空き家だった。
恐らくこの周辺の畑を管理する地主だったのだろう。管理する人間がいなくなったからか、畑には好き放題に伸びた雑草が生き生きと緑を輝かせていた。
「ここが……、国から許可がおりた【ダンジョン】だな」
何度もスマホの位置情報を確認しながら、クジさんが言った。
古風な日本家屋。
その縁側に【ダンジョン】の入口があった。
先の見えない暗闇が口を開く。
不気味な闇に足を止めたクジさんは、首だけを背後に向けると俺を呼んだ。
「なあ、本当にあの子連れて行っていいのかよ? 外で待ってた方がいいら?」
あの子とクジさんが示したのは、俺達の背後で呆然と【ダンジョン】を見つめる生形さんだった。
初めての【ダンジョン】で銀髪少年と出会って以降、生形さんに元気がなかった。
「でも、織納さんからは、もし【ダンジョン】に入らなかったら、【タウラスと牡牛】をクビにするって言ってましたし……」
「案外、そっちの方がいいかも知れないぜ? 【ダンジョン】を攻略していたら、今後とも闇ギルドとは戦うことになるしな」
「……」
「心が折れた人間は足手まといになる。だから、俺としては安全な防衛ギルドにでも移籍したほうがいい。この様子じゃお前もそう思うら?」
「それは……そうですけど」
なにより、この場所に来たのは彼女の意思だ。織納さんからクビにするとみ言われた彼女は自分の意志でここに立っている。
「なので、クジさんには申し訳ないんですが、ここは俺達で乗り越えましょう」
「……そうしたいんだけどな。俺の【
「え……?」
呆気に取られた俺の背を、安心しろとクジさんが何度も叩いた。叩かれた背の痛みは俺の不安のように強くなる。
「ま、でも今日の俺は絶好調だ。五か月モノの【ダンジョン】くらいなら一人でも余裕だよ」
不吉な言葉を残して俺から離れるクジさん。ちょっと、もっとしっかり説明をして欲しいんですけど?
しかし、本人はもう説明する気がないらしい。
「この【ダンジョン】ではトカゲやヘビ。その他、大勢の昆虫が発見されているらしい。国が確認したのは三層目までか」
国が既に【ダンジョン】には足を踏み入れていたらしく、許可と共に送られてきた資料を読み上げる。そこまでしたならば、そのまま攻略まですればいいと思うのだが、国としては危険を犯したくないのだろう。
俺達みたいに自分から進んで命を投げ出そうって輩がいるんだ。望んでいる相手に任せた方が安全だと国は考えているんだろうな。
「さて、じゃあいっちょ攻略するら?」
俺達は【ダンジョン】の中に入る。
今回の【ダンジョン】は、地下牢のような内装になっていた。レンガを積み上げて作られた壁が通路を作る。
どうやらこの【ダンジョン】は、迷宮のように入り組んでいるらしい。人が二人並んで歩くのがやっとな狭い通路。
「……よし、じゃあ、先頭はお前に任せた。俺は最後尾に付く!」
一番最初に【ダンジョン】に足を踏み入れたクジさんが、長い足を動かして後方に移動した。どうやら、一列になってダンジョンを攻略していくようだ。
……考えるまでもなく一番前が不利な気がするけど。
「まあ、いいか」
どっちにしろ俺がやることは変わらない。
迷路のような【ダンジョン】を歩いていると――。
「モンスターだ」
角を曲がった先に巨大なトカゲのような姿を見た。
敵は一匹……。
俺はモンスターから隠れるようにゆっくりと下がる。
「モンスターです。どうしましょう、俺一人で戦った方がいいですよね?」
念のために俺がクジさんに確認すると、
「うん! 任せたよ。お前なら出来るら!!」
本当に、クジさんは戦うつもりはないらしい。
出来ればどんな【
「あの……。クジさんの【
「だから、それは体験してのお楽しみだ」
【ダンジョン】に訪れる前にも何度か聞いてみたのだが、その一点張りだった。
「ほら、嫌でもモンスターと戦えば分かるぜ」
「……分かりました」
クジさんはモンスターと戦う気はないのに、どうやって分かると言うのだろうか?
だが、これ以上聞いても無駄だろうな。
敵を前にすれば教えてくれると思ったのに……。
「とにかく、【ダンジョン】の攻略だけを考えよう」
俺は意識を自分の右手に集中させる。【
「よし……!」
俺は角から身体を出す。
まだ、相手は俺の存在に気付いて無いようだ。なら、できるだけ近付いて、一気に倒そう。俺は足音を立てぬように、一歩、一歩と足を動かしていく。
なんだか、達磨さんが転んだをやってるような気分だ。もっとも、相手はモンスターなので、楽しいなんて感情は微塵も湧いてこないんだけど。
「……あれ?」
俺はモンスターに気付かれることなく、手が届く距離まで近付いてしまった。それどころか、これだけ近くにいるのに、モンスターは、まだ俺の存在に気付いていないようだった。
まさか――、
(このまま……倒せる?)
俺は狙いをトカゲの脇腹に定める。
トカゲに似たモンスターは表皮は鱗で覆われてるため、攻撃が通りにくいのだ。
「はっ!!」
気合のかけ声と共に右手を振り上げる。
鋭く変化させた刃がトカゲの腹部を切り裂いた。皮膚が裂け、五臓六腑が四散する。そこで初めて、俺がいることに気付いたようだ。バタバタと四足を動かして逃げ出すが、数メートル先で力尽きだ。
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