Case20「事件解決!」
「だがダリアは父に恥をかかせまいと好んだ相手ではなかったが渋々受け入れた、と」
サルビアが静かに申し訳なさそうに頷く。どこの上流階級でも見栄というものは大事で、どんな形であれ彼らから持ち込んだ縁談が反故にされるようなことがあれば、それこそ面目が立たない。そういうことを彼女は気にしたのだ。となれば、だ。
「ベネティクトゥスもそういった理由で許可を出したのね?」
「彼も見込み通り、と言ったらいいのか心優しい青年でな。私達に——特に娘には気を使っていたらしい」
「——んまあ、その雰囲気はなんとなくわかってたわ」
「いやあ、しかし娘に移り気気質があるなんて知らなんだ! だからよく彼氏が変わっていたのかと腑に落ちたものよ」
ガハハ、と豪快に笑って見せたサルビアは続けて紅茶を飲み干し「もう一杯だ!」と元気よく使用人に伝える。そこで彼がアーサーに一瞬視線を移したことに違和感を覚えたが、その理由に彼も心当たりがあったらしく——
「——もしかして彼女が縁談を破棄したがっていた理由って……」
「あぁ、察しの通りだとも。我が娘は少し前にアーサー君をちらっと見たことがあったらしい。そこからもう彼の事しか考えられなくなったみたいでな……」
「それは——申し訳ないことを……」
——それ、世界のモテない人達が聞いたら命狙われるレベルでヤバイ発言なのわかっているのかしら……。
まあそれはそれとして。だからこそ合点のいった部分もあった。
「——だから赤いヒヤシンス」
「ん、どうかしたのか?」
「ほら、
「——確か嫉妬でしたな」
アーサーに惹かれていたというのであれば確かにこの女の存在は妬ましかったはずだ。しかも美人。では部屋を荒らした動機は調査をやめろとかそういうメッセージの前にただの嫌がらせの意図の方が大きかったかもしれない。だって美人ですし!
「大事なことなので二回言ったわ!」
「ん?」
「なんでもないわ! まあじゃあとりあえず一件落着ってことでいいのかしら?」
「えぇ、あとはうちの問題なのでなんとでもしてみせます。本当にありがとうございました!」
「いいえ。
「いやいや! 私こそ娘が無用な挑発をして悪かった。本当は本人に謝らせたいのだが、生憎『それだけは絶対嫌だ』と次の仕事で別の町に出発してしまってね」
「それは——まあ
「いつもの、とは? アーサー君、何か——」
「全く知りません」
即答である。まあ知らないのも無理はない。事件が解決した時にいつも一人でこっそりやってたのだから。これからはこれが最後の決め台詞になるので。さあご唱和ください!
——せーの!
「これにて事件解決!」
「案外普通ですな」
「これをいつも一人でやっていたのか……?」
「いいのよ、こういうのはメリハリをつけるためのただの儀式なんだから!」
☆☆☆☆☆
「じゃあ次の向かう先は予定通り王都ね。遠回りにはなったけれど、まあ無駄ではなかったし良しとしましょう」
「はは、きっと皆驚くぞ」
「??? なんで?」
「いいや、君のあまりの変貌ぶりにさ。その時はこう言ってやるとも。僕が変えてやりましたって」
「ついでに
「——僕としては一師団を任されている現状すら恐れ多いんだがな……」
「ま、とりあえず急ぎましょうか!」
「あっ、待っ、待ってくれ!」
第一幕「マリン・ブリテンウィッカの事件簿」 —完—
次回、第二幕「パラダイス・ロスト」
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