Case19「ところで事件はどうなった?」
「ところで事件はどうなったんだ?」
「サブタイのまんまね……」
話を終えた
「昨日はごめんなさい。冷静じゃなかったとはいえ
「ん、問題ない。元々あの程度の傷なんて一晩あれば自然治癒で治ってしまうんだから大丈夫だ」
「そう? ならいいけれど」
今向かっているのはエリック家の屋敷。結局昨日は当事者を放っておいて勝手に部外者だけで戦い始めたものだから彼らだって途方に暮れているはずだ。それになんたって最大の目的は依頼料。それが無ければ手持ちでは宿の賠償代を払うことができず、二人揃ってタダ働きか臓器を売り払わないといけないことになる。最悪実力で踏み倒してもいいが、今は国の名も背負ってしまっている分安易にそういう選択を取れない。なのでここでなんとしても依頼を解決したことにして報酬金だけはぶんどらなければならないのだ!
やがて屋敷へとついた後、最初と同様流れるように奥にある一室、町長サルビア・エリックの部屋へと通される。扉を開けた先にいたのはサルビア一人のみ。他の二人はどこかで何かしているところといった様子か。
突然の訪問であるし、こうして話ができるだけでも良しとして依頼主とテーブルを挟んで座る。そして目の前に出されたのは先日も飲んだ紅茶。甘いがそれだけじゃなく、紅茶が苦手な人でも飲みやすいように工夫された優しい紅茶。それを一口飲む。
「——ッ!? ま、マリン……」
「うん、やっぱり美味しいわ」
「そうですか。気に入ってくれてなによりだ。それで話とは依頼のことで間違いないですかな?」
驚いたように微笑むアーサーは放っておいてもう一口だけ紅茶を口に含む。まあ話と言えばそれだけしか思い当たらないだろうが、正直話が早くて助かったのは事実だ。その通りだという風に頷くともう一口。多く飲み物を口にするのは落ち着かない証拠。これでもし依頼を反故にされようものならただでさえタダ働き同然なのに、その上宿で働かされるなんて冗談ではない。
「——はは、大丈夫ですよ。報酬はきちんと払わせていただきます」
——普通に不安が伝わっていたようね……。
「それはありがたいけれど、本当にこれでいいのかしら。すっごい中途半端にしか解決してないような気が……」
「んー、まああの時はそうでしたがね。ダリアの拘束が溶けた後に屋敷に戻ってな、三人で色々話したんですよ」
「話、ですか——?」
疑問を投げたのはアーサー。もしかすると彼なりにダリアのことを心配していたのかもしれない。
「勿論心配しているともさ。どこかの誰かさんが問答無用で凍らせてくれたからな」
「いやいや! しかしアーサー君、マ——メイリーンさんは彼女の本音を引き出そうとわざとああいう風に立ち振る舞ったのだろう? なら感謝こそすれ恨むことはしないさ」
「——えっ、そうだったのか、マリン!?」
なんということだ。あの時は
「————まあ当然ね。人って逆境に立たされなければ中々本音を吐かない生き物ですし。あぁ、それともうマリンで良いわよ。もう警戒する必要はないようですから」
「っ——!? ま、まさか君がそこまで考えていたとは……! いやいや、僕は君を少し、いいやいいや! かなり勘違いしていたかもしれない! 流石だマーリン!」
「やはりマリン様に依頼をしておいてよかった! 本当にありがとうございます!」
——これはこれで別の罪悪感が湧いてくるな……。
「は、はは……。それで話とはどういうものをされたので?」
「——あぁ、それのことですか」
こほん、と咳払いを一つ。油断するとすぐに主題から脱線してしまう。以前の自分であれば時間の無駄だと報酬だけ受け取ってそそくさと帰ってしまっていただろうが、今は少しだけ余裕ができたのか、こうして悠長に話ができていた。この心境の変化には彼も気付いていたのか驚くような表情を見せた直後、年相応に笑みを浮かべてみせる。普段は凛々しく、シャキっとしているが、こうして笑えばまだ十六歳だったのだなと改めて思い知らされた。顔つきはよいのだからもう少し——
「あの後娘とベネティクトゥスと」
年相応に笑えば——
「三人で話をしたのです」
いいのに、とか思いながら彼の話が始まっていたことに気付いてそちらに思考を集中させる。人が話をしている最中にも自分の思考を続けるのはここ五年でついた悪癖だ。
「何を、ですか……?」
できれば直しておきたいがそう簡単に直るものでもない。
「まず娘が彼の事を気に入っていなかったこと」
とりあえず意識することから——
「私自身も娘の意見を聞きもせず押し付けてしまっていたところがあった」
——こういうところよ、直さなきゃいけないとこは……。
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