Magichrome
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#01 リマ・フレイム
あなたは図書室に来ている。大きい校舎にいくつかあるうちの、いちばん小さな図書室。魔術書ばかり置かれたつまらないこの図書室には、よほど勉強熱心な人か、図書委員くらいしか来ない。
あなたは人の少ない図書室で、収納魔術についての本を探していた。箒や杖など、魔法使いが持ち歩くものは多い。それらすべてを手に持つと日常生活もままならないと思ったあなたは、魔法を使えば手に持たない方法があるのではないかと考えたのだ。
みっちり詰めこまれた本の背表紙を眺めながら、あなたは図書室を歩く。ふとその視界の端で、赤いものが揺れた。
あなたは背表紙から目を逸らし、赤いものの正体を探る。そこには、小柄な女子生徒が必死に手を伸ばしている姿があった。その可愛らしい顔には苦悶の表情が浮かんでいる。
あなたは彼女を知っている。そのせいか、あなたは思わず、彼女に声をかけた。
彼女は突然声をかけられたことに驚いて、腕を引っ込める。
「び、びっくりしたぁ」
腕いっぱいの本を抱えなおし、彼女は小さく息を吐く。あなたは驚かせたことを謝罪してから、彼女に何をしていたのか尋ねた。
「あの本を取りたいんだ」と彼女は少し高いところにある本を指した。「けど、図書委員が使ってるみたいで踏み台もないし、ここ、魔法禁止でしょ。取れなくて」
あなたは本棚を見上げ、彼女が必死に腕を伸ばしても取れなかった本をひょいと取ってあげた。「……ありがとう」と言う彼女は、どこか不満気な表情だった。
彼女は腕の中に本を詰めようとして、腕の長さが足りないことに気づく。
固まってしまった彼女に、あなたが持つことを提案するも、彼女は首を横に振る。それでも困った彼女を放っておけなかったあなたは、何冊か持つ、とさらに提案した。彼女はしぶしぶそれを受け入れ、数冊あなたに差し出した。
「ありがとう、助かったよ」図書室を出ると、彼女は再度あなたに礼を言った。「私は生徒会長のリマ・フレイム。君は?」
あなたが彼女を知っていたのは、生徒会長であるリマは何度か全校生徒の前に立ったことがあり、あなたはそれを見たことがあるからだ。
14歳にして高等部3年という前例のない飛び級をしたこともあって、生徒会長ではなくても彼女はこの学園で有名人になっていただろう。誰もがすごいと言うが、フレイム家のひとり娘である彼女は、「当然のこと」と堂々と言っていたのをあなたはぼんやり覚えていた。
名前を尋ねられたあなたは自身の名を告げる。彼女はあなたの名前を繰り返し、「いい名前だね」と言った。
「お礼をさせて。甘いものは好き?」
あなたは頷く。リマは「よかった」と頬を緩めた。
「生徒会にすごく美味しいお菓子を作る人がいるんだ。でもこの前、食べきれないほど作っちゃったみたいで、よければもらって。生徒会室まで付き合ってもらわないといけなくなるんだけど」
あなたはそれを了承し、リマとの世間話を弾ませた。
生徒会室につくと、リマは椅子に本を置いて机の上を片付け始めた。机は整理はされているものの、6人掛けの広い面積が本や書類で埋まっていた。生徒会の多忙さをそこに見たあなたは、ひどく驚いた。生徒が6人でする仕事量では到底なさそうに見えたが、学校柄、季節柄、仕方がないのかもしれない、とあなたは思った。
「お待たせ、本はここに置いて」
リマは机の上を指した。少しの隙間を全て詰めて本を置くスペースを作ってくれたようだ。
あなたは言われたとおりに机に本を置く。今更ながら、14歳が読むとは思えない小難しい魔術書であることに気が付いた。あなたですら、読んだとしてどのくらい理解できるかわからない。
「これ、お礼のスコーン」
リマはいつの間にやら可愛らしくラッピングしたスコーンを持っていた。あなたはそれを受け取り、礼を言う。
「こちらこそ。次は私が助けるから、何かあったら言って」
リマはあなたに、にっこりと年相応の笑みを見せた。
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