進む人、残る人

シヨゥ

第1話

「今を続けるのが楽だから苦しくても今を続ける。それは本能としては正しいんだ。体温が一定であるように、生活を一定にすることが本能的には正しいんだから。変化させることは体力を使う。体力を失ってしまったら、いざという時に対応できないかもしれないだろう? だから一定を維持しようとするのが正しいんだ」

 そう言ってから一呼吸置いて息を吸う。

「でも僕らは体力を失ったとしても、向上心を持って今を変える努力をしなければならない」

 そう言う彼はやせ細り、立っているのもやっとといった感じだ。

「今を否定して、今より良い未来に向けて歩き出さなければならない。苦しい今を否定することで今を壊し、ここはダメだと口コミを残し、次に向けて歩き出さなければならない」

 それでもその瞳には熱と決意がこもっている。命を燃やしている。そんな言葉が似あうぐらいに生きることに真剣で、それでいて怖い。

「僕は今日から歩き出す。絶対に立ち止まらない。次も、そしてその次も中継点に過ぎないと自覚して突き進む覚悟だ。君はどうだい? ここで足踏みするかい? それとも歩き出してみるかい?」

 それは長年考え続けていた問いのひとつだ。ただまだ回答を得る至ってない。

「まだ答えが出ていないのか」

 こちらの沈黙で察したようだ。

「なら仕方がない。僕は先に行くよ。君に砂をかけることになっても僕は進むから」

 そう言って彼は本当に歩き出す。足取りはおぼつかないが一歩一歩確実に進んでいく。今まさにおいて行かれようとしているのに呼び止める言葉が浮かばない。

「それじゃあ」

 独り部屋に残されて天井を仰ぐ。本当にやりたいことは何だろうか。いまだに分からないのだった。

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進む人、残る人 シヨゥ @Shiyoxu

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