絵顔

シイカ

絵顔

絵の中の彼女は今日も笑顔だった。

今日も今日も今日も毎日が笑顔だった。

笑顔の彼女を見て私は元気に学校へ行ける。

家にいつからあるのかわからない古い絵画はリアルに描かれた大人の女性だった。

女の子ならわかるが、大人の女性が口を大きく開けて笑っている。

私が成長するにつれ、その絵に対して違和感を持つようになった。

どうして彼女はいつも笑っているのだろう。何を見て笑っているのだろう。何を聞いて笑っているのだろう。

大人になってから私は口を開けて笑うことがなくなった。

ある日、笑顔の絵画の夢を見た。

いつも見ていた、あの女性だ。

しかし、彼女は笑っていなかった。

彼女はキャンバスに絵を描いていた。

それは彼女の自画像だった。

キャンバスの中の彼女は大きく口を開けて笑っていた。

その夢を見た日、私は道行く人を眺めるようになった。

今は笑っていない人たちも自分の世界では笑っているのだろう。

私の世界から笑顔がなくなってしまったのはいつからだろう。

私はキャンバスに線を描いていく、鏡を見ながら笑顔の自分を思いだす。

笑顔のない世界なら笑顔の世界を造ればいい。

今日、私の笑顔が完成した。

私は笑顔と共に歩んでいく。

キャンバスの中の私は大きな口を開けて笑っている。

私を嘲笑っているかのように。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

絵顔 シイカ @shiita

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ