戦う高校生『売木』、例の如く現代社会の敵に立ち向かう

一木 川臣

第1話VS保険レディ 3−1

 皆さんどうも初めまして。俺は売木うるぎという名の男子高校生で、得意技といえば…… 何もねえな。何もねえからきっと平凡な男子高校生なんだよ。これ以上自己紹介で語ることねえから先に進めるぞ。


 時間は午前10時ごろ。今日ものんびり『コーンフロマイティ』という米国製のシリアル食品を食し、いつものように優雅なひと時を過ごしていた。


 相変わらずうまい。まっっったく食い飽きねえな。流石米国ゲロッグ社の珠玉。史上最強のシリアル食品と言って差し支え無い美味しさだ。一口食べると脳内に広がる『アメリカンソウル』、たまんないね。


 はぁ〜 いいねえ。平日の合間にお家でシリアル食品…… 最高だと思わねえか? 


 窓から外を見れば今日の天気は概ね良好ようだ。いかにもスポーツやらなんやらかんやらできそうな気候となってきた…… まぁ、 俺はそんなことしねえけど……



 ピンポーンッ!



 フロマイティを食べるという俺にとって至福極まりない時間を妨害するように、突然インターホンが鳴りだした。


 ──めんどくせえな、どうせ俺目当ての客なんて来ねえんだ、ゆっくりさせてくれや……



 ピンポーン!!


 またも鳴る。今日は家族が一人もいないので対応する人がいねえんだよな…… こんな午前中に何もんだよ…… 流石に対応するのは面倒くさすぎる。


 ということで、俺は居留守でやり過ごす所存でございや──



 ピンポーン! ピンポーン!! ピンポッ──



「うるせーぞ! 昼間っからピンポンピンポンと! なんなんだ、居ねえんだからとっとと立ち去れや!」


 あまりにも…… あんまりにも耳障りすぎるので、ついインターホンに出てしまった。これ以上聞いていたら頭がオカシクなりそうだし、何よりフロマイティの味に支障をきたすからな……



『こんにちは〜 マムシ生命と言います〜 初めまして、今お時間よろしいでしょうか?』



 外からは若い女性の声が聞こえてくる。


 マムシ生命?? あの大手生命保険会社の『マムシ生命』か!? しくったぞ、コイツはセールスだ。


 こんな朝早くからセールスなんて皆寝ていて誰も対応しねえぞ。俺は偶々たまたま起きていたから出ることができたけどよ。


 ──ってそんな話じゃねえっ! 保険なんて興味ねえんだ、とっととあしらってやらねえと下手すりゃ玄関前で座り込みされる恐れがある。そうなるとヒジョーにダルい。


「なんだよ、保険のセールスかァ!? お時間よろしくねえぞ。今間に合ってるんだ、他所に行ってくれや……」


 しっしとインターホン越しに追い返してやる。


 正直保険レディの相手をしている暇なぞ無いのだ、こんなクッソ忙しい時に来やがって…… 俺の大事なシリアル食品を永遠と風に晒すわけにもいかねえぞ。


『あ、あの! 少しだけでいいんです、お話だけでも聞いて下さい、お願いしますぅ〜』

「いやいや、保険なんて知らねえよ、聞いたって入んねえぞ、時間の無駄になっちまうからとっととどっかへ行ってくれ!」


 やはりこの手のセールスはしぶといか…… だが、マジで今日は親もいねえし、保険の話を聞いたって無駄なのは事実だから上がらせる訳には行かない。 

 少し気の毒な気分にもなるのだが、俺は高校生だ。正直タイミングが悪かったとしか言いようがないぞ。


『そ、そうですか…… ですが、実は私…… 喉がカラカラで死にそうなんです。せめて水だけでも…… お恵みを……』


 なんだか苦しそうな声が聞こえてきたぞ。


 なんという奴だ、出向いた客に対して飲み物を要求するなんてマムシ生命の営業はどうなってるんだ!?


「って、やり方変えたって無駄だぞ。同情誘ってるのか知らねーが無理なものは無理だ。近くの公園に噴水がある、そこを紹介してやるからはよどっか言ってくれ」

『ふ、噴水!? そんなの飲んだらお腹壊します! いや…… これ本当で、正直私もう死にそう……』


 インターホン越しでもなんとなく分かるが、かなり辛そうにも聞こえる。かなり演技達者な奴だな?  

 それともまさか本当に水に飢えているのか? 現代の日本社会において水に飢えるなんてこと聞いたことがねえぞ。川に行けば腐るほどあるというのに。あ、川の水は腐ってねえか、微生物いっぱいで健康になれるぞ。


「意味が分からねえよ! 死ぬんだったら他所で死んでくれ! 玄関先で死なれたらこっちも迷惑だ!」

『ひ、酷い! 残酷! 鬼! 人でなし! 死んだら売木さんのこと一生呪いますからね! いや…… マジで……』


 辛そうな声で呪うとか縁起でもねえことを言いやがって。というか、マジで辛そうだぞ、コイツ! いや、こんな所で倒れられても困る! 後々大騒動になってはそれこそフロマイティどころで無くなってしまうからだ。


「は、ハァ!? ちょ、ちょっと待てや! そんな所で倒れるな!!」


 俺は急いで玄関へ向かうことに。

 外に出ると壁に寄りかかりフラフラと…… 今にも死にそうな若い保険レディが手を伸ばしてきた。


「うぉお、マジかよ。しっかりしろや! とりあえず上がれ!!」

「は、はぃ……」

 

 弱い返事を返すレディの肩を借りそのまま俺の部屋まで連れ込んだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る