艦《《キミ》》と僕
三点提督
正夢―キミと僕の記憶―
「この辺かな?」
趣味である歴史資料調べ――主に
――……。
何やらドンパチとやり合うような音が聞こえる。
――え、
目覚めると、僕はあるものを目の当たりにしていた。それは、
――嘘だろ?
「全砲門、っ
僕は誰かも解らない人物の身体を持ち、その人物は……、
――いや、違うこの人は、
「我が名は
僕の口が勝手に言葉を紡いだ。待ってくれ。意識の奥深くではそう思っていても、
その状況、否、戦況は激しさを増すばかりだった。
――どうして僕がこの人の身体を?
そんな疑問が押し寄せてくる。
ドォン、ドォン。砲弾が放たれる度に
「三笠、あともう少しだけ私達に力を貸してほしい。必ずや我らの手で勝利刻もうぞ。暁の水平線に、我らの想いを込めて!」
――凄い。
威風堂々。まさにその言葉が相応しい人物だった。そして、その
三笠は、まるでその声に応えるように砲弾を放っていた。
――でもどうして? 何で僕がこの艦の艦長に?
そこだけが解らない。僕はただ艦が好きでいつも資料を調べたり動画を見たりして
いるだけで――
それからも延々と戦争は続き、その時は訪れた。
「勝ったぞ三笠。やっと夢は叶った。叶ったのだ」
艦長は亡くなった幾人もの兵士達を弔うように瞼を閉じた。何故だろう? とても
胸が苦しい。涙か溢れて止まらない。
――三笠。
ピピピピ、ピピピピ。
「……」
カチ。
午前七時。今日からまた新しい一週間が始まる。
「行ってきます」
食事と歯磨きを済ませ、僕は玄関をあとにした。
「今日はこのクラスに転校生が来ている」
そう言って、担任教師が合図を促した。
「失礼します」
そう言って僕達のクラスに入って来たのは、一見すれば普通に可愛い一人の女の子
だった。
「はじめまして。私の名前は――」
可愛い子だな。そんな呑気な事を思っている僕を
「え?」
そしてさり気なくメモを書き、僕に手渡した。
『暁の水平線に、我らの想いを込めて!』
一瞬、果たして何を言っているのかと思ったが、
――暁の水平線?
そのワンフレーズは、段々と僕の頭の中で記憶として戻っていき、それは完全に、
あの時の事を暗示していた。
「……三、笠?」
僕にそう訊ねられた彼女はうっすらと微笑み、「来い」と言って僕の手を取った。それに対して、他の生徒は勿論、先生も注意することはなく、まるで何事もないかの
ように授業が始まった。
「久しぶりだな? 艦長」
僕が連れて来られたのはいつもの誰もいない屋上だった。彼女はコツコツと靴を鳴
らして向こうに見える金網越しまで歩み寄り、くるりと振り返ってこちらを見つめ、
そう言った。
「どうして、キミがここに? ううん、もっと言えば、どうしてキミが人間の女の子
の姿に?」
「たわけ。それをあなたが知る必要はない。今重要なのは、あなたが私と誓い合った
事を憶えているかどうか。という事だ」
艦長よ。そう問い掛け、今度は僕のほうへと歩みを刻んだ。
「一〇〇年余り昔の事を、あなたは思い出してくださったようだが、その際、私達の
仲間がどのようにして、どのような想いを賭して命を散らせたか、ご存じか?」
とん、と僕にその身を預けた三笠は、「苦しかった」や、「私の為に、命を捨てていく者達の事を思うと」など、声にもならない声を上げ、僕の胸をどんどんと殴り、
「あなたにまで死なれたら、私は沈んでも沈み切れない、恐くて仕方がなかった!」
ぽたりぽたりと涙を流し、僕にそう訴えかける三笠のその姿は、やはり一人の少女のそれでしかなかった。
「……ごめんね、三笠。それと――」
ゆっくりと彼女の肩に触れ、身体を放した。
「――ありがとう」
余計な事は言わなくていい。ただ一言、それさえ伝える事が出来れば。
「私のほうこそ、あなたという素晴らしい方に出会えて本当に光栄だった。故に未来
永劫、私はあなたを忘れない。そして最後に一言、これだけは言わせてほしい」
――え?
「――」
ピピピピ、ピピピピ。
「……」
――朝か。
僕が昨晩見た夢は、そうとうリアルな夢だった。
「そういえば、今日は社会の少テストだっけ? 見直ししないと」
そう思った僕は、一旦勉強机に向かい、教科書を開いた。すると、あるページから
はらりと一枚の紙切れが落ちた。それを手に取り、書かれてあった内容に目を通して
みた。
『暁の水平線に、我らの想いを込めて』
それは明らかに僕の字だった。でも、僕はこれを書いた記憶は一切ない。
――暁の水平線に、我らの想いを……、
「……」
ぱたんと教科書を閉じ、僕は自室を後にした。
「今日はこのクラスに転校生が来ている。それではキミ、入ってきなさい」
「はい」
そう言って僕達のクラスに入ってきたのは、
――……っ!
「……三笠」
思わず僕の口から零れたその名前。そしてすぐに思い出す。あの紙切れに書かれてあった、あの一言の意味を。
「……会いたかったぞ、艦長」
百年余り前、僕は三笠という艦にこう誓ったのだ。
『いつかまた、どこかで会おう』
と。
でも、まさか三笠がこんなに美しい少女として輪廻転生を果たすとは、正直思いもしなかった。
「……僕も、僕もだよ三笠! キミにまた会えて、本当に嬉しいよ! 大好きだ!」
クラス中がどよめいている。「おいおい何だよこいつら?」や、「三笠って、あの艦の三笠だよな?」など、訳が解らないと言いたげな様子でそこら中からヒソヒソと
声が聴こえてきた。
「静かにしなさい。キミ達もですよ? 訳の解らない事を言っていないで、ホームルームに集中してください」
流石にやりすぎてしまったがそんな事は知ったこっちゃない。僕は嬉しくて仕方が
なかった。
――さて、
三笠はあの夢のように僕の隣の席になった。そして案の定、三笠は僕に何かメモのようなもの渡そうとした。でも、僕はそれを断り、代わりにこう言った。
『暁の水平線に、僕達の想いを込めて』
「そうだよね? ……敷島型大戦艦、第四番艦、三笠」
「ああ、そうだな。伊地知彦次郎中将殿」
これが所謂逆手の発想。僕が夢で彼女を見ていたのであれば、必ず誰かが僕と同じ
夢を見る。
そしてその使命さえ終わってしまえば、
「……あれ? 私、眠ってしまっていたの? あ、あなた、もしかして……いいえ、
もしかしなくても、このクラスの人ですよね? はじめまして私の名前は――」
「――うん、こちらこそ。そうだね、僕の名前は――」
僕の記憶はいずれ勿論、この子の中からもそれは消えてしまう。でもそれでいい。
たとえ僕達の中からそれらの記憶が消えても、この国の歴史からは消えない。いや、
この僕が消させはしない。何故なら僕はここにいる三笠の……来未ちゃんの初めての
友達だから。
「ま、正確にはそうなる予定。なんだけどね?」
艦《《キミ》》と僕 三点提督 @325130
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