第16話 連休3日目と新魔法!



 今日も朝早くのお隣さん家へのお伺いに、瑠璃は恐縮しながら律子さんにお早うございますの挨拶。しかしそれが3日目にもなると、挨拶の合間に不憫がられる始末だったり。

 何しろ立花家の両親も、瑠璃の両親とは同じ系列の企業の、ほぼ同じ部署勤めである。お隣同士、休みのパターンも勤め時間もだいたい一緒と来ているのだ。


 つまりは立花家が休めない時は、津嶋家も休めないと言う事で。何故か律子さんからも、瑠璃に対して世間並みに休みを取れなくて御免ねとの謝罪の嵐。

 昨日は日曜日だったのに、どちらの家庭も出勤だったのだ。


 そんな話はさておいて、瑠璃的には充実した休み期間だと思っている。連休と言っても、休みが2日伸びただけである。わざわざ遠出をして、疲れて戻るのもバカらしい。

 瑠璃は元々インドア派なのだ。本がたくさん読めれば、それは良い休日。


 昨日の夜に読んだ物語の粗筋を頭から追い出しつつ、瑠璃はモニター前で精神統一。自分のキャラを操作しながら、エリア突入前の装備チェックも怠らない。

 装備欄がほぼ完全に埋まった自分のキャラを見て、しばし感激にひたる瑠璃。生首NMのドロップのバンダナも高性能だったし、昨日も割と豊作だった。

 レベルアップともども、装備とかスキルの充実も嬉しい成長なのだ。


 遠隔武器もようやく入手した弾美のキャラ装備も、瑠璃はついでに見せてもらう事に。特に色違いのバンダナの性能を見比べてみて、どうせなら水性能のが欲しかったと内心贅沢な欲求も。

 弾美の話だと、光とか闇スキルのプラス装備は滅多に見ないらしい。だから、闇装備が出ただけでも凄い当たりだとの事である。

 黒いバンダナでSP量に補正が掛かるので、弾美は結構嬉しそう。


 もう1つ攻撃スキル技を覚えたら、低レベルでも連続スキル技使用も夢ではないとの事。まぁ、確かに当たりが1つ出ただけでも嬉しい話題だ。

 そんな訳で、瑠璃は先程の贅沢心を深く反省。


 ハズミンが初めて覚えた魔法の《SPヒール》は、MPを使って徐々にSPを回復させる、前衛のスキル技持ちには有り難いモノ。

 スキル技の連続使用にも拍車が掛かり、その快感を知る者には必須の魔法かも知れない。こんな序盤に出たのは、かなりラッキーだそうな。

 前回のボス戦で、使い忘れたのはアレだが……。


 入手した遠隔武器の弓と矢は、それぞれの攻撃力を足してダメージが計算される。つまり、熟練度とスキルを上げて行けば、とても強い攻撃手段になる訳だ。

 ただし、近接レンジでは使用不能になるので、ソロには不向き。武器の持ち替え――と言うか、弓矢使用後の硬直時間――に他のどの武器より長い時間が取られるので、そういう意味では一長一短かも知れない。


 ファンスカ内でも、意外とメインで使用する者は少ない。何より、消耗品の矢が高いというデメリットが大きい。一回狩りに出るだけで結構な出費、場合によっては赤字と言う話もある程だ。

 限定イベントでも、矢束の補充が定期的に可能か不安なところ。



 名前:ハズミン 属性:闇 レベル:12

 取得スキル :片手剣21《攻撃力アップ1》《二段斬り》 :闇11《SPヒール》

 種族スキル :闇12《敵感知》


 装備  :武器 シミター 攻撃力+10《耐久8/12》

     :遠隔 木の弓 攻撃力+8《耐久11/11》

     :筒  木の矢 攻撃力+6

     :頭  黒いバンダナ 闇スキル+3、SP+10%、防+3

     :首  妖精のネックレス 光スキル+2、風スキル+2、防+2

     :耳1 妖精のピアス 光スキル+1、風スキル+1

     :耳2 玉のピアス 防+1

     :胴  皮の服 防+6

     :腕輪 炎の腕輪 火スキル+3、知力+1、防+4

     :指輪1 皮の指輪 防+2

     :指輪2 皮の指輪 防+2

     :背  皮のマント 防+2

     :腰  皮のベルト 防+2

     :両脚 なめしズボン 攻撃力+1、防+5

     :両足 皮のブーツ 防+3


 ポケット(最大3):小ポーション :小ポーション :万能薬



 一方のルリルリだが、魔法スキルの上りが順調過ぎと言うか。水の術書が意外にたくさん手に入るお陰で、水スキルも次の区切りに近付いてしまっている。

 ただ、アスレチックエリアに向けて光系の回復魔法も覚えたい気も。


 細剣スキルも上げ切ってしまいたいし、色々と悩ましい所だ。弾美に相談したら、同化させる気なら早めに魔法を覚えてしまった方が良いと言われた。確かにそうかも知れない。

 光→水の順番で、魔法を覚えてしまおうと瑠璃は決意、なるべく今日中に。



 名前:ルリルリ 属性:水 レベル:12

 取得スキル :細剣16《二段突き》 :水18《ヒール》    

 種族スキル :水12《魔法回復量UP+10%》


 装備  :武器 ブロンズレイピア 攻撃力+8《耐久10/11》

     :頭  赤いバンダナ 火スキル+3、腕力+1、防+3

     :首  妖精のネックレス 光スキル+2、風スキル+2、防+2

     :耳1 妖精のピアス 光スキル+1、風スキル+1

     :耳2 玉のピアス 防+1

     :胴  木綿のローブ MP+5、光スキル+1、防+4

     :腕輪 炎の腕輪 火スキル+3、知力+1、防+4

     :指輪1 水の指輪 水スキル+3、精神力+1、防+1

     :指輪2 水の指輪 水スキル+3、精神力+1、防+1

     :腰  皮のベルト 防+2

     :背  皮のマント 防+2

     :両脚 皮のズボン 防+4

     :両足 ゴーレムのブーツ MP+5、防+4


 ポケット(最大3):小ポーション :小ポーション :万能薬




 妖精チェックもお店チェックも、たいした進展は無し。それでも上手く行けば、今日でステージ4に辿り着けるかも。ちょっと気合いを入れ、瑠璃はコントローラーを握り直す。

 そうこうしている間に、弾美の方も準備は整った様子。昨日使い損ねた新魔法もチェックを終えて、態勢は万全の様子。隣から突入の号令が掛かって、エリア攻略の開始だ。

 この瞬間だけは、どうしても毎回緊張する。


 ところが、ステージ3の2つ目のエリアは、やはりどこかで見た構造。言ってしまえば、下層の2エリア、そして隣のエリアと全く同じ部屋の位置で、敵の配置も変わらぬ有り様。

 使い回しも、ここまで来たら立派かも知れない。


「あ~、ここも前回と同じマップだね~? 昨日の怖い生首もいる~」

「いるな、ひょっとしたらNMもまた生首かもなぁ」

「それはちょっと……嫌だなぁ」


 そんな文句も交えつつ、各部屋のモンスターを駆逐して行くハズミンとルリルリ。経験値の入りもまずまずで、装備のドロップの確率も先日と変わらぬ程度。

 ただ、2人の装備は幸いにも、昨日の時点で揃っている。嬉しさはそれ程無いけれど、余った分は売ってお金にしてしまえば良い。そんな風に軽く考えながら、弾美はエリアを往復。

 1時間が経過し、そろそろNMタイム。


「瑠璃、そっち湧いたか?」

「あっ、たった今湧いたっぽいよ、ハズミちゃん! けど、生首1匹と耳が2匹だ……あれっ、耳の特殊技って何だっけ?」

「何だっけ……? 何か鱗粉攻撃みたいな奴だっけ?」

「あ~っ! ……耳なのに何で鱗粉?」


 心底不思議そうに、画面の中を舞っている敵を見ながら瑠璃は首を傾げる。耳は2枚くっ付いて、蝶の動きを真似ている。それを見れば分るだろうと、弾美は内心思うのだが。

 からかう様に、口にしたのはこんな言葉。


「んじゃ、あれは鱗粉じゃなくて耳クソ?」

「汚いよ、ハズミちゃん……」


 弾美の下品な冗談に、瑠璃は嫌そうに顔をしかめる。それからチラッと弾美を盗み見て、何やら考える素振り。耳掃除って、あんまりサボってると病気になるんじゃなかったっけ?

 天然少女は、ぽつんと一言。


「ハズミちゃん、耳掃除してあげようか……?」

「いらんっ……!」


 弾美は全力で拒否しつつ、瑠璃の言葉にちょっと照れてみたり。




 ハズミンがようやくNMの湧いた場所に辿り着き、作戦を瑠璃に伝達する。今回はルリルリに遠隔武器の弓矢を渡し、耳を遠くから釣って貰う事に。

 そして昨日のように、瑠璃がマラソンしている間にハズミンが生首から倒す算段だ。瑠璃の方も遠くから釣る分、昨日のマラソンよりは安全な筈。


「わかった。行くよ~、ハズミちゃん?」

「おうっ……おっと、新しく覚えた魔法使っておこう」


 弾美は前回使い忘れた闇魔法の《SPヒール》を使用、これで《二段斬り》が幾分使い易くなる。ハズミンの魔法使用を確認して、瑠璃は離れた場所から耳モンスターにアタック。

 一斉に襲い来る3匹のNMに背を向け、ルリルリは通路を逆方向へと駆け出した。その内の生首モンスターを、ハズミンが殴りかかって引き止めを願う。


 昨日と違って引き寄せ技が無いので、マラソンも結構楽だ。反対側の部屋に到着して、壁沿いにくるりと反転。ルリルリが部屋を出た途端に画面からレベルアップの音がした。

 どうやらめでたく、2人ともレベル13に達した模様。


「倒したぞ、瑠璃。次はどこだ?」

「はいはい~、今持って行く~」


 レベルが上がってくれたモノの、ポイントを振る間も無いまま瑠璃のマラソンは続く。程なく弾美と合流、そして浮遊耳が1匹ランデブーから離脱。

 瑠璃はそれを確認し、更にキャラを走らせ続ける。昨日のつまづくような失敗はもうしない、湧いた敵を避けつつ部屋を駆け巡るルリルリ。

 

「結構強いな、コイツ等。ひょっとして、補正掛かってるのかな?」

「補正って、どんなの?」

「ダンジョンにインしたキャラのレベルに合わせて、敵のレベルが決まってるのかなって。雑魚の経験値にしても、昨日より多いくらいだし。

 そもそもレベルの上がりが、メイン世界より早い気もするかなぁ?」


 言われてみればそうかも知れない。瑠璃もレベルアップのテンポが、やたらと早いとは感じてはいたのだが。普段はソロや少人数での狩りをしないので、その按配がよく分かっていなかった。

 時間を掛けてレベルを上げて行けば、ステージ後半で楽になるかもと期待していたのだが。弾美の話が本当だとすれば、その期待は思いっ切り薄そうだ。


 逆に、ボスやNMがやたら強いと感じていたのは、レベル補正が自分達の首を絞めている可能性が高い。このレベル帯は、1つレベル差があるだけでHP量やスキル技のダメージに違いがはっきりと現れてしまうのだ。

 ボスになるとさらに補正が掛かるので、そりゃあ強い訳だ。

 

「キャラのレベルが一定以上だと、敵のレベルも補正で上昇するって事? 逆に一定以下だと、元々の決まった難易度の中で、攻略もそれ程難しくないとか?」

「そんな感じかも知れないなぁ……でもまぁ、今更言ってもレベル下がる訳でもないし……っと、2匹目倒したぞ、瑠璃」

「ほいほい~、連れて行く~」


 3匹目は2人がかりで殴り倒し切り、今日のドロップもすこぶる良い感じ。弾美によく言われるが、瑠璃のドロップ運は並みを軽く上回るモノらしい。

 自分では、全く自覚の無い瑠璃なのだが。


 2人でドロップの分配をしながら、瑠璃はレベル上昇のポイント振りも同時進行で行う。今回のスキルポイントのボーナスで、いよいよ新魔法も取得出来そう。

 楽しいひと時に、自然と顔もほころびまくり。


「筋力と器用、どっち上げようかなぁ? あっ、MPの上がるピアスは私が貰うね♪

 スキルは……今回は光の魔法取っちゃおう!」

「状態回復の魔法、意地でも出せよ、瑠璃」


 ちなみにNMのドロップは、光のバンダナ、白玉ピアス、青玉ピアスなどの属性防具類一式だった。更には、金のメダルが1枚と剣術指南書まで出る始末。

 金のメダルは、メイン世界ではNMのトリガーやレア装備、スキル向上の為の道場への入場券などに変換出来る優れモノの交換用貨幣である。

 冒険者にとっては、お金よりも更に価値の高いモノに違いは無い。


 『剣術指南書』は、使えば武器スキルが2Pアップする、前衛なら誰もが欲しがるアイテムである。メイン世界では、出たらラッキーという類いのNMからのドロップ率なのだが。

 どうやら限定イベントの世界は、サービス過剰なのかも知れない。2人で相談の結果、前衛機会の多い弾美が指南書を使用する流れに。

 金のメダルは、瑠璃が纏めて持っておく事に決定。


 弾美の声援を受けて、ルリルリは光の魔法をスキルの振りこみで習得。念願の異常ステータス回復魔法……かと思いきや、武器に光属性を付与する《光属性付与》の魔法だった。

 不満そうなのは、弾美はもちろん瑠璃も一緒である。状態回復魔法を覚えれば、万能薬を買うお金が節約出来ると思っていたのに。それでもまぁ、攻撃力が上がるのは有り難い事だ。

 瑠璃は渋々、自分をそう納得させる。





 ――ランダム取得って、本当に儘ならないとため息交じりの瑠璃だったり。









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