17.余韻
私は任務を遂行することができた。もちろん責任を問われる可能性は高いものの、正当防衛になるはずなので報告書だけで終わりそうだ。
「私の手で終えることができた」
病院で勝利を確信して喜ぶ気持ちを少しは押し殺して控えめに喜んでいる。なんせ傷があるので思いっきり喜ぶと傷に響く。
この事件がどう報道されるのかはわからないが、だいぶ大きな事件になるはず。私の元に取材が殺到するのかもしれないが、その時は丁寧に対応するとしよう。
警察の事情聴取は今しがた終えた。田村さんが事情聴取の付き添いでいてくれたのでやりやすかった。流石に田村さんも怪我人には優しい。鬼の目にも…と言うやつなのかもしれない。
傷自体は治療でどうにかなるので早く仕事に戻りたいものだ。
「コンッ コンッ」
昼ごはんの時間だろうか
「はーい。どうぞ」
思った通りで看護師が昼ごはんを持ってきた。味気ない食事なのは病院なので文句は言わない。今日はご飯と焼き魚に、お浸し、味噌汁という完全に和食だ。
ただ昼ごはんを食べているのも暇なのでテレビを付けた。
何でもないニュースが流れている。
「川崎のニュースはまだなのか?」
速報にはなっていないらしい。確かに事件発覚してから警察が動いているだけだし、事件の場所的に人目につかないのでニュースにするには証拠が足りないだろう。明日くらいに特大ニュースとして報道されるはずだ。私はそんなことを考えながら昼ごはんを食べた。
「ピロンッ」
携帯の通知音だ。誰だろう
「井出さん…」
相手は井出だった。確かに情報をもらって殺害してから連絡をしていなかった。痺れを切らして連絡してきたのだろうか。恐る恐るメッセージアプリを開いた。
(兄ちゃん本当にやったねぇぇ)
とだけ書かれていた。怒っている訳ではなさそう。
(えぇ、まさかの結末でしたが)
(兄ちゃんがそこまでやるとはね)
(意外でしたよね)
(まぁやりすぎだけどね)
やはり少々怒っている
(怒ってますか)
(まぁ少しはね( ˆᴗˆ )
変なこと考えるなよと言った結末がこれだらからな)
笑ってる絵文字が尚更怖い
(でも、解決できたのですから)
(解決できたからまだ怒ってないってところはある)
(というと?)
(逃がしていたら一生捕まえることが出来ないからな、それだけは回避したかった)
どうも井出も川崎に肩入れしているように思える
(何故川崎にそこまで肩入れするんですか)
(似てるからに決まってんのよ俺に)
(なるほど)
(齢20の半少年を使うことは許せないのよ。更生の余地があってもいいじゃない)
意外と思いやりがあるようだ。これまでの彼を見ても裏の世界の人間の割に人間味はあった。納得する。
(優しいのですね)
(まあね!さて、そろそろ兄ちゃんが肩入れしている理由を聞かせてもらおうか。そして、ニュースを期待してるよ)
(そうですね。じゃぁご飯行きましょう。そこで勝利会しながら話しますよ)
(聞かせてもらおう。そこで)
(大したものじゃないですよ)
(退院したら連絡しな)
これでやり取りは終わった。彼にはとても世話になったので退院したらご飯でも奢ろうと考えていた。どうやらもっと五月蝿いやつが現れた。
「敦!大丈夫か!」
達志だ。
「ノックしろ」
「いいじゃん」
「いいわけねえだろ」
てか、何でこいつは普通にお見舞いにこれたのだ。他の警官が守ってるはずだろう。1つ思い当たる節があるとすれば田村さんがコイツを通したということくらいだ。田村さんはこいつの存在を知っている。私がよく話すし、写真も見せたことがあるので顔わかるから通したのだろう。一応確認しておくか。
「なんで入れた」
「田村さんって人が入れてくれた」
当たってた。当の田村さんは着いてこなかったのか
「田村さんはどこに」
「ドアの向こうにいる」
いるんかい。友達との時間を邪魔しないようにしてくれた配慮だろうか。ありがたい。
「にしても心配したよ。お前が病院に搬送されたって言われた時」
こいつには私から連絡を入れた。事情も説明済なので話が早い。
「やり切ったからな」
「言葉の意味のままなのが怖い」
私達はとても大きなブラックジョークで笑いながら、当時の状況を言える範囲で達志に話した。今思うと中々な事をやってのけたが、少し呆気ないとも思っている。裏の世界のとは言っても所詮はこんなものなのだ。
私はそう結論付けて達志と話を終えた。
タイミングを見計らって田村さんが入ってきたので達志は病室から出ていった。
今日は大体その後何も無く終わった。明日のニュースが楽しみで仕方ない。
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