16.正義の烙印

雨は強くなってきている。これは私を止めるための雨なのかそれとも…

走ってその問題の場所へ向かうと、重々しい雰囲気の路地があった。ここだ。

呼吸を整え、警察の装備を確認し、いざ侵入。

心臓はかなり早めの鼓動を打っており血圧もどうやら高そうだ。

それも長くは続かなかった。アドレナリンが急分泌から無分泌へと切り替わった。

いたのだ。川崎康太が。

一気に血流が止まった。あ、いる。話しかけなきゃ。


「君、何してんの」


そう声をかけると異常な警戒心を露にしたがすぐに平常心に戻って返答してきた。


「いやだなぁ、何もしてないよ」

「執行猶予中だろ」


そいつは顔を曇らした。


「犯罪はもうしないよ。ほら誓ったじゃん」

「あぁ誓ったな。本人は」


戦闘モードへと入ったようだ。


「どういうこと警察官さん」

「なんだ、説明なんていらんだろ」


早くしてくれ。お前の話なんてどうでもいい。


俺は落とし前をつけるだけなんだよ。


「ほぉ説明なんていらないとは強気だね」

「お前が本人じゃないことは知っている」


こいつの顔が少しずつ暗くなっている。


「本人だよ」

「整形かマスクだろ。お前達組織の目的は彼の個人情報だった。顔を含むな」

「証拠はあんのかい」

「お前が証拠だ」

「くっ、」

そいつは一目散に逃げた。私も一応追いかけてさらに路地の奥深くへと入っていった。

あぁここならいいだろ。

追いかけんのもめんどくさい。

私は等々取り出した。


拳銃を


「ダァーーン!」


躊躇なく私はトリガーを引き、彼の腕に命中させた。


「う、ウガァ、アァ、血が、お前うちやがったな」


やってしまった。とは思っていない。それよりは快感が私を包み込んでいる。


(悪いやつを俺は撃てるのか、なんて正義なんだ)


「君に人権はない」


もう一度彼に銃口を向けた。


「待ってくれ、なんでそんなに俺を殺そうとする」

「お前らが憎い。散々俺らを利用させ、悪い事をしたやつを捕まえれば俺は後悔することもあると知らしたんだよお前達が」


誰にも言っていなかったこと。川崎も風俗の女性も私の正義感が正しくないことを突き付けられている。その元凶である川崎の事件。ひいてはその主犯格であるこいつらは許したくない。川崎の事件がなければ風俗の女性を逮捕して後悔なんてしていない。


「利用したことは認める。もうこんな怪我したから犯罪には関われん。どうか見逃してくれんかい」


頭の沸点はほとんどピーク。


「正しいことをしても正しいとは限らない。悪いことをしても悪いとは限らない」

「おい、やめろ、撃つな」

「どこで彼を見つけた」


ほとんど顔が死にかけのやつに問うてみた


「俺らの提携している店に求人で来たんだよ。それを見て幹部が、俺と骨格が、似ている事を感じとって、シミュレーションしたら丁度、変身できることがわかったんだ、それで、彼を、お前達に売っ、た。顔も組織にとって都合がよかったそうだ」


正解だった。


「俺らは顔を覚えられることはないから、あとは、日雇いで、呼んで、その後は、利用、するだけだ、」

「そんなんで頑張って稼ごうとした者の人権を全て無にしたのか」

「それが俺ら、、だ」


出血量は多い。そろそろヤバそうか。


「あんたもこんなことして大変なことになるだろ」


最後に心配してくれんのか。優しいな。いらねえけどな。


「余計な心配しなくてもあんたが自殺したことにするから安心しときな」


私は用意しておいたナイフを見せた。


「どういうことだ」

「お前が死んだ後これを握ってもらう」

「ナイフ、か」

「自分で自分の体を少し切るから。お前の指紋がついたナイフと傷ついた警察官。足の銃痕は正当防衛に見えるだろう」


こいつの顔は恐怖を感じている顔だ。


「んで、あんたには頭を撃って死んでもらう。そのあとはあんたにこの銃を握らせる」


俺はもうまともな正義の上で動いているのはごめんだ。どんな手段でも捕まえるべき人間を俺は捕まえる。もう逮捕で後悔をしたくない。その人の人生を自分の手で壊したくない。そのためにこいつには


死んでもらう。


「じゃあな」

「ちょっと待ってく…」

「ダァーーン!」


目の前には2発の弾丸を受けた屍が転がっている。

正義執行

これで川崎康太は安心して人生をやり直せる。パープルの風俗嬢ももしかしたら救われるかもしれない。俺はいいことをした。

だって正義だもん。撃ち殺したのは私で私は犯罪者かもしれん。けど、この格好とこれから作る状況で私は無罪になる。客観的に見た正義が1番正義に見える。

優越感に浸っていたが思い出した。


「おっと、ちゃんとこのナイフと銃握ってね」


屍に握らした。


「痛いかな?」


自分で自分に傷を一文字、体の胸から腹に彫り込んだ。雨が染みる。これはスティグマなんかではなく勝利の刻印。


あとは警察と救急車を呼んで一件落着。やつら組織が壊したのは彼らの人生だけでない、私の正義感も壊したのだよ。

無線


「田村、さ、ん、応援を、」

「おい、どうした!今行く!場所は!」

「…」

「おい、太田!太田!白井!至急GPSで割り出せ!」

これも証拠になる。私は死にかけてるんだからな。

私は落ち着くと意識がどんどん薄れて、気づいたら病院にいることになる。

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