13.収穫

その後2回くらい行ったが会えなかった。多分時間がいつも決まってるのではないようだ。本当に会うことが難しい。今日会えなかったら非行少年達に直接聞くしかない。「夜回り先生っていつ来るの?」と。それくらい切羽詰まってる。


「焦ってんな」


今日は達志も暇だったらしく着いてきた。


「あぁ」

「安心しろ。この西達志が来たんだぞ。幸運の女神だ。大丈夫。会える」


人の感情を操るのが上手いのか、私はこいつの言葉に少し安心感を抱いた。


「行くか」

「せやねぇ」


もうこの街に私用で来すぎて何も思わない。この街に馴染んで来たのだろうか。キャッチにも声をかけられる回数が極端に減った。無事に華舞伎町の一員になってしまったらしい。嬉しくない話だ?


「あれ、警官だ」

「え?」


警官だと言われると反応してしまう。何故ならここは私の管轄内。つまり、この警官は知ってる人であることが充分に有り得てしまう。今同僚等には会いたくないが、その願いも虚しく散った。田村さん達だった。そして、見つかった。別に非番なのでいても悪くないのだが会いたいものでは無い。とっとと中谷さんに会いたいのだから。


「太田!?お前珍しいな」

「あ、田村さん白井さん。お疲れ様です」


簡単な挨拶は済ませた


「太田お前こんなところ私用で来るんだね」


白井さんは少々驚いていた。そういう雰囲気の人間ではないからな私は。ここでもまた彼が力を発揮した。


「いやぁいつも敦がすみません。友達の西達志です。こいつの1番の友達でやらせてもらってます」

「太田の友達か!太田にも友達いたんだな!」


田村さんは同僚以外の一般人には普通に優しい。にしても、友達の知り合いにあったら1歩下がるのが一般的なのに、達志は敢えて1歩前に出た。私を思ってのことか。


「本当にこいつ仏頂面でね。人付き合い苦手な感じなんですよ」

「おい、お前それはどういうことだ」

「ほらほら、こんな感じで!」


田村さん達は笑っている


「そんで、俺が誘ったんすよ飲みに。こいつが絶対来ないような街に来させるために」

「なるほどな。太田が絶対来ないようなところだもんな」


どうやら話が綺麗にまとまりそうだ。


「田村さん達はこれから巡回ですか」

「いや、帰るところだ」

「なるほどお疲れ様でした」

「こちらこそ、邪魔したな。楽しめよ」


そう言うと田村さん達は私達の前からいなくなった。


「ありがとうな」

「なに、いいってことよ」


私には勿体ないくらい良い奴だこいつは。少しだけ笑みが零れた。ハイスペック過ぎる。


そのままゲームセンター前へと歩いてるが不思議と今日は出会える気がする。この気持ちのままゲームセンター前に到着するといつもより景色が広がっているように見えた。私の気持ちが落ち着いているからかもしれない。そして、


「ふぅ……いたな」

「やっぱり俺は幸運の女神なのよ」


やっっと出会うことができた中谷さんこと夜回り先生。もちろん会うことが目的ではない。川崎のことを知らなくても構わない。私の知ってる唯一の情報源になり得る人。無理ならもちろん諦めて井出に頼る。


「あの、中谷さん」


中谷さんは声をかけられたのを不思議そうにしながら私を見た。最初は私が誰か分からなかったのだろうが、少し考えた後わかったようだ。


「あれ、前にお話した方…とあなたは会ったことありましたっけ?」


達志はもちろん初対面。そもそも私でさえ自己紹介していなかったのだ。


「お久しぶりです中谷さん。私は太田敦です。こいつは友達の西達志。」


達志は軽く会釈をした。


「ご丁寧にどうも。自己紹介までされてどうしたんですか?」


そうここからが本題。私は脈拍が上がっていることに気がついた。この質問の先には2つしか選択肢が無い。「知っている」か「知らないか」だ。知らなかったら1週間くらいの行為は全て無駄。非行少年達も物珍しそうに私達を見ている。深呼吸して質問を投げかけた。


「川崎康太を知ってますか?」


とても簡単な質問。ただこの簡単な質問とは裏腹に深い感情が入っている。答えはどちらだ。


「川崎…康太ですか」


反応が悪い。ここまでのことは無駄だったか。


「懐かしい名です」

「え…!」


まさかの返答。中谷さんは川崎を知っている。心臓が飛び出そうなのをどうにか抑えて話を続けた。


「知ってる…んですか」

「ええ知ってますよ。ただ、個人情報なので教えることはできません。川崎の関係者なのですか?」


至極当たり前な解答が帰ってきた。そうだ私は名乗っただけで何で川崎を知りたいのか言っていない。


「中谷さんすみませんでした。私は警官です」


身分を知らせるものを見せて信じてもらった

非常に驚いていた。どうやら警察官に見えなかったらしい。そして、川崎が事件の犯人になった事と、その違和感から私が川崎自身を調べていることを伝えた。


「まさか彼がそんなことに」

「どんな人でしたか」

「話すと凄く普通でした」

「普通…でしたか」

「何か目立つわけではなく、ただただ家庭環境が悪くてここに来てしまった者ですね」


中谷さんは川崎と直接話したことがあるのに、特徴的なものは感じられなかったらしい。


「中谷さんに電話したことは」

「ありますよ」

「何故」

「孤独だからですね」

「孤独…」

「彼は誰とも馴染めなかった。ずっとここに来てからも1人だった。私はそれで声をかけてく内に私には話してくれるようになったのです」


川崎の部屋が何も無かったのは、友達がいなかったからなのか。変な違和感ということではなくて本当に友達がいなかったのか。人と関係を作るのは苦手ということだったのだろう。

相関図を書こうにもかけないほど孤立していた。唯一の逃げ道が中谷さんであったということだ。


「犯罪に手を貸すようなことや裏の組織に関わったりは」

「あり得ません。そんな度胸はありません」

「なるほど」


やはり彼は自ら犯罪には手を出さない。それは断言できる。事前に組織に関わった形跡もない。やはり彼自身には何も悪いことはない。


「川崎を覚えていて助かりました」

「いえいえ、彼のためなら。ただ、あまり顔は思い出せないですね」

「なるほど」

「歳ですかね。お恥ずかしい」


聞きたいことは聞けた。特に情報を得たわけではないけども逆に川崎が「シロ」であることはわかった。十分な収穫と言えるのではなかろうか。


「中谷さんありがとうございました。これで川崎自身に悪気がなかった可能性がつかめました」

「お力になれたならよかったです。私はこの子達の中から犯罪者は出したくありません」


この間達志は何も話さなかったがこいつなりに色々考えたいたはずだ。あとで聞こう。私達は夜回り先生中谷さんにお礼を言ってその場を離れた。そして、離れた場所で達志は口を開いた。


「何もなさすぎだろ川崎は」

「え、まぁそうだね」

「おかしいんだよ。人が生活していく上でここまで人に依存しないなんて逆に稀だぞ」

「彼が普通ではないと」

「そうだ」


こいつの言う通り確かに何もなさすぎる。ここまで真っ白な違和感なんて他にない。親いない友達いない。ここから連想できることは1つ。


「なるほど。達志。これは俺の考えだが、川崎は巻き込んでも誰にも影響がないから使われたんだよな」

「俺もそう思う」


こう結論付けるのは必然。どこでその情報を組織側が仕入れたかは判明しないだろうが、どこかで聞きつけたのだろう。井出に良い報告ができる。


「達志ありがとうな。これで真相に近づいたと思う」

「おう。じゃぁ帰っか」


私達はこれ以上ない成果を採取して帰宅した。

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