11.20%

 その場で他に証拠がないか調べるため、お店の許可を取らなければならない。私は受付のものに確認しに行こうとすると見た事ある姿が登場してきた。井出晴人だ。やはりこの男には会うことになるのか、前回会った時は驚かされたからな。できればもう一度会って話は聞きたかった。好都合だ。仕事で来ているがタイミングを見て話をしたい。


「よう、警察の兄ちゃん。その部屋適当に調べていいぞ」


 わかっていたようだ。落ち着き過ぎていてこちらが焦る。


「井出さん。どうもありがとうございます。では、調べさせていただきます。」


 私は部屋に向かって


「捜索許可取れました」


 と言うと働きアリの如くテキパキと各々の職務に取り掛かった。すると、井出は私に手招きをしてきた。なんだろう。


「警察の兄ちゃん。やっぱり来たんやな。来ると思っていたけどな」

「そりゃ近い交番にいますからね」

「川崎康太有罪だったね」


 やはり、これのことか。流石に裁判の結果は公開される規則があるので知っていて不思議では無い。


「そうですね。分かっていましたが。」

「どうだ、あれから何か他にわかったか」

「いや、こちらとしては特に。井出さんは」

「取られた身分証明書は保険証と運転免許証。これくらいだ」


 それはまぁ驚きのない。期待していただけに腰が抜けるような解答でガッカリした。


「ガッカリしているようだが、これでも大事なことだろう」

「ま、まぁ」


 そういえばこちらとしても聞きたいことはある。


「なぜ、ここにマトリが」

「あぁこっちからな、お店の従業員が麻薬密売しているかもしれないって連絡入れたんだよ」

「お店から!?」

「そうだ。この店は1度警察に目を付けられてしまっているからな。そこに加えて麻薬関係しているとなると、お客さんからの信用が落ちてしまっているかもしれない。払拭するためには麻薬取締に協力するしかないのよ」

「信用ですか」


 華舞伎町でもそれは必要なのか。そうするとどうやらこの言葉は地雷であったらしい。


「なんだ、華舞伎町の風俗が信用という言葉を使ったことに疑問を抱いていそうだな」

「いや、そんなことは」

「いいか、俺たちみたいな世間のド底辺みたいな所で真っ当な仕事をしていないかもしれないけどな、需用があるから成り立っているわけよ。あんた達には必要ないかもしれんが、こんな店でも必要とする人はいるんだってこと。ここだって社会形成されてんだから当たり前だ。俺たちのお陰でもしかしたら性犯罪防いでるかもしれんのよ。偏見はやめといた方がいいぜ」


 性犯罪を防いでいるかは確証はないが、色々説得されてしまったな。


「すまない」

「別に説教するわけじゃないよ。華舞伎町担当するならそれくらい覚えていてほしいんだ」

「はい、覚えておきます」


 こういう店は基本的に偏見の眼差しが多いのだろう。それは私だけでなく世間的に。


「あの、彼女が麻薬売っているってなぜわかったのですか」

「彼女が担当する客の常連が日に日におかしくなれば気づくもんだよ。常習者は顔もおかしくなるし頻度も増える。彼女自身がこの店なら犯罪をしても問題ないと舐めてきていたのかな。それはこっちとしても許さない。どんな理由があろうとも」


 怖い…としか言えない。

 これ以上は話してる暇はなさそうだ。私は戻ることにした。

 戻ると騒がしく調査をしていた。騒がしい理由は新たにコカインが見つかったからであり、それ以上は何も見つからんだろう。この部屋を完全に売り場として活動している。言い逃れのできない証拠が見つかったので、彼女も有罪確定。川崎が今日有罪となったが、ここにも有罪の確定したものがいるということになるのだ。私の気持ちは複雑に絡み始めており、ここまで自分の周りに有罪判決を受けるものが現れるのは警察官として当たりなのかハズレなのか、どちらだとしても死神だろう。


「コカイン発見ですか」

「おぉ!部屋に隠しているとは気を抜いていたな。これで俺らの手柄はでかいぞ!」


 宝物を引いた少年のようにこの警察官は喜んでいる。気持ちは分からんでもない。


「よし、ほかも探せ!」


 躍起になり探していくが更なる宝物は見つかることはなかった。1つでも見つかれば終わりでいいじゃないかと心の中で吐露した。

 この部屋にいっぱい人がいても邪魔そうなので警察車両に連れていかれた女の方へと向かった。

 それに井出が帯同してきた。


「彼女の元に行くんだろ」

「そうですよ」

「なんで彼女が麻薬売買をしたか聞いてるか」

「え、聞いてないですよ」

「恐らくだけど、彼女には病気の母がいるからそのお金の工面だろう」


 そんな家庭環境があるのか


「なんで知ってるんですか」

「ここに入る理由がそれだった。ここの歩合制では足りなくなったからそれで法を犯してまでも母親を助けたかった。さしずめそんなとこだろ」


 あぁ、さっき彼女が言っていたことは「母ちゃん」だったのか。聞きたくなっかた言葉。彼女は母親を助けたくてこの仕事を選択して更に踏み込んだ仕事をしてしまった。母親のためには仕方がなかった。私達に見つからなければ彼女は母親を助けたかもしれない。


「知ってて通報したんですか」

「…俺も最初は反対しようとした。だけどなこれよりも彼女が闇の世界に入っていけば母親を助けれても会うことは出来ないかもしれない。真っ当な稼ぎ方で努力して欲しかった。そのためにも…」

「口で言えばよかったじゃないですか」

「言ったさ、3回もな。言った状態でやめてくれればこっちも目をつぶったよ。さっきも言った通りこれよりは俺達の店全体が汚されてしまう。それはタブーだ。1人を守ろうとしてお店自体の信用が崩れて従業員全員を路頭に迷わせると本末転倒だからな。そこからはオーナーの判断さ」


 井出達もやることはやって尚通報した。じゃあ彼女は逮捕されて正解か。そうなのか本当に。もっと逮捕されるべき人間はいるだろう。彼女がこの店を使わなかったら逮捕はされなかったかもしれない。井出が言っていたようにこれよりも深く組織などに突っ込めば戻れないかもしれない。ただ、それも全て仮定の話…なのか…

 なぜ逮捕されて不幸になる人間が私の周りに来るのだ。


「兄ちゃん考えすぎるな。あんたがやったことは社会的に正解なんだよ」

「わかっていますこれが仕事ですから」


 頭ではわかっているが頭では考えてしまうし、感情が邪魔をする。


「とりあえず彼女のとこへ行きましょう」

 行くと彼女は大号泣していた。そして何回も叫んでいた。「母ちゃんごめん」「母ちゃんごめん」


 と。やめてくれ、それ以上俺にこの言葉を刺さないでくれ。井出がそんな私をみて言葉をかけた


「兄ちゃん、あんたがやったことは合っている。彼女にこれ以上近づかない方がいい。自尊心が壊れてしまう。ちょっとあっち行こう」


 私は着いて言った。少し路地に入った。


「川崎のこともあって、逮捕することが全てではないと頭に浮かんでしまいました」

「私情挟まない方がいいぞ兄ちゃん」


 難しいものだ。この交番に勤務することでこの悩みは消えることは無さそうだ。その気持ちを押し殺して仕事しないとやっていけない。改めて感じた。


「すみません。ありがとうございます。落ち着きました」

「よかったよ」

「そういえば川崎の事件について何%くらいになりました。」

「何%…あぁ80%」


 な、高くなっている


「そんなに!?」

「あとは状況証拠さえ見つかれば大体わかるな」


 判明したのはなんの個人情報書を取られたかだけだぞ。それでここまで。


「詳しく聞かせて貰えますか」

「今は流石にだな。仕事中だろ」

「確かに」

「個人のLINEID交換しようや。なに、安心しな。悪用しないよ」

「え、」

「情報知りたいんだろ。俺としても言っていいと思っている」

「わかりました。絶対悪用しないでくださいね」

 というわけで連絡先を手にすることになった。

「じゃあ時間ある時呼ぶわ。こっちもまとめとくわ」


 そのまま戻ろうとしたがふと思い浮かんだことがある。


「井出さん。夜回り先生って知ってますか」

「どうした急に。夜回り先生?知らんな」


 なぜこのことについて話したか。前回あった時に聞けばよかったのだ。川崎のことを


「非行少年達に声をかけて回っている定時制高校の先生のことです」

「変わった人だな」

「話しましたがとてもいい人でした」

「ほう、それで?」

「川崎を知っているかもしれないです」

「お、たしかに」


 なぜ前回聞かなかったんだ。20歳の川崎なら夜回り先生のお世話になっててもおかしくない。


「川崎の事件については知らなくとも彼自身については知っている可能性は高いです」

「ん~聞く価値はありそうだな。兄ちゃん聞いてみなよ。俺が行ってもよく思われないだろうからね」


 井出が行けば怪しまれることは間違いない。これは私が行くしかない。


「わかりました」

「よく思い出したなその先生のことを。メンタル状態最悪だったのに」

「なぜか急に」

「ま、頼むわ」

「あ、無線」


 タイミング良く無線が入ったので戻ることにした。私はふと少し遠くを見た。

「ん?」

「どした、兄ちゃん」

 去り際に何か私は見た事あるものを見た気がした。それがまだ何かは分からない。まだ…


 田村さん達のところへ合流。集められた私達の仕事はこれで終了。あとは本部の人間達がやることなので解散される。私はそんなことよりも早くあのゲームセンターの前に行って夜回り先生(中谷さん)に会いたい。だが、私たちは団体で交番に帰っているので抜け出すことは不可能。

 田村さん達を連れて行くと事情説明しないといけないので、厄介。白井さんと田村さんは談笑しているけどもその雰囲気に便乗して話すことは不可能。


 パープルから交番はさほど遠くはないので、今日行くことは不可能か。そして、今回は警察の恰好をしている。非行少年達には警戒されるし中谷さんにも警戒されてしまう。素直に今日は諦めよう。後日中谷さんに会うことを井出に報告した。

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