第47話 終わりのR/植物人間

 『続いてはこちらのニュースです。

 これは昨日見つかった植物化した人間です。(刺激的な映像のためモザイクが施されています)

 昨日未明、警察に「植物人間がいる」との通報が入り、駆け付けたところ、東京都在住の三宅俊樹さん(65)が死亡しているのが発見されました。

 死因は、全身から生えてきている植物から、栄養分を吸われたことによる、急性の栄養失調と発表がありました。警察は、ドレードの関連を視野に調査をしています』


 朝から怖いニュースがやってるな……


 グレイの件がほとぼりが冷めて、俺たちは芽衣の家でゆっくりと過ごしていた。

 そうしていると、飛び込んできたのが、あのニュースだ。


 「なにこのニュース……こわ」

 「確かにね、これってマラークなのかな?」

 「いや、マラークは今まで動物系の存在しか来ていない。どちらかと言えば、バトルトルーパーの可能性があると思う。そもそもマラーク被害なら、親族も狙われているはずだ」

 「「確かに……」」

 「感心するな。それくらいは予想ついてくれよ。今、マラークの真実に一番近いのは俺たちなんだから、しっかりしないと」


 そうは言うが、俺たちはまだまだ高校生。

 その責任を負うのは少しばかり無理がある。


 だが、戦う力を持つ以上は、責任がある。それに、守れなかったとき、すごく後悔するから。


 そうして俺たちは、朝食を食べてから学校に登校した。


 俺だけは、2人と別れて、部室に向かっていった。

 そう言えば、サブはどうしているんだろうか?最近、姿を見せてこないが……


 サブのことを考えはするが、結局、俺はなにもすることなくただ本を読んで時間を潰すだけだ。だが、あまり本が好きではない俺は、中々苦しいものがある。


 そうして時間を潰していると、休み時間に部室に入ってくるものが来た。


 ガラガラガラガラ


 「失礼します……」

 「ここに来るってことは」

 「はい、依頼です……」


 最近は依頼もなく平和だったのだが……

 もう、学生らしく、痴話げんかの仲裁をしてくれー、とかの依頼が来ないかな?


 「で、依頼内容は?」

 「わ、私、怪物かもしれないんです……」

 「え?」


 そう言って、依頼人はバトルナイフを制服から取り出した。普通の依頼は来ないようです……


――――


 依頼人の名前は、青木おうぎネネ。高校2年。つまり、俺より一つ上の学年というわけだ。


 依頼内容は、自分を監視してほしいとのことだ。ある日、突然バトルナイフを持っていて、意識が消えることが最近頻発するようになったらしい。


 しかも、意識が戻るときは決まって、目の前の人間が植物化しているとのことらしい。


 最近のニュースの犯人は自分なのではないかと、毎日不安らしい。


 今回の依頼の厄介なところは、持っているだけで違法なものを持っているが、本人にその覚えがないということだな。だが、こういうのはうちの専門だ。

 こうなった以上は、調べざるを得ない。


 「取り合えず、そのナイフ貸してくれない?」

 「うん……いいけど」


 そうして受け取ったナイフに書かれた名前は「seed」。種か

 なら、朝の事件は、種を植え付けられた人間の姿、というわけか……


 そうして、俺は放課後にもう一度ここに来るように言って、依頼人には授業に戻るように言った。


 昼休みになって、俺は芽衣と澄香の2人には、今日、依頼があったことを伝えた。

 また来た変な依頼に、2人はあきれてはいたが、協力してくれるそうだ。


 「それにしても、私たちのところには怪物関係の依頼多いわね」

 「そういう運命なんじゃないの?ほら、澄香と大雅って能力者なわけだし」

 「まあ、そうなるのかもな。もしかしたら、俺たちは運命的に戦うことを強制されているのかもな」

 「難儀な運命ね」

 「とにかく、依頼者の素性はわかったの?」

 「まあ、戸籍とか調べて、家庭状況までは調べた」


 俺は、昼休みまでに調べたことを2人に伝えた。


 青木ネネ、16歳。高校2年の女子。家庭は、超裕福というほどの余裕はないが、ごく一般的な収入の家庭。親がギャンブル狂いといった、そういう情報はなかった。


 だが、気になるものがあったのは事実だ。


 「通院歴?」

 「ああ、最近は良くなったのかは知らないが、通院していないみたいなんだがな。本当に1年前まで、病院で診察を受けていたんだよ」

 「原因は?」

 「多重人格症状だった」

 「それって、ドラマでよくある?」

 「ああ……」

 「気になることがあるの?」

 「そうだな……診察をやめているのに、彼女の記憶が途切れることがあるらしい。だとするのなら、多重人格症状は治っていないではないか?それならなぜ、通院をやめた?」

 「確かに……」


 この違和感は、どうしてもぬぐえない。

 彼女の言葉が、ちぐはぐのような気がしてならなかった。


 だが、依頼は依頼。放課後になると、俺は依頼人の青木と合流した。


 芽衣たちには、青木の学校での噂を探ってもらおうということになった。


 学校からの帰路、俺は青木の家まで送ることに名たので、現在並んで歩いているところだ。だが、会話がない。

 ものすごく気まずい雰囲気がそこに流れている。


 「青木先輩は、なんで多重人格症状を言わなかったんですか?」

 「な、なんでそれを……!?い、いや、それが君の……」

 「……?なんですか?」

 「な、なんでもない。そ、そのね……嫌だったんだ。言うの。このことで昔から嫌な目に遭ってきたし……」

 「……わかった。でも、次からはあんまり隠し事をしないでくれ。こちらも調べがつかないことがある」

 「ご、ごめん……」


 今のは、内容がよくなかったが、こんな風にしゃべり始めると、最終的に青木が委縮してしまって、しゃべれなくなってしまう状況が続いていた。

 もっと、色々な情報が欲しいから、彼女とはもう少しコミュニケーションを取りたいのだが……


 すると、突然青木が頭を押さえて、苦しみ始めた。


 「ぐ……かは……や、やめて……ぱぱ……」

 「おい、大丈夫か!?」

 「いや、いやあああああああああ!」


 突如、彼女が放った衝撃波に、俺は吹き飛ばされた。


 周辺にいた民間人も、近くの壁まで吹き飛ばされているようだった。


 「はあ……はああああああああああ」

 「ちっ、記憶がないのは本当か……、まあ疑ってないけどさ!元の青木を見てると、殴りづれえなあ!」


 衝撃波が止み、青木がもう一度姿を現すと、彼女は怪物に―――バトルトルーパーに変わっていた。



 だが、気付くべきだった。ナイフは俺が持っていたはずだったのに……

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私立高校の探偵事務所《ホーラゴン》 波多見錘 @hatamisui

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