第33話 勃発!Bの波乱/最後の英雄
「父さん……」
「ん?由香、なぜこんなところにいるんだ?仕事場には来ないように言っているだろう」
「【バトルトルーパー】って知ってるか?」
風見由香が父に向かってそう言うと、研究所内の空気が止まった。
それと同時に、彼女の父が焦り始める。
「な、なぜそれを知って……。由香、逃げるんだ!」
「もう遅いわよ」
父が周りを見た一瞬の隙に、由香は研究の第一人者に拘束される。
「な、ドクターシャルロット……」
「よくも研究を口外してくれたわね」
「ま、待ってくれこれは何かの間違いだ!私は娘はおろか家族には仕事の話はしていない」
「事実、あなたの娘は知っているようだけど?」
そう言って、風見由香を前に出すと、辛そうな顔で父に問う。
「なあ、人体実験って本当なのか?」
「そ、それは……」
「そこのぼんくらの代わりに答えてやるわ。そいつらはこぞって拉致した人間を実験にかけていたわ」
「そんな……」
「違うぞ!私はお前たちを人質に―――」
「言い訳をしないでくれ!父さんはその人の幸せを奪ったと思わないのか?」
「……っ!?私だって、精一杯だったんだ……」
そう言って辛そうな顔をする風見の父。
そしてそれを見て、あざ笑うのは誰でもないシャルロットだった。
「もう誰にも研究の邪魔はさせない。あんな
彼女が思い出すのは数年前の学会での出来事。
学会での論文発表で高い評価を受けたのはシャルロットではなく、彼女が見下していた東洋人だった。
世の中には公表されていなかったが、ドレードの被害はこのころから年に1、2件ほど確認されていて、増加すると予測されていたドレードの出現に対しての対抗策の論文だったが、シャルロットは自分以上の研究なんてないと思っていた。
シャルロットの研究は、怪物に対抗するために、人間自ら薬剤の効果で超人に進化する、というものだった。
彼女の算段では、量産は決して容易ではないが、数の生産は可能で一般人がこれを使えば最高の戦力になると思っていた。
だが、前述のとおり評価を受けたのは、芹沢という東洋人だった。彼女の開発したガルガウズは、初期型こそ装着車の命が文字通り消えるものだったが、2号機であるΣは見事その弱点を克服したものだった。
それに比べ、バトルトルーパーの薬剤は非常に中毒性が高く、毒性も高い。継続して撃たなければ禁断症状にかられるのに、継続して撃つと死に至る。そんな致命的な欠点を彼女は軽んじていた。故に評価されなかった。
これが芹沢とシャルロットの大きな違い。
芹沢は命を重んじ、シャルロットは結果を重んじた。
故に、目的は同じなのに全く危険性の違うものができてしまった。
学会が求めたのはドレードに対する対抗策ではあったが、人間を使い捨ての駒にすることが目的ではなかった。だからこそ、シャルロットは受け入れられない。いかに、戦争が始まろうと、命を重んじるこの国にそんなものは受け入れられない。
勝利しても、その勝利を喜ぶものがいなけれな意味がないのだ。
だが、その結果は彼女をゆがませた。いつか学会を見返すために。芹沢の開発したガルガウズをボコボコの鉄塊に変えてやるために。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「これで私は最強だ!」
「調子に乗るな!姿が変わっただけだろ!」
俺は、姿が変わったシャルロットを思いっきり殴る。だが、鉄と鉄のぶつかる音がして、俺の拳が負傷した。
かってえ……
「なんだ、この硬さは……」
「あはははは!これがロンズデーライトの輝き!これがダイアモンドを上回る硬度の力。もう誰も私を倒せない!」
「クッソ……防御を突破できないなら、これならどうだ」
俺はこの間発言したパワー特化の姿に変わる。
変化として、俺の龍人形態の時は体が黒色なのだが、パワー特化に変わると、体に赤のラインが入る。
まあわかりやすく言うと、タイプチェンジだ。
「色が変わった?」
「ただ無意味に色が変わったわけじゃねえぞ。はあああぁぁぁ……」
俺は、拳にありったけの力を込める。
今の状態なら、いつもより大幅に強力なパンチが出せる。逆に言うなら、この姿で仕留められないならかなり厳しくなる。
「だあああああ!―――おらあ!」
「ぬ―――!?」
ドゴオオン!
俺の拳が衝突した瞬間、轟音を立ててシャルロットが吹っ飛ぶ。煙で姿が見えないが命中した。
今のはだいぶ手ごたえがあった。
しかし、煙の中に影が見える。
そんな馬鹿な!大抵のものなら砕けるような威力だぞ!
「ふー、ロンズデーライトじゃなかったら耐えられなかったかもしれないわね。でも、耐えたわ。あの、ドレードを倒し続ける龍人を倒したとなれば、私の実験は完璧なものとなる!死ねえ!」
「なっ!?―――がはっ!?」
シャルロットが高らかに宣言すると、彼女から鉄棒が生えてきて、俺の腹に叩き込まれ、俺を吹っ飛ばした。
俺は後方の壁に叩きつけられ、その反動で落ちてきた瓦礫に埋もれてしまう。
「大雅!クッソ、私は世間に見つかってないから使うのは憚れるけど、もう関係ない!私も行く!」
そう言って、澄香もカラスの姿に変わって戦い始める。
「え?阿内さんも?」
「な、2人目の未確認だと」
「2人とも早く安全なところに……、大雅でかなわないならまずいわ」
澄香は、何発か拳をシャルロットに向かって入れるも、逆に彼女の拳がダメージを受けているのか、苦悶の声を上げる。
「ぐ、ぐうう!」
「あはははは!新しい未確認もこんなもんよ!これで、これで私の研究はあのジジイたちにも、あの東洋人にも認められる!」
「だ、だめだ……!」
「あ?」
俺たちがやられる中、か細く恐怖に染まった声で叫ぶ者がいた。
風見由香。依頼人だ。なにをしているんだ。
「だめ……だ。お前たちの研究の全部を知るわけじゃない。だけど、人の犠牲の上に成り立つ研究はろくなものじゃない!」
「なんだお前?芹沢とかいう女と同じことを言うのか?」
「私は、力なんてない!でも、それは間違ってる。と、言うことは出来る。見てるだけじゃ始まらないんだ!」
「うるさいなお前、死ね」
グサッ
シャルロットの放った鉄棒は、風見由香を貫通―――せず、彼女を突き飛ばした父親の腹部を貫いた。
「ぐふっ……」
「父さん!?」
「まっすぐでいい子に育ったな、由香。カッコいいぞ」
「父さん!なんで!」
「私だってお前の父親だ。娘を守るのは当然のことだ」
「そんな……」
腹部に穴が開いている父親は、懐に手を伸ばす。震える手で何かを探しているようだった。
「私だって男だ。少年時代、なんでも助けるヒーローに憧れた」
「ああ?なに言ってやがる」
「だが、私はあいにく運動が苦手でな。ただ、頭使うことは得意だった。これで世の中を幸せであふれるようにしよう。小さい頃の私はそう思い、科学者を目指し夢をかなえ、結婚し娘もできた。
君のような独りよがりの自己満足研究者の君には理解できないだろうけどね。だからこそ、君に家族を人質に取られたとき、心底悔しかった」
「ちっ、なんだクソジジイ。この期に及んで悪口か?嫌がらせのつもりか?」
「男なら誰かのために強くあること。それが、それだけでもできれば
そう言って、懐からナイフを取り出す風見父。そのナイフには「Sword」の文字が―――
「なぜそれを持っている!」
「私は―――私は、娘を守る
そう言うと、彼はナイフを自分の胸に刺した。
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