第32話 勃発!Bの波乱/龍人の少年

 「お願いだ!娘には手を出さないでくれ!」


 研究所の中には悲痛な声が響いていた。懇願するような声を上げる男の前には、高校生であろう制服を着た女子高生がいる。

 その女子高生は男を見ながら涙を流している。


 「父さん、こんな実験に手を出してるなら、罪を償ってくれ……。お願いだ。これ以上誰も傷つけないでくれ……」

 「違うぞ!由香、話を聞いてくれ!」

 「いやだ!私は、もう父さんの嘘を聞きたくない!」

 「もういいか?」


 そんな会話をする二人に話しかけるのは、やり取りを冷淡に見ていた女だ。

 女の正体は、シャルロット=アンバニー。昔、ガルガウズと競合する研究、バトルトルーパーの研究をしていた女だ。


 「私は、結果が欲しい。鍛えられた潜在能力を持つもの以外にも効果があるのか見てみたい」

 「やめろ!それを娘に刺すな!」

 「お前に拒否権はないんだよ。娘に研究内容を教えたお前にはな」

 「だから、私はなにも言っていない!」

 「ほら、見せてやるよ。お前の娘が進化する様をなあ!」

 「いやあ……なにをするつもりなの……」


 シャルロットの手に握られているのは小さいナイフだ。だが、普通のナイフと違って風見の肌に刃先を近づけるとわずかに発光を始める。


 そして、柄の部分には【Lonsdaleite】と書かれている。その異様なナイフを風見由香に刺そうとする瞬間、突如シャルロットの部下が飛んできた。


 「ぶげあ!?」

 「な、なに?なんで、警備員がこんなところにいるのよ!」

 「なんか、やばそうだけど間に合ったっぽいな」

 「だ、誰!?」


 間の抜けた、それでいてしっかりとした怒気をはらんでいる言葉を発したのは、風見由香が依頼を入れた探偵だった。


 「俺か?俺は、部活で探偵やってる奴だ」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「なにこの厳戒態勢」

 「まあ、なんかあったのは確かだな」


 俺たちは、研究所に潜入したのだが、入ってすぐに物陰に隠れることになってしまった。

 理由は単純で、武装した警備員がそこら中をうろうろしてるからだ。


 「警備員が拳銃装備ってできるの?」

 「普通は無理。警備員って法律上は、警察とかと違って一般人だから。銃刀法が適用されるの」

 「よく知ってるな芽衣」

 「これでも勉強はしてるのよ」

 「はいはい」


 芽衣の言う通りだとしたら、絶対にこの状況はおかしい。これに風見先輩が関与してるなら、彼女は絶対に危ない状況にある。

 依頼人にけがをさせるなんて、探偵失格かな?


 「というわけで、【眠ってろ】」

 「「え?どういうわけ?」」


 俺は力を使って、半ば無理やり道を開ける。

 あまり時間を食ってられない。


 「二人ともいくぞ。澄香は力を使うときは細心の注意を払え」

 「わかった。できるだけ、大雅に丸投げすればいいのね」

 「ちょっと待てや、ゴラァ!」

 「ちょ、二人とも、こんなところで喧嘩しないで!」


 とりあえず、間取り図は事前に図書館で調べたし、研究室の場所も知ってる。だから、直行することは出来る。


 急ごう。


 そう考えると、それを待っていたといわんばかりの勢いで突っ込んでくる人影があった。


 「らっせええええええい!」

 「な、なんだ!?」

 「ここから先には通さねえ!シャルロット様が通すなと言っている!この部屋だけにはいかせねえ!」

 「こいつバカか?」


 今の言葉で、俺たちの行先は決まった。

 研究室はそこの隣の部屋だが、まずはそっちが先だ!


 「どけ!そこは俺の―――」

 「何度言ったらわかる!ここはとおさ―――ひっ!?」

 「―――俺の通る道だっ!」


 バキッ


 俺は拳を振り抜いて、思いっきり目の前の男を吹っ飛ばした。


 「ぶげあ!?」


 部屋の中に入ると、風見先輩が男数人に拘束されなにかを刺される寸前だったようだった。ちょっと、それはないんじゃないかな?


 「なんか、やばそうだけど間に合ったみたいだな」

 「だ、誰!?」

 「俺か?俺は、部活で探偵やってる奴だ」

 「ふざけるなあ!お前たち!」

 「「イエッサー!」」


 女の掛け声とともに、スキンヘッドの男2人ほどが、俺に殴りかかってくる。


 だが、弱すぎる。致命的に弱い。アイスロードの力を知っている俺としては、全然足りない。


 「弱えよ!ガキの遊びじゃねえんだぞ。もっとまじめに来いよ」

 「このクソガキ!」

 「もう殺す!」

 「上等だよ!」


 俺は、飛び上がって2人の頭に蹴りをかます。すると、一撃で伸びてしまった。

 だから、弱いって言ったじゃんか。


 「有藤君?」

 「風見先輩、助けに来ました。ていうか、先走るなって言いましたよね?」

 「う、すまない……」


 先輩はそうやって謝る。いや、別に責める気もないんだけど……


 「うりゃあ!」

 「な!?がはあ!?」

 「今、拘束をほどきます。澄香がやってるうちに先輩はこっちに」

 「あ、ありがとう」


 先輩の方も救出完了。後は、諸悪の根源をつぶすだけだ。研究資料を見て、すでに顔は知っているぞ。


 「シャルロット=アンバニー。年貢の納め時だ」

 「ふん!高校生のガキごときに遅れをとるなんて……。ちっ、使えないわね。まだ一般の虫どもに見せるのは嫌だけど、見せてあげるわ。私の研究をね。見せてやりなさい、レオルド」

 「イエッサー!」


 シャルロットが声をかけた男は、懐からナイフを取り出し、それを自身に刺した。

 一瞬だが、見えた。ナイフの柄の部分には【Gatling】の文字が書いてあった。なんの意味が?


 そう思ったのもつかの間、ナイフは形を失い光となって男の中に入っていった。

 瞬間、男の体が変化し始めて、全身から銃口のようなものが飛び出てくる。まるで銃の怪物のように。


 「あはははは!見るがいいわ!これが私の研究の成果!【バトルトルーパー】よ!」

 「これがバトルトルーパー……」


 違う。俺が見た資料にはナイフなんてなかった。怪物に変異するには、注射器で薬物を投与していくものだった。

 だというのに、これでは―――


 「驚いた?従来の研究とは違って、これは変身の解除もできるわ。これで、ドレードに対抗できるわ!民間人が力を持てば、確実な解決策になるわ!」

 「それは違う!」

 「はあ?」

 「力を持つことに意味はない。ましてや万人が持つなんてもってのほかだ。てめえは人間全員が善人だとでも思ってるのか?力を持つ人間がごく限られたものだけでいい。力に呪われる人間はもういらない」

 「なにを言ってるの?やりなさい、レオルド」

 「イエッサー!」


 女の言葉に返事をした男は、俺に砲身を向けて、ガトリングのように俺に弾幕を張ってくる。

 その影響で、俺の姿は煙で見えなくなる。


 「有藤君!」

 「な……シャルロットお!なぜ、無関係の一般人を的にした!」

 「そんなの決まってるじゃない。バトルトルーパーを知ってるからよ」

 「勝手に死んだことにすんじゃねえよ」

 「「「え?」」」


 煙が止み、俺の姿が見えるようになった瞬間、その場の全員が息をのんだ。なぜならば―――


 「な、なぜおまえが……」

 「あ、有藤君が……」

 「あの少年が……だから、人を守っていたのか!」


 俺の姿は、最近世間を騒がせている龍人の姿になっていたのだから。


 「レオルド、ひるむな!私の研究は完璧なのよ!」

 「イエッサー!」


 そう言うと、男だった怪人が次弾の装填のために力をため始める。

 そうはいくかってんだ。


 「【加速】」

 「ぐぶっ!?」


 俺は加速した状態のまま、相手の頭部を掴み向かい側の壁にそのままたたきつけた。


 さて、ここからどうしよう。できるのならあの女が言ったように変身を解除したいのだが……


 俺は、怪人を宙づりにして考える。すると、突然大声で俺に語りかけるものがいた。


 「少年!そいつが使っているバトルナイフは、使用者に必要以上の負荷がかかると、一定量のダメージをもって体外に排出されて、ナイフが砕け散る。ありったけの一撃を加えてやれ!安心しろ、ナイフが砕ける代わりに使用者は死なないようにできている。私がその機構を作ったから、確実だ!」


 そうかい。なら、遠慮はなしだ。


 「【一点集中】……。歯あ、食いしばれ。舌嚙むぞ」

 「ひ、ひぃ……」

 「ふん!」


 ズンッ!


 そんな低い音とともに男の怪人化が解けて、ナイフが体の外に排出され砕け散った。

 声の通りだな。


 「ふざけるな……」

 「あ?」

 「私の研究は、一撃で終わるほどヤワではない。こうなったら、私が殺してやる!お前のようなドレードを倒したとなれば、私の研究は認められる!」

 「ちっ、もう一本あるのか」

 「変身!」


 シャルロットは、自身の体にナイフを刺し、鉱石の怪人になり果てた。


 「これで、私は最強だ!」 

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